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キノコ界に衝撃!「バカマツタケの完全人工栽培に成功」を検証する(月刊 きのこ人)

ガジェット通信 / 2018年10月21日 15時0分

今回は鳥居さんのブログ『月刊 きのこ人』からご寄稿いただきました。

キノコ界に衝撃!「バカマツタケの完全人工栽培に成功」を検証する(月刊 きのこ人)

先日、多木化学株式会社が企業広報で衝撃的な発表をした。

『バカマツタケの完全人工栽培に成功 』

「バカマツタケの完全人工栽培に成功 (PDF)」2018年10月4日『多木化学株式会社』

https://www.takichem.co.jp/news/news20181004.pdf

バカマツタケはマツタケに近縁のキノコである。松茸とは発生時期がずれていること、松じゃなくて広葉樹の下に生えることから「おかしなマツタケ」「ちょっと狂ったマツタケ」とされて、いつしか『バカマツタケ』などという残念な名前をつけられてしまったが、香りは本家マツタケをしのぐとも言われている。最近はマツタケの姿を見つけるのが難しくなったが、バカマツタケも珍しいキノコであり、私もまだ見たことがない。

そのバカマツタケの完全人工栽培に成功したというのである。

ここで注目すべきポイントをいくつかあげよう。

 

(1)バカマツタケは菌根菌である

バカマツタケは菌根菌、生きた木の根にとりついて樹木を助けつつ栄養をもらうキノコである。菌根菌はデリケートで栽培が非常に難しい。まずキノコを作るどころか、シャーレで菌糸を培養する段階からうまくいかないことも多く、かつて菌根菌の完全人工栽培は不可能とすら言われていた。

実際これまでも、無菌で育てた樹木の苗木に菌根菌を植えつけて植樹するタイプの不完全な人工栽培にはたくさんの前例があるものの、今回のように完全に人工的環境で育てたという例は非常に少ない。特にマツタケ近縁種としては初めてで、これは定説をくつがえす画期的な発見だ。

 

(2)バカマツタケの子実体(キノコ)を発生させるシグナルを発見した

マツタケは過去数十年にわたり栽培が試みられてきたが、ほとんどうまくいかなかった。栽培がうまくいかない最も大きな原因は「菌糸が培養できたのにキノコを作れない」ことにある。

ふつうの栽培キノコ(腐朽菌)は、ある程度の湿度や光の条件を満たしたえうえで〇〇℃を下回るとキノコが発生する、などといった簡単な条件でキノコを作るのに対し、マツタケはそんな簡単にはキノコを作ってくれない。

おそらく、温度・湿度などの条件にくわえて微量な化学物質が発生の引き金であったりするんだろうが、まだよくわかっていない。

しかし、今回のバカマツタケ報告ではそのシグナルを見つけたらしいことが書かれている。これまでに発生した数が14本ということで、まだ不完全かもしれないが、大きな壁を突破できたのは間違いない。

 

(3)菌糸の培養スピードが早い

マツタケ栽培の大きな障壁となっていたのがもうひとつある。菌糸の培養スピードが非常に遅いことである。

培養のスピードが遅いと研究がちっとも進まないのはまあ我慢するとしても、培養管理中の維持費(特に光熱費)が余分にかさんでしまうのは痛い。仮に栽培に成功したとしても、生産コストが高くついてしまうからだ。さらに、培養期間が長い分、培養施設もより広いものが必要になる。せっかく作った人工栽培マツタケが天然モノと同じ値段だったら、ちゃんと売れるだろうか?

これまでの研究で、マツタケでもさまざまな添加物をくわえることである程度のスピードアップをはかれることがわかったようだが、今回のバカマツタケは培養期間が3カ月とのこと。なんとシイタケと同じ速さである。このスピードで回転できたらかなりの効率生産が可能だ。

 

(4)東証一部上場の企業広報における発表である

今回の発表は企業の広報による。新聞や雑誌などでの発表ではない。話をふくらませたり、ねじ曲げたりすることもあるマスコミを抜きにした一次情報なので信頼がおける。

ましてや年商300憶円の、しかも上場企業である。投資家に対して責任を持たなければならない以上、そうそう出来もしない大風呂敷を広げるわけにはいかない。

ちなみに多木化学の株式は今回の発表後に買いが殺到、3日連続で値がつかなかった。株価は発表前の5150円から10月11日時点で9230円、たった4営業日で1.8倍にまで急騰した。

気になる今後の展開

「キノコの発生シグナル」と「培養スピード」という大きな壁をすでに突破している時点で、この研究はかなり有望と言っていい。少なくともこれまでの研究とは段違いの成果だ。数年後の食卓に栽培マツタケが上がることは充分にありうる。

さて、今後気になるのは

(1)多木化学がどのように事業化するつもりなのか?

(2)バカマツタケの生態について

(3)他の菌根菌への応用が可能か?

(1)については、肥料・化学品メーカーである多木化学が、キノコ生産・販売のノウハウを持っていないのが懸念される。

まず生産ラインを確立できるか、それができたとしてどれだけ生産するのか、どんな価格で売るのか。どんな形態で売るのか。

いくらマツタケが日本のキノコ界の横綱だといっても、これを収益に結びつけるまでには多くの難題がある。

それをどのようにクリアしていくのか?とても興味深い。

(2)今回の発表から、バカマツタケが腐生性(木材などの有機物を分解して栄養にする性質)を持っていた、と考えていいように思うのだが、実際はどうなんだろうか。

マツタケ研究の権威・小川眞は、バカマツタケに多糖類を分解する力はなく、扱いも難しい、栽培はあまり有望ではない、としていた。

ただ、系統によって性質が違うともあり、個体差が大きいのかもしれない。

このあたりのバカマツ生態の解明は、キノコフリークとしてとても気になっている。今後の研究に期待したい。

(3)これも気になるところだ。たとえば菌根菌であるホンシメジは、㈱タカラバイオにより腐生性の強い系統が発見されていて、すでに商品化している。他にも栽培可能な菌根菌があるんじゃなかろうか。

ただ、研究する価値のあるほど儲かるキノコの種類はそうそうない。ヨーロッパでスター的存在のポルチーニ(ヤマドリタケ)・トリュフ・モレル(アミガサタケ)、あとは個性の強いコウタケあたりか。

まだまだクリアしなきゃいけないことは山積みかもしれない。それでも、できたら500円くらいでバカマツタケが買える日が来たらいいなぁ、と切に願っている。

 

執筆: この記事は鳥居さんのブログ『月刊 きのこ人』からご寄稿いただきました。

寄稿いただいた記事は2018年10月20日時点のものです。

―― 面白い未来、探求メディア 『ガジェット通信(GetNews)』

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