携帯漫画産業の危機とその問題について
ガジェット通信 / 2013年2月26日 18時0分
今回はダテナオトさんのブログ『元漫画家が贈る独断と偏見とちょっとした経験則から綴るブロマガ』からご寄稿いただきました。
■携帯漫画産業の危機とその問題について
先日、昔仕事で付き合いのあった携帯漫画産業の業界人からこんな話を聞きました。
『ガラケー市場の売り上げがひどい減少…ペイ(損益回収)するまでに時間がかかりすぎる』
との事で最近様々な企業が部署の縮小をしているそうです。
僕自身、最初に携帯漫画産業に作家として参入したときに一番驚いたのが、編プロとのこんなやり取りでした。
僕「この産業の主な読者層ってどんなものでどんなものを好む傾向があるのですか?」
編「さー。実のところ私どももわからないのです。
何せ誰が読んでてその層が男か女か、はたまた何歳なのか知る方法が無いもので。
あ、でも今売れてる作品の事ならお話できますよ。
どうです?こういう今の売れ筋っぽい感じで漫画描いていただけませんか?」
僕「は?・・・はぁ。」
さて、ではまず根本的に携帯漫画市場とは何かからお話します。
携帯漫画産業は以下の3つの関係で出来ています。
■漫画家
言うまでも無く漫画を描く作家。
■編プロ
編集プロダクションの略で簡単に言うとプロバイダーに漫画の知識がないので彼らに変わって漫画家との交渉をする企業。俗に言う編集社・出版社ではない。
元雑誌編集者なども在籍するがその数は圧倒的に少ない。経営者そのものも経験者ではないことが多い。
■大手プロバイダー
携帯漫画を実際に配信している運営サイト。
ド●モやb●mf、S●NYといった大手携帯会社が運営する。
そもそもが漫画産業の経験が無いため漫画の基礎知識はない。
●■受注・生産の流れ
(1) 大手プロバイダーから編プロへ依頼。
(2) 編プロから自社が持つ作家に依頼。
(3) 作家が書いたプロットを編プロに渡す。
(4) 編プロがプロバイダーに渡す。
(5) プロバイダー内で会議(ここに漫画の知識を持ったものはほぼ皆無)
(6) プロバイダーから編プロに会議内容を渡す。
(7) 編プロから作家にその内容が渡る。
(8) 4~6を何度も繰り返す。
(9) 作画を済ませ入稿。
(10) 編プロが携帯に合わせたコマ単位にカットしたり、写植を行う。
(11) 写植などが終わったデータをプロバイダーに渡し、配信開始となる。
ちなみに完全買取制で渡した原稿が仮にDLサイトや書籍になっても一円も作家には支払われない。
●■備考
・ 携帯漫画は1ファイル(1話約10ページ)60コマが基準。(平均1ページ6コマ)
・ 変形コマは原則禁止(掲載されるのが携帯の画面であるため)
・ 漫画配信用のサイトは運営に費用がかかりすぎるため編プロが独自にサイトを持つのは難しい。そのため大手プロバイダーと契約をしなくてはならない。
●■問題点
・ 携帯漫画の顧客が誰なのかわからない。
これは最も問題な点で、不特定多数が見るため年齢・性別何もかもわからない。
そのため、市場調査も出来ずたまたま売れた作品に前に習えで描く方法を取っている。
これでは作家は何を描いていいのかわからないし、市場操作のしようがない。
・ 法的規制。
携帯漫画は表現規制が厳しく、作家としては思ったように描けない。
暴力表現・性的表現一切禁止の中、まるで往年の月間マガジンよろしくなエロ表現で戦うほかない。
・製作方式と掲載方式の違い。
作家は普通の漫画同様に1ページにコマを並べて描くが掲載される時には一律同じサイズにリサイズされてしまう。このため大きく描いた魅せゴマが小さくなり、間を埋めるために描いた捨てコマが大きく表現されてしまう。
・ プロバイダーの影響力。
漫画素人であるプロバイダーの影響力が強く、分かった風で意味不明な指示書が基本飛んでくる。編プロもクライアントであるため頭が上がらず基本それを作家にそのまま流す。
・ 作家を育てる気が基本的に無い。
賃金の安さ、買い取った原稿を勝手に書籍化、などの二次使用し、その売り上げは一切作家に還元されないシステム。
勝手に下手なカラー漫画にされてDLサイトで売られてたこともあった。
・ 〆切りのタイトさに比べてレスポンスが悪い。
雑誌で連載している場合、作家にとっては編集部しか交渉相手がいません。
しかし、携帯漫画の場合作家と編プロの上にクライアントとなるプロバイダーが存在します。そのためプロバイダーと作家のやり取りの間に編プロを挟む形となり打ち合わせのレスポンスが恐ろしく遅い。
下手すればとても簡単な事案に1週間割かれたりします。この間作家は作業が出来ません。
●■まとめ
こういった状態をずっと見過ごして作家に負担をかけてきたため、まず上手い作家が業界から去りました。
それでも急激に成長した産業に歯止めは効きませんし、押せ押せで企業も舞い上がってますので、作家を使い捨てにしつつ市場を回そうとします。
するとずっと耐えていた中堅の作家が去ります。
漫画の質が下がり読み手も飽きてきます。
更にマーケティングを行わず、売れたものの改良、亜種の生産をして売っていたためにさらに読み手は飽きてしまい離れていきます。
物事は慣れるとさらに過激なものを求めるようになりますが、規制があるためそれに市場は応えれませんし、そもそもそういった声を汲み取る場所もありませんので作り手側に読み手の不満は届きません。
そもそも作家は自分の作品がいったいどこの配信サイトに出てるのかすら知らないのです。
といういか基本知らされません。
ネットで検索してはじめて知るのですが、ひどい場合勝手にタイトルを変更されてたりしますので検索すらできない場合があります。
こうして、携帯産業は短期間に繁栄と衰退を辿っているわけです。
ここから見えてくるのはあくまで市場は生産者と消費者が居て成立するものである、ということです。
そこに仲介ではいる業者は市場運営企業はあくまでもこの両者を繋ぐ存在に過ぎず、需要と供給元を軽んじれば必ずその市場は衰退するという良い例だと考えます。
執筆: この記事はダテナオトさんのブログ『元漫画家が贈る独断と偏見とちょっとした経験則から綴るブロマガ』からご寄稿いただきました。
寄稿いただいた記事は2013年02月25日時点のものです。
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