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流出防止のため翻訳家を地下室に隔離……前代未聞の実話が元になった『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』:映画レビュー

ガジェット通信 / 2020年1月25日 12時0分

“事実は小説より奇なり” - 思わずそんなことわざを言いたくなるような実話を元にした映画『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』が公開中です。

全世界で売り上げ10億ドルの超ベストセラー小説『デュダリス』。謎の作家オスカル・ブラックの正体を唯一知っており、彼と独占契約を結んでいる出版社社長のアングストローム(ランベール・ウィルソン)は、ついにシリーズ三部作の最終章の刊行が決定すると、世界一斉発売を成功させるため前代未聞の計画を実行します。

デンマーク、ポルトガル、スペイン、中国、イギリス、ロシア、ギリシャ、イタリア、ドイツの9か国からやってきた翻訳家たちが連れてこられたのはフランスの豪邸。ゴージャスな館で優雅に翻訳作業を……と思ったのもつかの間、あてがわれたのはかつての持ち主が作った地下シェルター。スマホなどすべての電子機器は没収され、ネットは監視の下での共有PC限定、おまけに辞書は紙の本だけ。週一の休みすら館から出られず、唯一のなぐさめは一流シェフの手料理と屋内プールのみ。そんな息の詰まるような状況でも、彼らには、あの『デュダリス』の結末が人より先に読める!という大いなる期待があったのですが、実はそれすらも不可能という、ありえない契約に縛られることに。

言語は違っても仕事は一緒。一つの部屋で毎日作業をしていくうちに、少しずつ心を開いていく翻訳者たちでしたが、ある日社長に、“冒頭の10ページをネットに流出させた。500万ユーロ払わなければ、続きの100ページも漏洩させる”という脅迫メールが届きます。

ここから物語は一挙に不穏な空気に包まれ、驚愕の真相に向かって怒涛の展開を見せます。犯人は一体誰? その目的は? 少しずつ明らかになっていく各人の背景と事件とが巧妙に絡み合い、周到にはりめぐらされた罠で観客を翻弄する脚本はお見事の一言! ギリギリの緊張感を漂わせる役者たちは全員が見ごたえがありますが、ロシアの翻訳家カテリーナを演じるオルガ・キュリレンコの小説キャラコスプレは、物語の謎を一層深めます。

監督と共同脚本は日本でも大ヒットした映画『タイピスト!』(2012/仏)のレジス・ロワンサル。前作はタイピストという地味な職業をまさかのスポ根ものに仕上げた痛快作でしたが、本作も劇中で「透明人間」と呼ばれるほど裏方の仕事を逆手にとって、極上のサスペンスを作り上げました。ご存知の通り、海外と違って日本では訳者名は表紙に載りますし、いままで気にしなかった人もこれからぜひ注目してくださいね。いろいろ読んでいくうちに、自分に合うリズムを持った翻訳者さんがきっと見つかるはずですよ!

最後に、この映画の原案となったまさかの事実とは、なんと『ダヴィンチ・コード』のダン・ブラウンが2013年に新作『インフェルノ』を出した時、出版社が実際に5か国11人の翻訳者たちを2か月間軟禁(?)し、その年の5月に世界同時刊行を果たしたのでした。ちなみに同シリーズをずっと担当されている翻訳家の越前敏弥氏に伺ったところ、『インフェルノ』日本語版の刊行は11月だったため、幸い閉じ込められずに済んだそうです。ご無事でなにより。

【書いた人】♪akira

翻訳ミステリー・映画ライター。ウェブマガジン「柳下毅一郎の皆殺し映画通信」、翻訳ミステリー大賞シンジケートHP、「映画秘宝」等で執筆しています。

(C)(2019) TRESOR FILMS – FRANCE 2 CINWMA – MARS FILMS – WILD BUNCH – LES PRODUCTIONS DU TRESOR – ARETMIS

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