虚実入り交じる都市伝説をどう映画化するか? 映画『犬鳴村』清水崇監督インタビュー[ホラー通信]
ガジェット通信 / 2020年2月14日 23時0分
「近くの小屋には死体が山積みされている」「トンネルに入ると車に乗っていた男性が突然笑い出し、精神病院へ20年間入院した」といった不気味な証言が多数あり、心霊スポットとして知られている福岡県の旧犬鳴トンネル。その先にはかつて、地図から消された村“犬鳴村”が存在したという――そんな都市伝説を映画化した『犬鳴村』が2/7より公開中だ。
臨床心理士の森田奏の周りで突如、奇妙な出来事が起こり始める。奇妙なわらべ歌を歌い出しおかしくなった女性、行方不明になった兄弟、そして、繰り返される不可解な変死。それらの共通点は心霊スポット“犬鳴トンネル”だった。真相を突き止めるため、奏は犬鳴トンネルに向かうが、その先には決して踏み込んではいけない、驚愕の真相があった――。
監督・脚本は『呪怨』シリーズの清水崇。嘘か真か、真相が分からないことが魅力でもある都市伝説を題材に、真相を知ることで余計に恐ろしさが増すような物語に仕上げている。実際に現地にも訪れたという清水監督にお話を伺った。
――『犬鳴村』、非常に恐ろしかったです。今回は「とにかく怖いものを作るぞ!」というスタンスだったんでしょうか。
清水監督:そうですね。プロデューサーの紀伊宗之さんとの狙いもあって、今回は古かろうとがっつりJホラー描写をやろうと思っていました。『犬鳴村』は、ホラーが苦手な人もホラーが好きでよく観ている人も喜んでくれるんですよ。ホラーをあまり観ない人は「意外と大丈夫だった。むしろ泣けた」と言う一方で、ホラーをよく観る人は「最近なかったようなホラー映画を観れた!」と喜んでくれる。
――“犬鳴村”という都市伝説についてはもともとご存知だったのでしょうか。
清水監督:2ちゃんねるとかのネットで騒がれてたときに、名前だけは聞きかじっていたんですけど。紀伊さんから、「“犬鳴村”って知ってる? 映画にならないかな」と言われて。
最初は、「肝試しに行った若者たちが次々消えていく」とか「忍び込んだらとんでもないものが映っていた」っていうようなフェイクドキュメンタリータッチのものをイメージしたんです。でもそういうのは低予算のビデオシリーズでもあるし、最近では韓国の『コンジアム』とかもそうだし。ガジェットが発達しただけで、若者が消えていくって意味では『13日の金曜日』と一緒なので。そうではないドラマの要素やメッセージが入ったもの、自分が撮るなら劇映画にしたほうがいいと思いましたね。
そんななかで、紀伊さんの要望として「横溝正史的な、“忌まわしい因習”のような日本の怖さを入れたい」というのがあって。そこで、僕が最近怖いと感じている“血筋”をめぐる縁、そういう目に見えない因果応報的な怖さを入れたらどうかと。血筋の不安が直接心霊スポットに結びつくという。「このコラボはあんまり見たことないぞ」と思いましたね。
――犬鳴村に関する話は実際に起こったことと単なる噂が混ざってるわけですが、それをどう映画に落とし込んでいったのでしょうか。
清水監督:虚実入り乱れていて、明らかに誰かが付け加えただろう根も葉もないエピソードもあるけど、でもなるべくその断片の要素を使いたいと思いました。有名なエピソードで使わなかったのは“白いセダン”くらいかな。電話ボックスのエピソードも入れたし、特に「この先日本国憲法通用せず」の看板に関しては、“訪れる者に対して警告している”というニュアンスが強かったので、そうではなくて、“内側に対しての悪意”のニュアンスに切り換えたら、より恐ろしく物語の背景が動き出したんです。
――実在の場所を題材にする上で迷いはありましたか?
清水監督:迷いはいっぱいありましたね(笑)。地図に載ってないっていうのはどういうことなのか、とか。実際調べてみると“犬鳴谷村”と呼ばれる集落は昔あったんですよね。実際に犬鳴ダムにも行ってみたんですけど、家を移築した方々の石碑があったりして、ダムができる前には実際に集落があったんだなぁと。あんまり残ってないですけど、そういった実際の歴史を知ったので。歴史に付随しすぎてもいけないし、あくまでフィクションとして、劇映画として作らなきゃいけないなと。
映画の内容はフィクションなんだけど、名前としては存在するので、そこは地元に迷惑がかからないようにって気遣いはしますよね。色々調べた挙げ句、ある種の社会的メッセージも込めた内容にしたので、プロデューサー陣も気を使ってましたけど(笑)。
――現地に行かれたんですね。実際の旧犬鳴トンネルもご覧になりました?
清水監督:実際行ってみたら、やっぱり違いますね……! 廃止されたトンネルとか病院とか、放置されてるところはどこでも怖いし、噂になるものですが、旧犬鳴トンネルは見えた瞬間から「うわーここはヤバい」っていう独特の空気がありましたね。
――本物の旧犬鳴トンネルの写真を見ましたが、劇中のトンネルがブロックで塞がれてるのは忠実な再現だったんですね。
清水監督:そうなんですよ。実際の場所を撮影に使うのは、獣とか落石とか色々と危ないし、許可も出ないので、似ている場所を使いましたけど、エンドクレジット用に本物の映像を撮りました。
[画像:実際の旧犬鳴トンネル]
――かなりリサーチはされましたか?
清水監督:実際にあった事件を含めて、映画では描き切れない事象や噂、他の土地にもある似た歴史の闇などを調べましたね。工員が焼き殺されて遺体をトンネルに遺棄されたという事件が実際にあったんですけど、ネットで噂が広まったのはそれがきっかけらしいですね。そういったことを調べながら実際に地元にシナハン(シナリオハンティング)で行ったら、たまたま地元で雇ったドライバーさんが、その事件の犯人の同級生でクラスメイトだったんです。……っていう話を、着いた途端いきなり聞いて。自慢気に意気揚々と話していましたけど(笑)。
地元の人にいろいろ聞いていたら、みんな怖がってるし「行かないほうがいいよ」と言うんだけど、それは裏を返せばみんな行ったことがあるということなんですよね。免許取りたての若いときにまず「行ってみようぜ」っていう場所らしくて。地元では知らない人はいないくらいだったので。地元の方に「映画になったら観ますか?」って質問を紀伊さんが投げたら、「どうかなあ、怖えぇしなあ!」みたいな反応だったんですけど(笑)。それが2年くらい前のことだったと思いますけど、映画ができたと知ってそういう人たちが観にいってくれているといいですね。
『犬鳴村』
2/7より公開中
(C)2020 「犬鳴村」製作委員会
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