「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第37回:格別な左足(就実高、室井陸)
ゲキサカ / 2016年10月31日 21時43分
“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」
これだけは、通用する。自信を失った時期も、それだけは信じることができた。就実高の10番、室井陸は思いを乗せるように左足を振った。
第95回全国高校選手権の岡山県大会準決勝。新人戦、高校総体で県2冠の岡山学芸館高を破るため、立ち上がりから切れ味のある鋭いミドルシュートでゴールを狙った。強気に出る就実、エンジンのかからない岡山学芸館。見る者が違和感を覚える展開に持ち込むと、左からのクロスを室井が頭で合わせて先制点を突き刺した。
それでも、前半のうちに同点とされ、後半には逆転された。善戦もここまでかと思われたが、室井の左足は再び輝いた。後半29分、糸を引くような鮮やかなパスが地を這い、相手守備網を切り裂いた。FW南條浩志へのアシストとなり、同点に追いついた。チャンスは少ないが、室井の左足にボールが入れば、必殺の一撃を想像せずにはいられなかった。
室井は、小学生の頃に大きな舞台で活躍した経験がある。2010年、所属するオオタFCが全農杯チビリンピックの決勝戦に進出。準決勝では2得点を挙げた。残念ながら川崎フロンターレU-12に敗れて日本一には届かなかったが、日本の最高峰で活躍できる選手だった。当然、中学時代も活躍が期待されたが、思うほどの飛躍はできなかった。室井は「小学生の頃はスピードで勝てたけど、中学で背が伸びなくて、身体能力の差がなくなったら、何もできなくなって自信がなくなった」と打ち明けた。自信を失いながらも、元日本代表MF中村俊輔(横浜FM)らをイメージして、蹴り方を変えながらロングボールを何度も蹴り込んでいた。左足だけは、絶対に通用する――唯一の頼り所まで失うわけにはいかなかった。
高校での集大成となる選手権予選、室井が見せたのは、ミドルレンジでもスピードと精度を兼ね備えたボールを供給することができる左足のキックだった。就実高の須田二三朗監督は「見た方は皆、キックを褒める。シャープで柔らかい左足には、僕も驚かされた」と、この日に限らず室井が左足で見る者を魅了してきたことを証言した。2-2で金星の可能性がまだ残されていた後半終了間際、室井は足を攣って、ベンチに退いた。延長後半、チームは力尽きて決勝点を奪われた。彼が最後までピッチに立っていれば、どうだっただろうか。プライドと意地の詰まった左足は、その価値を示して惜しまれながら消え去った。憧れの舞台を後にして、格別な左足は、また次の一歩を踏み出していく。
■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」
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