会社員時代は経理担当で几帳面な性格の78歳男性。認知症を発症した今も…【老親・家族 在宅での看取り方】
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年9月25日 9時26分
現役時代の生活習慣が立ち居振る舞いに色濃く表れる(C)日刊ゲンダイ
【老親・家族 在宅での看取り方】#112
先日、SNSでたまたま見かけた医療関係者によるツイートが、非常に興味深いものでした。
元銀行員の認知症患者さんが、残業中の投稿者に「どこの数字が合わないの? 手伝うよ」。また、元看護師の認知症患者さんで、病棟が忙しすぎるような時にはナースステーションまで来て、「なんか手伝おうか?」「(自分の点滴を自分で)止めておいたよ」──。
私も似たような経験をすることがあり、投稿者に親近感を抱いたのです。
患者さんの中には、認知症の前段階といわれる軽度認知障害(MCI)や、認知症であってもごく軽症の方もいます。こういった方々は、短期の記憶は抜け落ちやすいものの、日常生活は十分に自立して送れます。
傾向としては、これまでの経験、培ってきた考え方、現役時代の生活習慣などが立ち居振る舞いに色濃く表れるように感じており、サポートする私たちはそれらを軽視せず、注意して接するようにしています。
78歳の男性患者さん。転倒して大腿骨を骨折し入院。それによって筋力が低下し、歩くこともままならなくなり、ADL(日常生活動作)が低下。通院が難しくなったことから、当院での在宅医療を開始することになった方がいます。
この患者さんは認知症の初期の段階で、もともとの性格か、じっとしていることが苦手。不整脈や糖尿病などといった慢性疾患を患っています。
お聞きすると、会社員時代は経理を担当し、数字を細かく確認することが得意だったとのこと。几帳面な性格に仕事の習性も加わり、家計簿の数字を定規で書きそろえたり、全てのレシートをコピーしたりするほどだったそうです。
それがいまは、自分でやろうとしても、うまくできない。我慢できずに奥さんや息子さんに強要するようになり、家族の方も独特な介護疲れを感じているとのことでした。
「これはボク個人の電話番号で個人情報なので、他言しないように。今言った電話番号を読み上げてごらん」
「あなた何歳なの? 若いね、まだ社会に出て3年目なのね。もう少しスムーズに案内できるようになったら、もっといいと思うよ」
病気により、これまでのことができなくなった今でも、元の性格が色濃く出ているのは、彼が自信を持って仕事に取り組んでいたことの証拠のように感じます。
自分らしく生きようとする自尊心は誰でも持っていると、私は思うのです。
(下山祐人/あけぼの診療所院長)
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