投手の「球数制限」には反対表明 07年夏制覇の佐賀北元監督に真意を聞く

日刊ゲンダイDIGITAL / 2019年8月4日 9時26分

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百崎敏克氏(C)共同通信社

 大船渡・佐々木朗希が岩手大会決勝で登板回避したことで、百家争鳴の議論が巻き起こった。それは、高校野球界で大きなテーマとなっている球数制限の問題にも直結する。4月にスタートした日本高野連による「投手の障害予防に関する有識者会議」は、2度の会合を経て、一定期間に限定して球数総数に制限をかける方向になった。会議メンバーとして球数制限に反対の意思を表明し、2007年夏に佐賀北を率いて全国制覇を果たした百崎敏克氏(63=佐賀北野球部副部長)に話を聞いた。

■何年後かに当たり前になる

 ――大船渡・佐々木の登板回避について、議論が巻き起こっています。

「07年夏、甲子園で計73イニングを2人の投手で戦いました。でなければ勝てなかったからです。その一方で、地区大会を投手1人に投げさせて甲子園へ行ったこともある。故障が心配なので本人やトレーナーに直接的、間接的に話を聞くなど気を使いました」

 ――大船渡の監督だったらどうしていましたか。

「佐々木君が痛いといったら止める。肩肘に異常が認められず、周囲に止める人がいなければ投げさせるでしょう。負けたら終わりの大会ですからね。選手の立場として、甲子園に行くために痛みを隠してでも投げたいという気持ちもわかるし、故障に配慮をする気持ちもわかる。今回の起用が間違っているとは言えない。国保監督は佐々木君の将来に悪影響を及ぼすと判断したのだと思う。今回のケースは、何年後かに当たり前になってくるかもしれません」

 ――モデルケースですね。

「選手を守る、連投や酷使による故障を避けるという方向で一致していくでしょう。そうなれば、1人の選手が毎日のように連投して周囲の感動を呼ぶこともなくなる」

 ――昨夏の吉田輝星(金足農)は二度と出てこない。

「一つ負ければ終わりというトーナメント制と球数制限は、本来は相いれないものだと思います。トーナメントを戦いながら、球数を多く投げることによる故障をケアするのであれば、環境を整備しなければならない。球数だけを制限すればいいという単純な問題ではないと考えています」

 ――4月の有識者会議で球数制限に反対の意思を表明した。「佐賀北では昨年の高校3年生の19人中、大学でも野球をやるのは1人だけ。高校で野球をやるのが彼らの最大の目標。将来ではなく、今なんです。私たちにとって」と話していました。

「その考えに変わりはありません。私は引き分け再試合(07年夏の宇治山田商戦)の経験もありますから、タイブレークにも反対でした。そんなルールで勝ち負けを決められたら、たまったもんじゃないよと(苦笑い)。ただ、これは難しい問題です。未来より今、と言って、そうだという人もいれば、今回の大船渡の結果を受けて、だったら故障してもいいのかと言われると……。本当に難しい。高校野球、プロ野球経験者も意見は真っ二つに分かれている。これという正解はない。しかし、何らかのルールができれば、それに従わざるを得ない。私は球数制限だけで終わらせるのではなく、投手の肩や肘を守るために、細かなルールをつくる必要があると思っています」

高校野球の原風景はなくさず

 ――会議では木製バットの導入を提案した。

「次回の有識者会議で何を提案するかは今はお話しできませんが、例えば指名打者制があれば投手はずいぶん楽になる。死球によるケガのリスクがなくなる。試合時間に制限を設けるのも手。野球はサッカーと違って制限がない。七回からカウント1―1でスタートすれば試合時間は短くなり、球数も減る。(球数制限による)相手打者の待球作戦はなくなるでしょう。また、サスペンデッドを導入すれば投手の肩の消耗度は小さくなる。試合途中でノーゲームになっても、球数はリセットされません。ベンチ入りメンバーは18人のままでも、登録メンバーを25人にし、そこから18人を選んでもいい。システム化することで本来の高校野球の熱さはなくなるでしょうが、トーナメント制を維持するなら、何より選手の負担を少なくすることが大事です」

 ――日程の問題は?

「日程を長くしたり、なるべく試合間隔を空けたりするとなると、(運営上の)問題が出てくる。そこが課題でしょう」

 ――球数制限は、特に部員数が少ない公立校の間で「私立が有利になる」との反対の声が根強い。

「私は公立だから、私立だからと限定的に考えていない。(有識者会議メンバーの)渡辺(元智)さん(元横浜監督)も(私立の立場で)反対されている。どれだけ投手がいても、決勝戦など最後はこの1人という采配になる。プロも同じです。優勝した07年当時、特待生問題があった。『公立は大変でしょう』『公立だからひいきされた』などと言われたが、私立だって、寮生活で生徒が親元を離れるなど大変なことはある。公立も投手を育て、人数が少なければ複数のポジションを守れる生徒を育てないといけなくなるのは明白。その中で、100年続いた日本にしかない高校野球の醍醐味をどう考えるかです」

 ――醍醐味とは?

「地区大会から負けたら終わりという戦いがファンの感動を呼んできた。ウチのような名もないところが頂点を極めたり、前回の優勝校がいきなり初戦で負けたり、そういったドラマはなくなっていくのではないかということです。高校でもプロでも大活躍する選手は中にはいますが、基本的にその両方は成り立たない。たとえ、佐々木君が私立に行っていたとしても、同じ起用になったかもしれない。大船渡さんの一件を見て、時代の流れを感じたと同時に、高校野球ドラマがなくなると感じた方は多いのではないでしょうか」

 ――制限を加えれば加えるほど、かつてのドラマ性は失われます。

「だから私としては、高校野球の原風景だけはなくさないでほしい。時代が変わっても、指導者も生徒も白球を追って汗水を流す。そういう泥くささですよね。あまりにもスマートになり過ぎないように。そういう思いを持って、残り2回の有識者会議に臨みたいと思っています」

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