どんなに頑張っても、出版社は電子書籍の価格を防衛できない
ガジェット通信 / 2012年10月31日 8時0分
この記事は深津 貴之さんのブログ『fladdict』からご寄稿いただきました。
■どんなに頑張っても、出版社は電子書籍の価格を防衛できない
Kindleストア*1を見て思った。無理だ。
*1:Kindleストア
http://www.amazon.co.jp/Kindle-キンドル-電子書籍/b/?_encoding=UTF8&camp=247&creative=7399&linkCode=ur2&node=2250738051&tag=fladdictnet07-22
3〜5年のタームで見た場合、出版社がどんなに足並みをそろえて防衛線を貼っても、電子書籍の価格を維持することは難しい。
なぜならば電子書籍ストアにおいて、最大のライバルは同業者ではないからだ。
電子書籍の最大の特徴は、「印刷、複製のコストが0になったこと」だ。これは参入障壁の劇的な低下と同義であり、3種類の危険な新規プレイヤーを呼び寄せる。
●新しいプレイヤーの参入
出版のコストが限りなく0に近づく時、新たに参入してくるプレイヤーとは誰か?
では、その新規プレイヤーは何なのか? まず第一に「ギャンブルのできる、失うもののないプレイヤー」、そして第二に「金銭的な利益を求めないをプレイヤー」、そして第三の、最大の競合が「書籍以外に収益モデルのあるプレイヤー」の参入である。
第一の「失うもののないプレイヤー」とは、いわゆるインディペンデントや新規参入の出版社だ。弱小プレイヤーとして、どうせ露出ができないならば、ダンピングによる露出を行うことは合理的な手段になりうる。
第二に「金銭的な利益を求めないをプレイヤー」とは、趣味でハイレベルの作品を作れるプレイヤー達だ。例えばSAOや東方といった規模の、巨大バズやコミュニティを作れるweb作家が、同人誌感覚で参入をするケースである。
この二つは、確かに採算と価格を無視できるが、安定したコンテンツを安定して供給し続けるわけではない。問題は第三の「書籍以外に収益モデルのあるプレイヤー」が、安定した供給で定額かつ高品質の本を、広告目的で量産した場合にどうなるか?ということだ。
●例えばクックパッドが・・・
おおざっぱなフェルミ推定をクックパッドを例に考えてみる。
もしクックパッドが「家庭のクッキング」などの本を、1冊100円で10冊ほど投下したらどうなるだろう?
10冊の本を作るのに必要なコストは、編集プロダクションで1冊200万円で作ったとして2000万円(実際はまとめ発注でもっと安いはずだ)。 この予算なら、実は100〜200円で売っても、30〜60万部で普通に回収できてしまうので、わりと現実的なチャレンジではあるのだが・・・
ところがクックパッドのビジネスモデルは有料会員なのだ。会員は月額300円なので年額3600円。
つまり例え1円のクッキング本を10冊をバラまいても、有料会員が5555人増加するならば、1年〜2年ほどでペイしてしまうのだ!
従来の紙の出版であれば、こういった無謀なチャレンジは一時的なキャンペーンの域をでなかった。兵站(複製コスト)の問題があったからだ。
だが、電子書籍は一度作れば永遠に存在し続ける。一度作った超定額書籍は、半永久的に広告ツールとして機能し続ける。 おそらくはAmazonの料理カテゴリのトップを半永久的に占領しながら。(実際には、DL帯域コスト負担があるので、販売価格は100円以下にはできないだろうが、試算のカーブが変わるだけで結果は同じだ)。
・たとえばPixivが、お絵描きの教本を100円で発売しだしたら?
・たとえば保険会社が、健康や医療についての本を100円で発売したら?
・たとえばAKBが、コンプリートで握手券モデルで48冊の100円の本を販売しだしたら?
クズ本だったらば問題ない。だが彼らが、一定品質以上の本を、永久につかえる広告としてバラマキはじめたらどうなるか?
これが電子書籍時代における、出版社の最大のライバルになりうる。
●脅威は出版の枠組みの外からやってくる
出版社は価格決定権を保持することに固執しているが、電子書籍の最大のリスクはそこではない。
結局のところ、出版社の最大の敵は、同業者でもAmazonでも違法コピーでもない。
真に恐れるべきは、失うものもなく、利益も必要なく、面白いコンテンツを作れるプレイヤーが出版業界の外には存在する・・・ということだ。そして彼らには出版の慣習も、仁義も、同調圧力も意味を持たない。彼らこそが電子出版の最大の驚異だ。
売り上げを必要としない彼らが、書籍としての利益を無視したダンピングで、ランキング上位に参入するようになったら・・・はたして出版社は価格の維持をし続けることはできるのだろうか? 価格決定権は、みなが足並みを揃えなければ意味をなさない。
上位100の本の数十パーセントが100円の本になっても、それでも出版社は価格を防衛しきれるのだろうか?
スマホのアプリ/ゲーム業界では切り売りは力を失い、囲い込み課金が主流となった。音楽業界も販売からコンサートや興行へと模索を始めている。 映像も今や定額課金だ。電子化によって生産複製流通コストが0に近づくなか、出版社だけが例外的に価格維持を可能とするロジックを、僕は見つける事ができない。
●<追記>
「クックパッド本が30〜60万部が現実的でない」というツッコミへの補足。 試算では10冊だすので、1冊のノルマは3〜6万部になる。クックパッドの月ビジターは約800万人。 この場合、月コンバージョン率が0.00375%あれば、1ヶ月で3万部は達成できる。コンバージョン0.003%という数字は、普通のブログのサイドバーにアフィリエイト貼るだけでクリアできる数字だ。つまりKindleの市場規模が十分に成熟すれば、クックパッドからのトラフィックで簡単に達成できる数字と考えて問題ない。(出版で30万部が難しいのは、初版部数と露出機会の少なさが原因だろう。一冊の本に対して提供される露出が少なすぎるのだ。もし自前トラフィックを持つプレイヤーが、需要のあるコンテンツに十分な露出を与える事ができるならば、(そして市場規模が十分に成長すれば)電子書籍ならばなんの問題もない数字ではないかと考えられる。)
●<追記>
個人的には @t_traceさん*2のGeneMapper*3のように、個人出版でKoboのランキングトップ入りした本の存在。こういう本が、Kindle端末発売日に100円アタック & プレス会社で一斉爆撃したらどうなるか、興味深々。
*2:Twitter:@t_trace
https://twitter.com/t_trace
*3:GeneMapper
http://www.amazon.co.jp/Gene-Mapper-Japanese-Edition-ebook/dp/B008KSN2F4/ref=sr_1_1?ie=UTF8&qid=1351099966&sr=8-1
執筆: この記事は深津 貴之さんのブログ『fladdict』からご寄稿いただきました。
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