三谷幸喜さん「『12人の優しい日本人』のヒット、こういう芝居をつくればいいと実感」【その日その瞬間】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年9月24日 16時3分
ようやく劇団も軌道に乗って、役者も僕も少しずつ上達してきて、そろそろ次のステップに上がっていく時期なんじゃないかと思い始めた時に、「ここで一番やりたい芝居をやってみよう」と決めて書いたのが「12人の優しい日本人」でした。ヒットして再演(91、92年)し、僕が監督じゃないけど映画化(91年)もされた作品です。
──もとになった映画はシリアスな裁判ものの「十二人の怒れる男」(57年)ですね。12人の陪審員がひたすら議論する。
三谷 小学生の頃にテレビで見て、こんな面白い映画があるのかと思った。シリアスな話なんだけど、大の大人が汗水垂らして激論している姿が僕には喜劇に思えた。大学の頃に舞台版を見たんです。石坂浩二さんが主役を演じ、伊東四朗さんはじめ名のある俳優さんたちが出演されていた。これがまた映画版以上に面白くて。再演も含め8回見に行きました。自分でもいつかは舞台でやりたいと思っていたけど、「これを超えるお芝居は僕にはつくれない……」と諦めた。じゃあ、コメディーとして新たに自分の「12人」をつくろうと考えて、それが最初のきっかけです。
稽古場では「僕らも模擬陪審員裁判をやろう」と提案して、陪審員役を演じる役者たちに裁判ものの映画を見せた。アメリカ映画の「或る殺人」(59年)と野村芳太郎監督の「事件」(78年)。判決が出るクライマックスシーンの前でビデオを止めて「これは有罪か、無罪か」を真剣に議論し合ってもらった。かなり盛り上がりました。そんなことも参考にして台本を練り上げていきました。
でも、稽古している最中は、この芝居が本当にウケるのか、すごく不安でした。ワンシチュエーションで暗転もなく、ひたすら12人の陪審員が「有罪だ」「無罪だ」と議論していて、しかもコメディー仕立て。そんなお芝居、僕らもやったことがないし、お客さんも見たことがないはず。もしかしたら、みなさんキョトンとして、すぐ飽きてしまうんじゃないかと。
でも、初日の幕が開いたら、びっくりするほど反応がよかったんですよ。僕も役者として舞台に出ていたから、今もその日のことを実感として覚えている。「怒れる男」とは正反対で、ずっと無罪を主張していた陪審員たちが1人ずつ有罪に考えを変え、最後に2人だけが残る。そこから、あることをきっかけに、無罪派の反撃が始まるんですが、その瞬間の客席の空気がガラリと変わった感じ、いまだに鮮明に記憶に残っています。まるで野球観戦で大逆転していくチームを応援するような盛り上がりでした。こんなにお客さんがのめり込んで楽しんでくれた舞台は初めてだったから、僕も役者たちも驚きました。
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