検証「ニッポンの死刑」(上)法務省はほぼ情報公開せず…死刑執行や死刑囚の実態など「秘密のベール」は分厚い
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年9月25日 9時26分
当時公開された刑場の「執行室」。奥が「立会室」/(提供)法務省
日本の死刑制度が揺らいでいる。1966年に起きた静岡県一家4人殺害事件の犯人とされ、死刑が確定した袴田巌さん(88)の裁判をやり直す再審で、静岡地裁は26日に判決を言い渡す。戦後、死刑事件の再審判決は4件あるが、その全てに無罪が言い渡されており、袴田さんも無罪となる公算が大きい。
NPO「クライムインフォ」によると、1945年以降に日本では718人に死刑が執行された。今年9月現在で、刑事施設に収容されている死刑囚は107人にのぼる。
しかし、死刑執行や死刑囚の実態が伝えられることはほとんどない。法務省は死刑に関する情報をほとんど公開せず、厚い「秘密のベール」に包んでいる。このことが、日本で死刑に関する議論を阻んでいることは明らかだ。
今年7月、民主党政権下で法相を務めた千葉景子氏に死刑制度についてインタビューした。千葉氏は法相在任中の2010年7月、死刑囚2人の執行命令にサインしたが、執行に自ら立ち会い、その後に刑場をメディアに公開するという異例の対応を取った。
千葉氏の話の中で驚かされたのは、執行する死刑囚の順番をどう決めているか法務官僚に質問しても、具体的な基準や経緯については明らかにされず、「よくわからなかった」と述べたことだった。死刑執行に至るプロセスを法相に十分説明しないまま、執行命令のサインを求めているのであれば、実質的に法務官僚が死刑囚の生殺与奪の権を握っていることになる。
就任前から死刑廃止の立場を取っていた千葉氏が、批判を覚悟しながらも執行を決断したのは、情報を公開して議論を進めたいとの思いがあったからだ。だが、法務省内に設置した死刑制度に関する勉強会は、存廃両論併記の報告書をまとめたのみで終結した。刑場公開後も、法務省は情報公開に後ろ向きな姿勢をとり続け、国会での議論も進んでいない。
死刑が執行されると、法相が臨時記者会見を開き、処刑された死刑囚の名前などを公表する。しかし、その死刑囚を選んだ理由や執行の状況などについて質問が及ぶと、法相は「死刑囚の心情の安定に差し障りがある」「お答えを差し控える」と繰り返すだけで、回答はゼロに等しい。それは死刑という究極の公権力を行使した責任者として、極めて不誠実かつ不適切だ。
法務省や国会議員は、議論を喚起しようとした千葉氏の思いに、いま一度向き合うべきではないだろうか。(つづく)
(佐藤大介/共同通信編集委員兼論説委員)
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