高級タワマン老人ホームへ引っ越しました!…慶應卒・78歳同期の元常務から届いた満面の笑みの年賀状。年金月30万円・元部長は即座に画像検索「脅威の入居金額」に悶絶
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年11月29日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
高齢化社会が加速するなか「終の棲家」を巡り、不動産業界は富裕層を取り込もうとさまざまな戦略をたてている。大手デベロッパーは富裕層をターゲットとした入居金に数千万円~数億円がかかる高級老人ホームを展開。老後の住まいに選択肢が増えることは喜ばしくも思えるが、一方で深刻な格差が浮き彫りとなっている。老人ホームをめぐる老後格差とは? 1,000万円超を支払い、老人ホームへ入居した大手メーカー元部長の佐藤さん(仮名)に詳しく話を聞いた。
大手メーカー元部長、老後に転落
「飯はマズイし、職員の愛想は悪いし、最悪だ」
78歳の佐藤さん(仮名)。こちらの顔を見るなりこう吐き捨て、半年前に入居した老人ホームについて延々と愚痴り始めた。神奈川県の郊外に立地し、病院との連携や24時間看護師常駐を売りにした同施設は明るい雰囲気で、スタッフの挨拶も丁寧だった。しかし、佐藤さんは「料金の割に全然サービスがなっていない」と終始立腹した様子だった。
佐藤さんは誰もが知る世界的な大手メーカーで部長職を経験するなど、順風満帆のサラリーマン人生を歩んだ。娘と息子も育ち、退職後は夫婦で世界一周旅行を楽しむなど悠々自適の生活を送っていたが、妻の早逝を機に老人ホームに移住したことから転落が始まったという。
元同期が入居した高級老人ホームとの格差
「ちゃんとした老人ホームに比べたら、こんなところ、カスみたいなもんだ」
憤る佐藤さんに詳しく話を聴くと、こんな答えが返ってきた。佐藤さんの怒りの原因は、会社員時代の同期である高橋さん(仮名)が住む高級老人ホームとの格差だという。
佐藤さん曰く、高橋さんとは入社以来の友人で、家族ぐるみの付き合いだったという。しかし、サラリーマン人生の終盤、大きな差がついた。高橋さんは常務にまで上り詰めたが、佐藤さんは部長どまりで、最終的に子会社に転籍してサラリーマン人生を終えたのだ。
現役時代から鬱屈した気持ちを抱えていた佐藤さんだったが、決定打となったのが、かつてのライバルである高橋さんが入居しているのが有名な高級老人ホームだったと知ったことだ。引っ越しを告げる写真付きの年賀状には、高級感のあるタワー型の建物が写っていた。
調べてみると、都心の閑静な住宅街にあるその物件は入居一時金だけでも数千万円、それに加えて月額料金が30万円以上かかるという。夫婦で入居したというからそれぞれ2倍かかる計算だ。しかし、その施設は大浴場などの充実したハードに加え手厚いサービスで知られ、入居者に合ったリハビリプラン策定や、手の込んだ料理が特徴だ。
出世レースで惨敗…老人ホームはサラリーマン人生の通信簿
「あいつは役員報酬だけでも毎年何千万円ももらっていたし、年金も俺より全然もらってるはず」
佐藤さんの恨み節は止まらない。もともと、高橋さんは同期だったが、先に部長に昇格するなど、出世レースで先頭を走っていたのは自分だったという。役員のポストも目前に迫っていたが、そこで異変が起きた。
ライバルである高橋さんのかつての上司が社長に就任したのだ。加えて、高橋さんと社長は同じ慶應大学出身で、三田会というつながりがあった。一方、地方の国立大学出身だった佐藤さんは学閥の恩恵を受けることができず、そこで出世が止まったという。当時の悔しさが再燃し、最近ではOBの集まりにも顔を出せていないという。
資金面の悩みも尽きない。大企業で定年まで務めたということで企業年金もあり、年金月額は30万円。それなりに資金面でゆとりはあるはずだが、1,000万円を超える入居一時金を払ったことに加え、毎月20万円近くかかる費用は決して軽くない。
銀行に言われるがままに退職金を資産運用していたものの、リーマンショックやギリシャショックで元本を大きく割り込み、怖くなって現金化したためでアベノミクス後の株価上昇に乗れなかったことも痛手だ。いまは自宅を売却して得た資金を取り崩しながら生活しており、目下のインフレに怯えながら生活している。
老後資金と孤独に怯える余生
妻に先立たれたことによる孤独も佐藤さんの精神を蝕んでいる。モーレツが美徳とされた時代だけあって、佐藤さんは毎晩夜遅くまで働き、週末も取引先や上司とのゴルフで潰れた。
子どものこともすべて妻に任せてきた。専業主婦だった妻は家族のためだと理解してくれたというが、子どもたちの受け止め方は違ったようだ。妻が亡くなった途端、子どもたちとは疎遠になり、誰も訪ねてくれないという。
老人ホーム内の交流はないのかと聞いたが、「あいつらとは話が合わない」と取り付く島もない。施設内を見学すると、女性の入居者同士で談笑している一方、男性入居者の多くは一人きりで新聞や雑誌を読んだり、テレビをぼうっと見ていたりと、うまく交流ができていないようだった。高級老人ホームと違い、ギリギリの人数で回しているため、交流プログラムなどが少ないことも理由の一つのように思えた。
少子高齢化が加速するなか、「終の棲家」を巡る商戦は盛り上がっており、三井不動産が西麻布に建設したタワー型の超高級老人ホームは帝国ホテルのシェフが手掛ける料理や、入居一時金が5億円を超える部屋もあることで話題を呼んだ。もっとも、こうした施設に入れる「勝ち組」は一握りだ。
富裕層が何不自由ない快適な老後を楽しむ一方、そうでない人は逆転の機会を持てないまま、老後資金の枯渇や孤独に怯えながら余生を過ごすことになる。「生きてて楽しいことはないし、早く楽になりたい」と語る佐藤さんの姿はあまりにも切実で、掛ける言葉が見当たらないまま、取材班は施設を後にした。
過去の成功体験との落差が、佐藤の心を蝕んでいるのかもしれない。そしてトドメを刺すかのように、かつての同期、高橋さんからのマウンティング年賀状は彼の心に深い傷を残した。
しかし、佐藤さんが羨む高橋さんの生活が、はたして本当に幸福なものかどうかはわからない。高級老人ホームは、高額な入居金で質の高いサービスを契約することができても、幸福な老後を約束するわけではない。佐藤さんのように、かつての成功体験に縛られ、他人と比較して現状を悲観する人も多いが、経済的な豊かさだけでは、心の充足は得られないのではないだろうか。佐藤さんの余生がこのままとはならないことを願うばかりである。
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