検証「ニッポンの死刑」(下)犯罪被害者遺族の感情は決して一様ではないことを忘れてはならない
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年9月27日 9時26分
再審で「無罪判決」に(日課の散歩に出かける袴田巌さん=25日)/(C)共同通信社
死刑制度を考える上で避けて通れないのは、犯罪被害者遺族の感情だ。日本の刑法上では殺人以外でも死刑となり得る犯罪があるが、実際に適用されたことはなく、死刑判決は故意に誰かを死に至らしめた事件に関して下されている。
事件には被害者がおり、被害者の多くには家族や親類などの遺族がいる。大切な人の命を突然奪われ、残された人が加害者に怒りを覚えるのは当然だろう。
■「死をもって償うべき」
2019年に内閣府が実施した世論調査では、死刑制度について約8割が「やむを得ない」と回答した。そのうちの6割近くが、理由として「被害を受けた人やその家族の気持ちがおさまらない」ことを挙げている。「犯人は死をもって償うべき」という遺族の声が、死刑制度を支える柱の一つになっているのは間違いない。
今年7月、法曹関係者や国会議員らが参加し、筆者も委員を務める「日本の死刑制度について考える懇話会」の会合で、被害者遺族の意見を聞く機会があった。
2007年に起きた闇サイト事件で、当時31歳の長女を殺害された磯谷富美子さん(73)は、殺害の経緯を詳しく述べた上で「ご自分の娘や息子の命、愛する家族の命を奪った加害者に対しても、死刑反対と言えますか」と、集まった委員に問いかけた。
殺害される様子はあまりにむごく、磯谷さんの話に言葉を失った。「残された遺族が前を向いて生きていくためにも、死刑は必要なのです」という訴えは重い。
■「同じような被害者を出さないで」
だが、被害者の考えは決して一様ではないことも事実だ。1997年に8歳の息子をひき逃げ事故で亡くした片山徒有さん(67)は、死刑には反対の立場をとっている。懇話会の委員も務める片山さんは、7月の会合で「求められるのは厳罰ではなく、同じような被害者を出さないこと」と述べ、罪を犯した人の更生が重要と強調した。
片山さんは「犯罪は社会の痛みそのもの」とし、加害者が罪と向き合い、過ちを繰り返さないようにすることを考えるべきと話す。
どちらが正しいというわけではない。ただ、被害者の感情は決して一様ではないということは忘れてはならない。被害者感情を理由に世論が死刑を続けるのは、一方的な決めつけとも言える。さまざまな被害者遺族の声を聞き、どういった支援が必要かを議論することが重要で、その取り組みは極めて不十分なのが現状だ。
(佐藤大介/共同通信編集委員兼論説委員)
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