「最長片道切符鉄道旅」を完遂したアンドロイドのお姉さん SAORIに聞く!令和の鉄道旅と挑戦の裏側
ガジェット通信 / 2024年9月27日 11時0分
YouTubeチャンネル「散歩するアンドロイド」の登録者数が36万人を超える人気YouTuber、「アンドロイドのお姉さん SAORI」。国内外の様々な場所を旅する彼女が、2023年に「最長片道切符」を手に日本縦断の旅に挑戦しました。極寒の稚内からスタートし、絶景やグルメ、予期せぬトラブルに直面しながらも54日間をかけて完遂。その全貌をまとめた書籍『最長片道切符鉄道旅 一筆書きでニッポン縦断』の発売を記念し、旅の裏側や執筆秘話をじっくりと伺いました。SAORIさんの挑戦の軌跡と、鉄道旅の魅力をたっぷりとお届けします。
書名:最長片道切符鉄道旅 一筆書きでニッポン縦断
著者:アンドロイドのお姉さん SAORI
定価:2,200円(本体2,000円+税10%)
発行:イカロス出版
一人旅では誰しも「アンドロイド」になっている?
――SAORIさんは「アンドロイドのお姉さん」としてYouTubeチャンネル『散歩するアンドロイド』を開設されています。国内外の観光地だけでなくディープなスポットにも行かれていますが、訪問先を決める際のポイントは。
SAORI YouTuberとしてはやはり“選んで数字が取れそうな人気の場所”に行くこともありますが、根底の私の思いとしてはあまり人の行ったことのない、やった事の無い事をして、見ている視聴者の方と新発見や驚きを共有したいなという気持ちがあります。
なので需要と供給と私の行きたい場所。そのバランスで行く場所を決めています。
――「アンドロイド」の旅と、人間(人)の旅との違いはどこにありますか。
SAORI もちろんすべてが違うとは思うのですが、一人旅をしているとそんなに感情をむき出しにする機会は無くて、自分の心の中で嬉しい、楽しい、美味しい、しんどいなどの気持ちと対話することになると思うのですが、そういった点では外からは感情を表に出さないアンドロイドのように見える瞬間が一人旅では何度もあるのではないかなと思っています。
――そういった意味では、誰しも「アンドロイドのお姉さん・お兄さん」として旅をすることがあるのかもしれませんね。
「令和の旅を書く」と覚悟を決めた
――北海道から九州まで、鉄道で最も長い距離を移動するきっぷを通称「最長片道切符」と呼んでいます。様々な場所にいかれている中で、2023年2月から「最長片道切符」を使用した一筆書きの旅を開始されましたね。距離の長さもさることながら有効期限が55日であるため鉄道ファンにも使用難易度の高いきっぷとして知られています。この切符はご存知でしたか?
SAORI 以前から旅行で鉄道を利用することは多くあって、そうすると鉄道好きの視聴者さんが増えてきていろんな鉄道ネタを教えてくれるんです。
最長片道切符もまさにそのうちの1つで「すごい切符があるよ」と教えてもらいました。
ただ、自分が挑戦するなんてその時は思ってもみなかったのですが。
――「この旅をテーマに本を書きませんか」と声がかかったのが、旅の終わりから約3か月後だったと伺いました。連絡を受けた際の最初のお気持ちは?」
SAORI 自分の旅が1冊の本になると言う嬉しさもありましたが、それと同じくらい大変な執筆になるだろうなという予感もありました。
旅を終えてからタイムラグがあったYouTube動画の更新もゴール間近というタイミングで書籍のお話をいただき、2023年という1年は自身最長のこの旅と向き合うべき年なんだな、とより強く思いました。
――この切符を題材にした本といえば、宮脇俊三さんの『最長片道切符の旅』が有名です。執筆にあたって意識はされましたか。
SAORI 勿論参考として読ませていただきました。ただ、時代背景やルートがあまりにも違いすぎて共感できない箇所も正直多かったです。
――宮脇さんの最長片道切符の旅は昭和53(1978)年ですしね。
SAORI 私は私で令和の時代の最長片道切符を綴るしか無いのだなと読んでいてある種覚悟が決まりました。
旅のアクシデントもエッセンスのひとつ
――最長片道切符旅は54日間という約2か月の旅でしたが、切符の有効期限1日前のゴールでした。この日数は旅の開始前から計算していましたか?
SAORI まったく計算はしていなくて……。最長片道切符旅を達成した人のYouTubeやブログを見てみると1か月ほどでゴールしている人も多くいるようで、自分もそれくらいでゴールできるんじゃないかと考えていました。
――動画のために“期限1日前にゴール”ではなかったのですね。
SAORI いざ旅が始まると連日の移動の疲労や動画編集などもあり、かなり休息をとってしまったため切符の有効期限ギリギリになってしまいましたね。
――最長片道切符旅の中で、一番印象に残った場所やできごとは?
SAORI 旅の途中、鳥取のホルモン焼き屋さんでご飯を食べた時のことです。
――本の中でも印象的なエピソードでしたね。
SAORI ちょうどその日は私の誕生日で、にも関わらず列車の遅延や荷物を車内に置き忘れたりなど不運が重なり踏んだり蹴ったりな1日でした。
でも、その夜に食べに行った鳥取のホルモン焼き屋さんで常連の人たちの輪に入れてもらい、皆さんに「ハッピーバースデー」を歌ってもらった事で忘れられない誕生日になりました。
――道中「もう最長片道切符旅をやめたい」と思ったことは?
SAORI 結構ありますね(笑)。一日中鉄道に乗り続ける旅は想像よりも過酷でした。
――ひたすら列車に乗り続けると身体のあちこちが痛くなりますしね。
SAORI ただ、それは思うだけで、自分が始めたことなので「やめる」という選択は自分の中ではなかったです。
――以前ご自身は「鉄道オタクではない」とおっしゃっていましたが、ルートを調べたり時刻を調べたりする中で大変だったことはありましたか。
SAORI そうですね……。違う列車に乗ってしまったり、最長の旅をしているはずなのにショートカットしてしまったりとこの旅でも何度か間違いを犯してしまいました。
――視聴者・読者からすると、そういったアクシデントはハラハラして楽しくもあります。
SAORI 完璧な旅をするのが目的ではないので、間違いも1つのエッセンスだったんじゃないかなと思います。
――「鉄道オタク」でないがゆえの、旅の開始前の不安等ありましたか。
SAORI 「なんとかなるかな」という思いでいました。何事も調べすぎると不安になると思うので、最低限のルートだけ覚えてあとはその時次第だなと。
――この長旅の中で持っていって良かったおすすめグッズはありましたか?
SAORI 鉄道旅ですが、途中下車して観光に行くこともあるだろうと思い、軽量で長時間背負っていても疲れないような登山用のリュックを使っていました。都市部では細かい乗り換えがあったりするのでリュックサックはマストだと思います。
――確かにスーツケースでは移動が大変ですよね。では、荷物を少なくする工夫は?
SAORI 服は決まっているコスチュームがあるので必然的に少量で済みました。
あと本などかさばりそうなものはiPadにダウンロードして持ち歩くなど工夫はしました。
ただ普段使っている化粧品やスキンケアなど絶対に外せないものもあって、結構大荷物だったかもしれません。
――スキンケア系はホテルに備え付けのものやありあわせで購入したものだとダメですね。
SAORI 女子ならではですね。
鉄道旅のポイントは「早起き」
――動画を撮りつつYouTubeの編集もしながらの旅は、普段の旅と異なり大変だったかと思います。旅をしながら動画もアップする、というのははじめから決めていましたか。
SAORI そうですね。YouTuberとして一番怖いのは世間から忘れられてしまうことなので定期的に動画をアップロードしなければならないという使命感的なものはありましたね。
――この旅の総額はいくらかかりましたか。
SAORI ホテルに泊まってご当地グルメを食べて、最終的には70万円くらいかかったかなと思います。楽しむことが1番だと思っていたのでそんなに節約は意識していませんでした。
――旅費の節約は人それぞれかと思いますが、SAORIさんが節約した点と「ここはケチらない」点を教えてください。
SAORI 観光費はケチらない方がいいと思います。鉄道で通り過ぎるだけではあまりにも勿体ない美しい場所が日本には沢山あるので。
そこまで節制はしていないのですが、あえていうならばお酒はあまり飲みませんでした。翌日も長距離移動なので体にお酒を残したくなくて。
――鉄道旅は朝が早いですし。ではこれから「最長片道切符」で旅に出る方にアドバイスをするなら?
SAORI アドバイスをするならば「早起きを頑張ってください」と(笑)。1日のスタートが早いとその分観光やご当地グルメなどにも使える時間も増えると思うので……。
“タレント本”でなく読み物としての面白さを意識
――『最長片道切符鉄道旅 一筆書きでニッポン縦断』についてお伺いします。原稿を書き上げるまでにどのくらい時間がかかりましたか?
SAORI YouTubeの撮影や編集、そして主催のイベントの準備などもあったので、それらと並行しつつ書き終わるまでに半年ほどかかってしまいました。
――原稿執筆中の「お供」は何でしょう。
SAORI 糖分が無いと頭が働かないので執筆中にはチョコレートばかり食べていました。デスクワークは太りますね(笑)
――この本でこだわったポイントを教えてください。
SAORI YouTuberとして注目していただけているからこそ、本を出版できたりいろんな機会を頂けているという自覚はもちろんあるのですが、いわゆる“タレント本”っぽくしたくないな、という思いはありました。ちゃんと読み物として面白くなければならないという事は常に意識して書きました。カバーなども自分の色を出しすぎないように削ぎ落として 可能な限りシンプルに仕上げ、長く読まれる本にしたいなと意識しました。
――今回はご自身にとって2冊目の書籍ですが、1冊目の書類『散歩するアンドロイド』(KADOKAWA)との違いは?
SAORI 1冊目は「旅」というものをテーマに自身のバックグラウンドや空想、願望などを織り交ぜながら書いた、結構ロマンチックな感じの本だったかなと思うのですが、今回は直近の実際の旅をベースに書くと言うことで、間違いがないように自分の動画を見直したり、確認事項として調べることも多かったです。
どちらがいいというわけではないので両方楽しんでいただければ(笑)。
――今回の書籍では、海外でゲラのチェックをされたそうですね?
SAORI 最終のゲラのチェックをネパールのカトマンズでやったのですが、Wi-Fi環境とiPadさえあれば案外出来るもんだなと感じました。
伝え方一つとってもニュアンスが大事だと感じているので、iPadに手書きで修正させてもらって、データでのやりとりですが私の意思も伝えられたんじゃ無いかと思います。
――10年後、50年後には最長片道切符のルートもガラッと変わっていると予想します。年単位で読み返してほしい本だと思いました。
SAORI 今は私の旅を追体験しているような気持ちで共感しながら読んでくれている方が多いのかなと思いますが、何年後かに読み返して違いや新たな発見があるのならそれもこの本の存在理由なのかなと思います。
――新駅開業や延伸・廃線でルートが変わるきっぷなので、すでに新しいルートが出ています。もう一度チャレンジする気持ちはありますか。
SAORI 疲れそうなのでもう一度やる予定はないのですが、何十年後かこの旅の振り返りをしてみても面白いのかもしれないという予感はあります。
ただ、体力があればという話ですが。
毎年のようにルートが変更となる「最長片道切符」。これからこの切符で旅に出ようと計画する人もなかなか旅に出られない人も、ぜひこの本を読んで旅気分に浸っていただきたい。
(執筆者: イカロス出版)
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