「スポーツライター平野貴也の『千字一景』」第38回:あと15メートルと20秒(長岡向陵高)
ゲキサカ / 2016年11月8日 12時18分
“ホットな”「サッカー人」をクローズアップ。写真1枚と1000字のストーリーで紹介するコラム、「千字一景」
あと15メートル、届かなかった。あと20秒、足りなかった。プリンスリーグ北信越で0-4、0-5と2度も大差で敗れた相手と互角に渡り合った大きな手応えは、一瞬で崩れた。第95回全国高校選手権の新潟県大会、長岡向陵高は0-1で帝京長岡高に敗れた。失点は、延長後半の終了間際。審判が時間を確認し合う声が聞こえた。残り20秒。ラストプレーとなる帝京長岡の右CKに、PK要員として投入されたばかりの選手がフリーで飛び込んだ。長岡向陵の選手は、ゴールに悪夢が突き刺さるのを眺めることしかできなかった。再開直後、試合終了の笛が鳴ると、誰もが崩れ落ちた。善戦は、報われなかった。
長岡向陵は地方の公立校だが、機能的にパスをつなぎ、強豪相手でも少しずつゴールへ進んでいくスタイルに定評がある。また、帝京長岡の兄弟チームである長岡JYFC出身で能力の高い選手も何人かいる。帝京長岡の谷口哲朗コーチの息子である主軸MF谷口成冴が負傷離脱で父子対決に臨めなかったのは残念だったが、それでも長岡JYFC出身のMF田中龍成が中盤でターンを仕掛け、FW外山光を経由して鋭いラストパスを繰り出し、かつての仲間を相手に一歩も退かない戦いを見せた。ただ、強豪校と比べて選手層は薄い。後半の20分が過ぎると、次第に運動量が落ちて押し込まれた。
最所順之監督は「バイタルの少し前でラストパスにしてしまう。全体を押し下げられてしまい、あと15メートル運べれば(しっかりと崩せる)というところが、心理的に一つ早い段階で仕上げに入りたくなってしまった。もう1つ我慢できるかというところ」と、悔しさに満ちた表情で話した。厳しい注文ではあるが、勝つためにはもう1段階上の力が必要だった。ともに2年生で来季Wエースとなる田中と外山は「個人で突破できるようになりたい」と口を揃えた。
足りなかった。しかし、大差負けから金星寸前まで前進した。外山は「次に勝つヒントがあったと思う」とも話した。精一杯の戦いができたから、次が見える。主将の山本貴大は「(強豪私立校とは違って)良い選手がたくさん来るわけじゃないけど、一体感を持って戦えば、こういう試合ができる。後輩には自信を持ってやってほしいし、勝ってくれたら嬉しい」と言った。清々しい笑顔だった。足りなかった距離と時間を、次の1年でまた縮めに行く。この敗戦は、道標だ。トーナメントは負けたら意味がないと誰が言っても、そうとばかりは限らない。
■執筆者紹介:
平野貴也
「1979年生まれ。東京都出身。専修大卒業後、スポーツナビで編集記者。当初は1か月のアルバイト契約だったが、最終的には社員となり計6年半居座った。2008年に独立し、フリーライターとして育成年代のサッカーを中心に取材。ゲキサカでは、2012年から全国自衛隊サッカーのレポートも始めた。「熱い試合」以外は興味なし」
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スポーツライター平野貴也の『千字一景』-by-平野貴也
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