13歳の“美しい記憶”の真実はおぞましい体験だった…衝撃のヒューマンドラマ『ジェニーの記憶』:映画レビュー
ガジェット通信 / 2020年10月31日 17時0分
学校の先生、隣の家のおにいさん、偶然に出会った大人……思春期の少女が、年上の男性に憧れに近い恋心を持つことは、決して珍しいことではありません。そして幼くあっても、その恋を成就させたいと願うのも当然のこと。が、その恋が叶った場合、少女の後の人生にどういった影響を与えるのか―― Amazon Prime Videoで公開中の映画『ジェニーの記憶』は、ヒロインが13歳の時にした“美しい初恋”の記憶を辿るうちに、すっかり忘れ去っていた“おぞましい体験”があったことを思い出す衝撃のヒューマンドラマです。
ローラ・ダーン演じる、ヒロインのジェニファー(以下ジェニー)は48歳の独身女性。ドキュメンタリー監督として成功を収め、同棲中の男性との結婚も決まり、忙しくも順風な生活を送っています。そんなある日、実家に住む母親からスマホに着信が。留守電を聞くと、母親は非常に取り乱した様子で、ジェニーが子どもの頃に授業で書いた“日記のような物語”を見つけたこと、そして「大丈夫なの? あなたが心配」と強くジェニーの身の上を案じます。
母親の大げさな態度に困惑するジェニー。なぜならば、13歳の夏から冬にかけて、両親には秘密で年上の男性と付き合っていた記憶はあるものの、あくまでも自分の中では、甘酸っぱい“素敵な想い出”として残っているからです。牧場でのサマースクールに参加したこと。そこで乗馬を教えてくれた魅惑的な人妻のミセスG(エリザベス・デビッキ)、そしてランニングのコーチで、ミセスGの秘密の恋人でもあるビル(ジェイソン・リッター)。眩ゆい魅力に溢れるふたりの大人と出会って、少し背伸びして、密に過ごした素晴らしい時間――しかし、気になるのは、「まずはこの美しい出来事から物語を始めよう」という書き出しから始まる、この物語につけられた当時の教師からのコメント。「もしこの話が現実に起こったことなら、あなたは虐待を受けていたことになる」とは、いったいどういうことなのか。真実を探るべく、当時の知人たちのもとを訪ねて自らの過去を探り始めるジェニー。そこで露わになったのは、ジェニーが想像していた以上の、グロテスクな真実だったのです。
児童への性的虐待というショッキングなテーマを扱った本作品の見どころのひとつは、巧みな映像構成です。ジェニー自身が塗り替えていた記憶と、実際にあったこと。その同じ場面を、一度目はミドルティーンの、女性として輝きを放ち始めた頃合いの少女が、二度目はローティーンの、まだ幼い子どもといって差し支えない女の子が演じることで、ジェニー自身が持っていた記憶の曖昧さ、都合のいい捏造、そしてペドフィリアの欲望のおぞましさが、はっきりと可視化されるのです。
13歳の少女が「セックスをしたのは、自己決定だった」と思い込んだのは、“グルーミング”と呼ばれるペドフィリアたちの手管――騒がしい大家族の中で、居場所のないジェニーのさみしい気持ちにつけこみ、「あなたは特別だ」と繰り返すことによって、信頼を勝ち取り巧妙に取りるという手口であったこと。大人になったジェニーの抱える生きづらさの原因は、性的虐待されたことから生じたトラウマにあること。そして、性的虐待が明らかになってもなお、自らを“被害者”であるとは認められない当事者の感情。細やかな描写の積み重ねでもって、児童への性暴力のあらましを告発した本作品、ジェニファー・フォックス監督の実体験をもとにしているそうですが、ヒロインのジェニーはもちろんのこと、加害者となる大人たちの人物像も細かく描き込まれていて、ぞっとするとともに、児童性的虐待がなかなか表沙汰になりにくい構造にあることを、まざまさと理解しました。観終えた後には心にずっしりと余韻が残る、見応えある一本です。
■ジェニーの記憶 (字幕版)
https://www.amazon.co.jp/ジェニーの記憶-字幕版-Laura-Dern/dp/B07MXMF7YD
【書いた人:大泉りか】
官能小説、ライトノベルを手がける作家でありながら、恋愛コラム連載も人気。著書に『女子会で教わる人生を変える恋愛講座』(大和書房)『もっとセックスしたいあなたに』(イースト・プレス)など。
https://twitter.com/ame_rika
※画像はAmazonより引用。
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