宇宙空間の距離をはかる新しい方法を研究者たちが考案

GIZMODO / 2019年9月25日 19時0分

Image: ESA/Hubble via Gizmodo US

宇宙は混沌に満ちています。その混沌に満ちた宇宙を説明するための理論も、また混沌に満ちています。

たとえば、宇宙空間の距離のはかり方。

宇宙は膨張し続けていると考えられてますよね。宇宙のはるかかなたから送られてくるギリギリ観測できるかできないかぐらいの電磁波から、科学者たちは宇宙の膨張率を計算できるそうです。ところが、もっと地球の近くにある天体から発せられた電磁波をベースに計算してみると、さっきのとは異なる膨張率になってしまうのだとか。

計算が合わないということは、もしかしたら宇宙の膨張を予測している理論そのものが破綻しているのかもしれません。あるいは、計算のしかたがよろしくないだけなのかもしれません。

この問題を解決するべく、マックスプランク宇宙物理学研究所の研究チームが、宇宙空間の距離をはかる新しい方法を考え出したそうです。

学術誌『Science』に掲載された論文の筆頭著者、Inh Jeeさんによれば、この新しいはかり方は、どの宇宙モデルをベースにしても結果は不変。「それが一番注目してほしいところ」だと米Gizmodoに語っています。

どんなはかり方なのかを知る前に、宇宙の膨張についてもう少し。

膨張する宇宙

宇宙望遠鏡の名称にも冠されたアメリカの天文学者、エドウィン・ハッブル。彼が1920年代に打ち立てた宇宙膨張説が、現在の宇宙理論モデルの出発点となっています。

ハッブルは、地球から遠い天体が地球から遠ざかっていることを初めて発見しました。さらに、遠ざかっているということは、宇宙全体が膨張しているのだとも推測したわけです。この遠ざかるスピードを数式で「ハッブル定数」を使って表したまではいいのですが、ハッブル定数の測定値については長い間議論されてきました。

欧州宇宙機構(ESA)が2000年に打ち上げた人工衛星『プランク』を使った観測データからは、ハッブル定数が67.4キロメートル毎秒毎メガパーセクだと割り出されました。1メガパーセクは326万光年。要するに、326万光年離れた距離にある天体同士は毎秒さらに67.4キロメートル離れていっている、という意味です。

見かけの距離だけで実際の距離をどう割り出すか

しかしながら、もっと地球に近い光源から計算した場合は、膨張率が決まって67.4よりも大きい数値になってしまっていました。この誤差がどこから来るのかで科学者たちの見解は分かれていました。計算エラーかもしれないし、天体同士の距離をはかり間違えているのかもしれないし、そもそも宇宙膨張説が間違っているのかもしれない。

宇宙の果てまで飛んでいって実際距離をはかるわけにはいきませんから、なかなかの難題です。

従来、宇宙空間の距離は標準光源(standard candle)を使ってはかります。標準光源とは、超新星だったり、明るさに相応して一定のペースでまたたく天体など。対象の天体が標準光源と比べて明るかったらより近く、暗かったらより遠くにある…というように、おおよその距離を推測しています。

でも、このように絶対的ではない距離を使ってハッブル定数を計算しようとしても、どうしてもエラーが出てしまうのではないか?とマックスプランク宇宙物理学研究所の研究チームは考えたわけですね。

重力レンズ効果を使った新しいはかり方

そこで目を付けたのが、ものさしを使った方法。

ハッブル定数を測定しているHoLiCOW(英語のスラングで「なんてこったいッ!」というような意味合いのお茶目なアクロニム)という名の研究チームは、重力レンズによって曲げられた天体の半径を「ものさし」に見立て、その絶対的な距離を計算に使うことにしました。

重力レンズというのは、銀河のような強大な重力を持つ天体を地球から見た場合、その銀河のさらに遠くにある天体の光が銀河の重力によって曲げられてしまうため、あたかも遠くにある天体が銀河の回りを丸く取りまいているように見える効果のこと。

Image: ESA/Hubble & NASA 手前の赤く輝く銀河の重力レンズ効果によって曲げられた青い銀河の光。

この写真を見るかぎり、素人は「へえ~!キレイ~」なんて喜ぶだけ(筆者含め)ですが、天文学者の明晰なる頭脳にかかれば、重力レンズ効果で曲げた銀河と曲げられた銀河のなかを周回する星の速度を計算し、それによって星の重力や質量を計算し、銀河の重力や質量を計算し、はたまた銀河同士の間の距離だって計算できちゃうんだそうです。たった一枚の画像からこんなにいろんなことがわかってしまうなんて、スバラシイ…。

このような綿密な計算を行なったうえで、重力レンズ効果をもたらしている銀河をものさしに見立てて、宇宙空間の距離をはかることもできるわけですね。

膨張率がさらにスピードアップ?

そこで、重力レンズ方法で新たにハッブル定数を計算してみた結果、82.4キロメートル毎秒毎メガパーセクという、やや高めの数値が出たそうです。でも今回の試算は統計誤差が大きすぎて、実際には使い物にならないそう。

まだ試験的な試みだったのに加えて、計算に入れた天体はたったふたつしかなかったそうです。これから同じメソッドの精度をどんどん上げていけば、より正確なハッブル定数に行きつくのではないかと期待されています。

宇宙論の限界

ハッブル定数の計算を試みているチームはHoLiCOW以外にもたくさんあり、世界中の科学者がいろいろなはかり方を試しています。標準光源やものさしを使う研究のほかにも、中性子星の衝突からハッブル定数を割り出そうとしている試みまであるんだそうです。

なぜこれほどまでに世界中の科学者がハッブル定数について議論を重ねているのでしょうか。

それは、ハッブル定数と、その数値があらわす宇宙の膨張は、現代でもっとも影響力のある宇宙論といって間違いない相対性理論の限界でもあるから。 相対性理論があてにならないところで、新しいアイディア、新しい研究、そして新しいイノベーションが生まれ、宇宙のほんとうの姿を解き明かしてくれるかもしれないから。

限界は、同時に新たな挑戦の場所でもあるのです。

Reference: Science

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