日本のワイン用ブドウの銘醸地・長野県塩尻市で新たなブドウ畑が誕生
&GP / 2017年7月4日 20時0分
日本のワイン用ブドウの銘醸地・長野県塩尻市で新たなブドウ畑が誕生
このところずっと、国産ブドウのみで造られる“日本ワイン”が好調です。今や、日本ワインを専門に出す飲食店も珍しくなく、日本各地に新しいワイナリーも次々と誕生しています。
ビール系の大手各社も日本ワインの増産を発表していますが、ブドウの供給が追い付かない状況となり、畑の拡大に取り組んでいる、というニュースが入ってきています。
日本ワインのリーダー的な存在である「シャトー・メルシャン」も、ブドウ不足を補うため、新しいブドウ畑を長野県塩尻市に拓くことになりました。その植樹式が行われるというので、塩尻に行ってきました。
■新たなブランドになることを期待して
塩尻には、メルローの栽培で有名な「桔梗ヶ原」(ききょうがはら)があります。1989年にスロベニアで開催された第35回リュブリャーナ国際ワインコンクールで、「シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルロー1985」が、日本のワインとして初めて大賞金賞を受賞しました。これは日本ワインが国際レベルの高さにあることを知らしめた出来事で、以来、塩尻はメルローの銘醸地となりました。
その「桔梗ヶ原」の北東にある片丘地区が、今回メルシャンが新たなブドウ畑として選んだ場所です。JR塩尻駅から約15分、バスで山の斜面を縫うように進んでいくと、駅周辺では終わりかけの桜が、ここ片丘では満開の状態で迎えてくれました。
メルシャンは片丘地区の北熊井、南内田という2つのエリアに合計9haの土地を確保し、2015年から造成を始めました。2017年度は、北熊井の2ha、南内田の1ha、合計3haに、約9000本の苗木(メルローとカベルネ・フラン)を植えていくといいます。
植樹式が行われたのは北熊井にある畑で、標高800mの西向きのゆるやかな斜面にありました。写真の奥に見えるのは、槍ヶ岳や穂高といった北アルプスの山々です。
畑は耕されて穴が掘られ、苗木を支える棒が1mの等間隔に立てられていました。この棒に寄りかからせるように、ブドウの苗木を植えていきます。
植樹の方法を説明してくれたのは、メルシャンヴィティコール塩尻株式会社の代表取締役、勝野泰明さんです。
▲用意されたのはメルローの苗木で、根まで含めると全長50cmほど
▲畑は小石や砂混じりの土壌で、握りこぶし大の礫(れき)も混ざっていたそう。硬い礫を取り除く作業はとても大変だったとのこと
▲ブドウの苗木は接ぎ木がされています。根となる台木と枝となる穂木をつなぐため、苗木の途中が少し曲がっているのがわかります
▲棒の柱に添わせて植えますが、曲がって外を向いている枝が外側に来るように植えるのがポイント
▲苗木が傾かないよう、手で押さえながら根元に土を入れていきます
▲ある程度土を入れて押し固め、横に広がっていた根がまっすぐ垂直になるよう、苗木を軽く上に引き上げます
▲さらに土をかけ、根元を足で踏み固めていきます
畑と同じ高さまで土を盛り、1本につき、3~4リットルの水を注いだら完了です。
これを1本ずつ繰り返します。1日に植えることができるのは、約400本だとか。
植樹の手順を学んだところで、いよいよ関係各社の代表による植樹式です。
「醸造用ブドウ不足を補うため、2年前に新たにブドウ畑を拓くことを決めた。片丘は、見晴らしがよく、風通しがよく、水はけがよく、日照もたっぷり。桔梗ヶ原に続くブランドになることを期待している」と、メルシャン株式会社の代野照幸社長。
▲塩尻市長の小口利幸さん(左)とメルシャン代野社長により植樹が行われました
▲革靴とスーツ姿のお二人でしたので、作業しにくそうでしたが、無事完了!
▲苗木の向きが少々よくなかったようで、スタッフに直されるヒトコマも(笑)
その後は、式典に出席された、塩尻ワイン醸造組合長をはじめとした関係者の方々も植樹を行ないました。
植樹を終え、水をかけられた苗木です。細くて、小さくて、頼りない枝切れですが、これが枝や蔓を伸ばし、葉を茂らせ、実を付けていくのですから、不思議なものです。
片丘地区の背後には、標高1660mの高ボッチ山があります。片丘より50m低い場所になる桔梗ヶ原は、梓川の扇状地にあり、盆地特有の底冷えがあります。片丘はゆるやかな傾斜地であるため、冷気が溜まらず、桔梗ヶ原より最低気温が0.2℃高く、最高気温が0.2℃低くなるそうです。
よって、桔梗ヶ原では収穫は10月12~17日頃が例年並みですが、片丘は真夏が涼しいので、収穫は1週間ほど遅くなることを想定しています。
「2014年7月24日、ここに立った時に、ここならうまくいく!と確信しました」と、シャトー・メルシャンの松尾弘則ジェネラルマネージャーは言います。
西に開けた傾斜地で、日照が豊富で、風通しも水はけもいい、ときていますからね。しかも、この周辺にはブドウ畑は元々ないので、ブドウの病気は少ないだろう、ということも非常に良い条件でした。
片丘地区の新ヴィンヤードは、3年計画で9haに植樹を行なっていきます。2017年に植えたブドウは2020年に初収穫を迎えますが、ワイン用のブドウとして使える品質になるのは、2023年頃になります。収穫し、仕込んだブドウがワインとしてリリースされるのは2025年です。今からまだ8年も先とは、ワイン造りは本当に時間がかかります。
片丘地区では、メルローやカベルネ・フランだけでなく、新たな個性を見極めるため、色々な品種を試してみる予定だそうです。特に、標高800m以上の高い場所には、ピノ・グリやゲヴュルツトラミネール等の白ブドウ品種を植えたいのだとか。白品種も楽しみです。
ブドウ畑のすぐ近くは、ちょっとした見晴らし台のようになっていて、こんなパネルが置かれていました。日本アルプスの山々が連なり、眺望の素晴らしい場所でした。
シャトー・メルシャンでは、塩尻南部の平出地区に台木畑の圃場を持っています。台木のバリエーションを増やすため、自分たちに必要な台木を育てていると言っていました。
■長野県は加工用ブドウ生産量日本一
シャトー・メルシャンは、すでに「桔梗ヶ原メルロー」で世界的な評価を得ていますが、それに満足することなく、さらに先へ、新しいことへと取り組んでいく姿勢に感心させられます。
現在、日本全体のワイナリーは、北は北海道から南は九州まで、200軒近くあります。中でも、産地としての伝統があり、ワイナリー数が最も多いのが山梨県で、明治7年(1874年)に、現在の山梨県甲府市で日本初のワイン醸造が行なわれました。
長野県では、ブドウ栽培は明治23年(1890年)、ワイン醸造は明治30年(1897年)と、歴史では山梨県に負けますが、加工用ブドウの生産量では、長野県が全国1位、山梨県は2位となります。また、ヨーロッパのワイン産地で見られる原産地呼称制度を日本で最初に導入したのは長野県で、「長野県原産地呼称管理制度」が2002年に制定されています。
さらに、長野県は、県内4つのワイン産地に名称を付け(日本アルプスワインバレー、千曲川ワインバレー、桔梗ヶ原ワインバレー、天竜川ワインバレー)、これら「信州ワインバレー」の活性化の支援を行なっています。
現在、10のワイナリーが集まる塩尻は「桔梗ヶ原ワインバレー」になりますが、地元では「塩尻ワイン」と扱い、地域全体で盛り上げています。
例えば、ワイナリーを徒歩やシャトルバスで巡る「塩尻ワイナリーフェスタ」の開催、塩尻市内の飲食店に塩尻ワインを持ち込める「BYO制度」(Bring Yout Own)、BYOの持ち込み料が無料となる、毎月20日は「塩尻ワインの日」など、塩尻に行きたくなる&塩尻ワインが飲みたくなる魅力がいっぱいです。
▲塩尻までは、新宿からJR中央線特急スーパーあずさで約2時間半
▲JR塩尻駅のロータリーにある塩尻市観光センターは要チェックです
▲観光センターでは、塩尻の物産が購入できるほか、ガイドマップやパンフレット類が色々と揃い、無料でいただけます
必携なのは、「塩尻ワインを飲める店 買える店 MAP」です。BYOできる店も含め、各店の情報が周辺マップとともに掲載されているので、とても便利ですし、眺めているだけでも楽しくなります。
メルシャンの片丘地区のブドウからのワインが飲めるのは、まだまだ先になりますが、塩尻を訪れ、ワイナリー巡りをしたり、地元の店で塩尻ワインを飲んだりしながら、まだ見ぬワインに思いを馳せるのも楽しいかもしれません。
※取材日:2017年4月27日
(取材協力:メルシャン株式会社/キリン株式会社)
(取材・文/綿引まゆみ)
ワイン専門誌や料理系雑誌での記事執筆をはじめ、日本ソムリエ協会webサイトのコラムなどを執筆。ワインセミナー、トークショー、海外のワインコンクール審査員など、幅広い活動を行なっている。チーズプロフェッショナル、ビアソムリエ、コーヒー&ティーアドバイザーの資格も所有。スイーツ好き。
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