スペイン内戦に翻弄された画家の壮絶な生涯を描いた『ジュゼップ 戦場の画家 』日本での高評価に「感性の琴線に触れることが出来たのかなと思います」
ガジェット通信 / 2021年8月13日 12時0分
セザール賞長編アニメーション賞受賞をはじめ、世界中で喝采を浴び、日本でも絶賛されたオーレル監督長編アニメーションデビュー作『ジュゼップ 戦場の画家』。8月13日より公開となります。実在する画家でイラストレーターのジュゼップ・バルトリを主人公にし、1939年まで続いたスペイン内戦でフランスへと逃れたジュゼップが、収容所に入れられて体験した悲惨な境遇をフランス人憲兵の目を通して描いたストーリーです。
オーレル監督は、風刺画などのイラストを新聞で発表している、本業イラストレーター。ジュゼップの思いを引き継ぎ、10年の歳月を掛けて映画を作り上げました。『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』片渕須直監督も絶賛している本作。オーレル監督ご本人に映画についてお話を伺いました。
ーー本作で描かれていることは知らないことだらけで、大変勉強になりました。改めて、本作を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
オーレル監督:アニメの短編は10年前に作ったことがあるのですが、(本作が)本当に映画第一作目となります。なぜ映画を作ろうと思ったかというと、ジュゼップが僕が興味を持っていることを全部持っていたからなんだ。ジュゼップはイラストレーターであり、僕と同じ職業であるから興味をもったのももちろんあります。後は、僕はフランス人ですがスペインが大好きなんです。10代の頃からスペイン戦争にとても興味を持っていた。スペイン戦争というのは現代の社会とも地続きで、あの時代に起こったことが今もまだ繰り返されている事実があるわけです。
ジュゼップは本当に波乱万丈な人生を歩んでいるんですね。バルセロナの下町で活動していたイラストレーターだったのが、フランスの収容所、メキシコ、ニューヨーク…と翻弄されてきた。全てが「描きたい」と思うものだったんだ。
ーーオーレル監督はイラストレーターとして活躍されていますが、この物語の表現方法に映画を選んだ理由は何ですか?
オーレル監督:フランスでいう「バンド・デシネ」(フランス・ベルギーを中心としたフランス語圏のマンガ)という二次元の作品にすることも出来たかもしれませんけれど、映画にしたいと思った時に、自分が描いたイラストを動かす、デッサンアニメという手法が一番ふさわしいと思ったんだ。
ーーたくさんあると思うのですが、特に大変だったことは何ですか?
オーレル監督:監督という肩書きをもともと持っていないので、企画に制作費が集まるかという所がまず難問だった。アート的な部分ではすごく優秀なスタッフに囲まれていたので、全く問題が無かったよ。僕自身が勉強させてもらいながら、困難があった時も乗り越える楽しさがあった。
ーーそんな苦労を乗り越えて映画を完成されて、世界中で高い評価を受けました。東京アニメワードフェスティバルでのグランプリも受賞されましたね。
オーレル監督:驚くべきことですよね。もちろん作っている最中は出来るだけ多くの観客に観て欲しいという期待はあります。最初に上映したのがフランスだったのですが、プレスも観客も良い反応をくれて嬉しいサプライズでした。スペインも、スペインはこの映画の関係者でもあるので、そんな国で上映するのは挑戦だったのですが、良い反応をくれて安心しました。
僕が一番驚いているのは、この映画はフランスとスペインの話にも関わらず、ヨーロッパ以外の国から興味を持って迎えられたことです。日本なんて地理も文化も違うのに、東京アニメワードフェスティバルでグランプリをいただけて、アニメーションのプロの方にもたくさん観ていただけて。日本の様なアニメ大国の皆さんに「良かった」と言ってもらえるのは本当に感動しました。よく考えてみると、日本というのはデッサン大国、マンガ大国でもあると思うので、そういう感性の琴線に触れることが出来たのかなと思います。
ーー地理が異なっても、ジュゼップの生涯に衝撃を受ける方本当に多いのだと思います。監督がご覧になったことのある、好きな日本のアニメーションがあれば教えてください。
オーレル監督:やっぱり宮崎駿監督のお名前を挙げないわけにはいかないのですが…、宮崎監督の作品は本当に素晴らしくて、ファンタジーな部分が多いですよね。でもそれは私がやりたいアニメの方向とは異なるんです。最近、『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』(片渕須直監督)を観たのですが、アプローチ的にも似たものを感じましたし、作風もすごく個性的で、動画の語り口、編集の仕方も感じるものがありました。
ーー本作でオーレル監督の作風、作画に惹かれる観客も多いと思います。また映画を撮りたいと思いますか?
オーレル監督:せっかく今回挑戦出来たので、今後何かを表現したいと思った時に、映画を選ぶことももちろんあると思う。映画というのは完全な表現方法だと思うんですね。映像もあり音楽もあり、色々なメッセージを忍び込ませることが出来るキャパがある。だから豊かだと思うんです。もちろん本業であるイラストやバンド・デシネを捨てるつもりは全くなくて、テーマによって分けて、順応していきたいと思っているよ。実は今回脚本を書いてくれたジャン=ルイ・ミレシさんとも、「今度は実写でやりたいね」と話しているんだ。
ーーぜひ監督の次回作も拝見出来ることを楽しみにしております!今日は素敵なお話をありがとうございました。
『ジュゼップ 戦場の画家』
8月13日、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
【ストーリー】1939年2月、スペイン内戦の戦火を逃れた大勢の難民が隣国フランスに押し寄せた。しかしフランス政府によって強制的に収容所に閉じ込められた彼らは、劣悪な環境のもとで寒さ、飢え、病魔に苦しむはめに。難民のひとりである画家のジュゼップ・バルトリは、それが人間らしさを保つ唯一の手段であるかのように、建物の壁や地面に黙々と絵を描き続けていった。若きフランス人憲兵セルジュは、そんなジュゼップに鉛筆と紙を与え、ふたりは固い友情で結ばれていく。やがてジュゼップが消息不明の婚約者マリアとの再会を夢見ていることを知ったセルジュは、彼の切なる願いを叶えるためにマリアの捜索を行うのだが……。
監督:オーレル
脚本:ジャン=ルイ・ミレシ
2020年/フランス・スペイン・ベルギー/仏語・カタロニア語・スペイン語・英語/74分/シネマスコープ/カラー/5.1ch/原題:JOSEP/ 日本語字幕:橋本裕充
配給:ロングライド
(C)Les Films d’Ici Méditerranée – France 3 Cinéma – Imagic Telecom – Les Films du Poisson Rouge – Lunanime – Promenons – nous dans les bois – Tchack – Les Fées Spéciales – In Efecto – Le Mémorial du Camp de Rivesaltes – Les Films d’Ici – Upside Films 2020
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