我慢が限界突破…「年金25万円」家族にすべてを捧げた元地方銀行員、勤労の成果「退職金2,000万円」が老後5年で底をついた理由【FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年12月14日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
定年まで頑張って働いた人ほど、リタイア後は悠々自適に暮らしたいと考えるもの。しかし、老後には“想定外”がつきものです。特に昨今増えている晩婚・晩産夫婦には注意が必要で……。本記事では、田中さん(仮名)の事例とともに、晩婚・晩産夫婦の老後の注意点についてFP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。
娘の進学のため、定年後の楽園は泡と消え…
地方銀行に40年勤め上げ、5年前、定年を迎えた田中秀夫さん(仮名/70歳)。長年の努力の末、2,000万円の退職金を手にし、妻の京子さん(仮名/69歳)の年金と合わせると月額25万円の公的年金を受け取っています。老後を悠々自適に暮らすには十分な額でしょう。
田中さんには遅く生まれた次女の美香さん(仮名/25歳)がいます。長女と長男の2人はすでに社会人として独立していましたが、次女の美香さんは遅くに生まれたため、まだ県外の大学に通っていました。田中さんの退職当時はまだ大学3年生。
「卒業まであと1年とちょっとで卒業だし……」
この予定は大きく変更になりました。退職後、娘から予想もしていなかった言葉を聞いたのです。
「大学院に行って研究職の道に進みたい」
理系の大学に通っていた美香さん。今後も研究を続けていきたいと考え、大学院への進学を希望します。4年で卒業して就職するものだと思っていた田中さん夫妻にとっては想定外のことでした。すでに退職を決定し、収入もなくなるタイミングで聞いた次女の大学院進学の申し出でしたが、不安に思ったものの「大事な娘のため」と引き続き学費を支払うことにしたのでした。
なかなか博士号は取得できず…
田中さん夫婦は、当初「子供の夢は当然手助けしてあげたい」と考えていました。しかし、当初2年の予定でしたが、2年を経過しても博士号を取ることができず、3年、そして4年と大学院に居続けたのでした。
大学院への進学を決めたときから田中さんはなんとか収入を増やそうと仕事を探しましたが、高齢であることと地方在住ということもあり、清掃作業や旅館のアルバイトしか職を見つけることができませんでした。アルバイトを掛け持ちするものの、収入は手取りで月に10万円いけばいい程度。
美香さんにはお金のことを話すことができず、無理をしながら学費に住居費にとお金を掛けていきます。そして、そのあいだには住宅のリフォームもあり1,000万円の支出が発生しました。退職してからのたった5年間で老後資金はもう残り300万円ほどになってしまったのです。
「いつまでこの状況が続くのか……」大きな不安を感じていますが、なかなか美香さんにはいえずにいました。
吉報!次女、博士号を取得
我慢の生活が限界を迎え、ようやく美香さんに打ち明けようとしたとき、なんと美香さんは審査に合格。博士号を取得することができたという知らせが届いたのでした。
大学に居続けて仕事をすることもできますし、高収入も期待できる仕事に就くことができ、一安心の田中さん。しかし、当の本人は老後の資金をほとんど使い果たしてしまい、老体に鞭を打ちながら生活を支えるためにアルバイトを続けています。「老親でも末娘の夢を助けてやれた、そう思うと自分が誇らしくて励みになるんです」田中さんは生活に苦しさを感じながらも笑みを浮かべていました。
自分達の現状から最適な方法を選ぶ
田中さんの場合、安易に老後資金に手をつける前に、奨学金や学資ローンという選択肢を検討すべきだったでしょう。奨学金を借りることで娘の美香さんが返済していくことになりますが、収入が高い職に就くことができれば無理のない返済も可能です。お金を借りて自分でしっかり返済していくことを決意することで、学ぶための覚悟にもなるでしょう。
使う用途がしっかりあれば借りることができますが、無理に老後資金を切り崩してしまい、卒業したあとでは子どもの教育資金として教育ローンを利用することはできません。奨学金を「借金」と嫌う人も多いものですが、しっかり将来を考え、無理のない返済計画を立てておくことで活用したほうがメリットが多いケースもあることを知っておいたほうがよいです。
手元の資金はできるだけ使わずに、返済金を借りて運用しながら取り崩すことで老後もゆとりを持つことができたでしょう。さらに、卒業後に老後の資金の中から一部援助してもよかったでしょう。
家族との対話の欠如
また、娘の美香さんと、卒業したらどうしたいのかを親子でコミュニケーションを取ることも必要だったといえます。大学院に進学したいと考えていても、親に遠慮してなかなかいい出せないこともあるかもしれません。そういった際、将来をどう考えているのか、親として娘の話を聞くことも大事です。
晩婚・晩産の老後
晩婚化が進み、田中さんのように母親の年齢が40歳以降で子供を持つことになったという夫婦も多いもので、2018年の厚生労働省人口動態統計によると5万2,917人となっています。これは、出産した人数のうち5.8%が40歳以上だったことを示します。
晩婚・晩産の場合には老後の資金と教育資金という、大きなお金が必要になるタイミングが重なるため、より事前にしっかり計画を立てておく必要があります。
かわいい子供のためですから、親としてはできるだけお金のことで制限をかけずに、やりたいことをやらせてあげたいものですよね。しかし、無理をして自分たちの老後が立ち行かなくなってしまっては本末転倒です。生活資金が足りない、介護資金がないといったことになっては後々困るのは子供たちです。
老後には想定外の支出もありますので、しっかりライフプランを考えてゆとりを持って資金を用意しておくことは大事です。実際に想定外の支出があった場合には、いま自分たちにどのような選択肢があるのかを知り、なにをすべきなのかを一度立ち止まって考えてみることが必要です。
ファイナンシャルプランナーなどの専門家も活用しながら、自分たちが使うことができる選択肢の中からなにをどう組み合わせて資金を準備し、やりたいことを実現していくのか、自分たちに合った方法を考えて決断していくとよいでしょう。
小川 洋平
FP相談ねっと
CFP
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