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岡崎五朗の眼☆夢の内燃機関“スカイアクティブ-X”で、マツダはクルマ好きに新たな夢を見せる!

&GP / 2017年9月18日 21時30分

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岡崎五朗の眼☆夢の内燃機関“スカイアクティブ-X”で、マツダはクルマ好きに新たな夢を見せる!

2017年8月8日、マツダはガソリンエンジンでの“圧縮着火”を世界で初めて実用化した次世代エンジン“SKYACTIV-X(スカイアクティブ-X)”を、2019年から市場投入することを発表した。

世界の自動車メーカーやエンジン研究者たちが“究極の内燃機関”、“夢のエンジン”と位置づけながら、技術の壁に阻まれてこれまで実用化できずにきた“HCCI(予混合圧縮着火)”燃焼方式を採用した、全く新しいエンジンだ。

今回、そんな革新的エンジンのプロトタイプを、ドイツでひと足先にドライブすることができたので、その印象などをお伝えしたい。

この仕事を始めて30年近く。これまで多種多様なクルマに乗ってきたが、今回のように試乗前からワクワク感を覚えたことなど滅多にない。ガソリン車のようなフィーリングなのか? それとも、ディーゼル車のような印象なのか? はたまた全く違うものなのか?…。それくらいHCCIは、自分にとって未知のエンジン。

クルマ用の内燃機関というと、空気とガソリンの混合気を圧縮し、そこにスパークプラグの火花で着火・爆発させる(一般的な)ガソリンエンジンと、強力に圧縮した空気に軽油を噴射し、自ら着火・爆発させるディーゼルエンジンとに大別される。つまり、ガソリンを燃料としながら、圧縮着火というディーゼルエンジンの要素を採り入れたHCCIは、まさにガソリンとディーゼルのいいとこ取りともいえる。ではなぜ、そんな究極のエンジンは、これまで実用化に至らなかったのか?

HCCIの原理は、圧縮された空気が発熱する原理を応用し、スパークプラグなしに全体を一気に圧縮着火させるというもの。一般的なガソリンエンジンのように、スパークプラグによる部分点火を爆発のきっかけとしないため、およそ1対30という理論空燃比(最も燃焼効率が良いとされる空気と燃料の割合。通常のガソリンエンジンでは燃料1に対して空気14.7の割合)より非常に薄い混合気でもしっかり燃え、その分、燃費が向上する。つまりHCCIは、極めて薄い混合気の完全燃焼=スーパーリーンバーン(希薄燃焼)を実現するための技術ともいえる。

しかし、いうは易しで、いざそれを実用化するとなると、圧縮着火するタイミングの正確な制御が必要となる。同じく圧縮着火方式を採るディーゼルエンジンは、燃料の噴射が圧縮着火のタイミングとなるためコントロールしやすいが、軽油よりも引火しやすいガソリン(と空気の混合気)を使うHCCIは、気温や気圧、エンジンの温度、そして燃料の噴射量などによって圧縮着火のタイミングがコロコロ変わるため、緻密にコントロールするのがとても難しい。

もちろん、マツダ以外のメーカーも、長年、圧縮着火に関する研究・開発を続けており、中には試作車をジャーナリストたちにテストドライブさせた欧州メーカーもあるほど。しかしそのエンジンも、スーパーリーンバーン領域でこそ大いなる可能性を感じさせたものの、2割ほどといわれるその領域を外れると、異常燃焼によるノッキングが激しく、実用化にはほど遠い仕上がりだったという。

そんな技術の壁を打ち破るために、今回マツダが着目したのはスパークプラグだった。従来型のHCCIでも、始動直後や低温時、高負荷時などではスパークプラグによる点火・爆発の行程を導入していたが、そのためのスパークプラグを全域で活用したらどうか、という発想の転換が、今回のブレークスルーにつながった。それもあってマツダでは、スカイアクティブ-Xの燃焼方式を“SPCCI(スパーク・コントロールド・コンプレッション・イグニッション/火花点火制御圧縮着火)”と呼んでいる。

SPCCIでは、薄い混合気を、圧縮着火する直前まで圧縮した状態にしつつ、スパークプラグを点火(実はこの時、より点火しやすい環境を作るため、ピストンの圧縮行程においてスパークプラグ周辺部だけに少量のガソリンを追加噴射している)。その際、プラグの周りで生じた火炎球をもうひとつの“仮想ピストン”に見立て、上方からも圧縮するような状態にしてシリンダー内の圧力を一気に高め、それをきっかけにシリンダー全体で圧縮着火を起こさせる。これにより、圧縮着火のタイミングを完全に制御下に置けるようになった。

さらに、三元触媒は理論空燃比の領域でしか使えないことから、従来のリーンバーンエンジンではたびたび問題視されてきたNOx(窒素酸化物)についても、SPCCIでは1:30というスーパーリーンバーンによって燃焼温度自体が高くならない特性を活かし、NOxの発生量そのものを抑制。また、ガソリンと空気の混合気を燃焼させるため、ディーゼルエンジンのようなPM(粒子状物質)が発生しないなど、優れたクリーン性能も期待できる。

今回マツダが用意した試乗車は、次期「アクセラ」の開発車両に、現行モデルのボディを被せたクルマ。注目のスカイアクティブ-Xのほか、ボディやサスペンションにも次世代プラットフォーム向けに開発中の技術がフィードバックされていた。

スカイアクティブ-Xの開発目標値は、2リッターで最高出力190馬力、最大トルク230N・mとアナウンスされている。同排気量のガソリンエンジン“スカイアクティブ-G 2.0”はそれぞれ148馬力、192N・m、1.5リッターのディーゼルエンジン“スカイアクティブ-D 1.5”は同じく105馬力、270N・mだから、スペックからもガソリンとディーゼルのいいとこ取りであることが感じられる。

さあ、いよいよエンジン始動。スタートスイッチを押すと、スカイアクティブ-Xにはあっけなく火が入り、安定したアイドリングを始めた。予想していたよりもずっと静かで洗練されていて、ディーゼルエンジンのようなガラガラ音は全くない。長年のディーゼル車づくりのノウハウを活かし、エンジンルームをカプセル化していることも、不快な騒音を抑え込めている要因だろう。

ATセレクターをDレンジに入れてアクセルを軽く踏み込むと、厚いトルクがすぐに立ち上がり、軽快に加速していく。同排気量のスカイアクティブ-Gと比べると、スカイアクティブ-Xの方がより強いトルクを感じさせる。その要因のひとつは、スーパーチャージャーの採用。マツダはスカイアクティブ-Xのスーパーチャージャーを“高応答エアー供給機”と呼んでいるが、それはスーパーチャージャー過給本来のパワー&トルクを狙ったためではなく、あくまで安定した圧縮着火を実現させるためのデバイスとして使っているから。HCCIは、スーパーリーンバーンを実現するために、エンジンのシリンダー内に空気をきちんと入れてやる必要があるのだが、マツダはその方策として、低過給圧のスーパーチャージャーを使っている。

とはいえ、わずかな過給が厚いトルクにつながっているのは明らか。発進時の力強さはもちろん、高速巡航からアクセルをスッと踏み込んだ際のレスポンスや車速の伸びは、スカイアクティブ-Gを明確にしのぐ。スカイアクティブ-G 2.0と比べて、全域で10%、部分的には30%のトルクアップを果たしたという開発陣の主張が、十分に実感できる力強さだ。

それもあってか、スカイアクティブ-Xのドライブフィールは、ガソリンのライトプレッシャーターボ車にとても近い。ハイパワーターボのようにドカーンとパワー&トルクが炸裂する印象はないが、全域でトルクフル。試乗前の「これまでのエンジンとは全く異なる印象だったりして!?」という淡い期待こそ裏切られたものの、スカイアクティブ-Xは、まさに非常に良くできたガソリンエンジン、という印象だった。

そして気になる燃費は、アウトバーンを170km/hオーバーで走行し、フルスロットルでの加速なども試しながら、市街地で13.7km/L、高速道路を含めたトータルでも13.3km/Lという優秀な数値をマークした。同条件で走らせたスカイアクティブ-G 2.0のトータル燃費は11.5km/Lだったので、スカイアクティブ-Xはざっと、15~20%の燃費改善を期待できることになる。各社のエンジン開発現場では、わずか1%の燃費改善に日々、気の遠くなるような努力が重ねられている実態を考えると、スカイアクティブ-Xの省燃費性能は十分驚きに値する。

とはいえスカイアクティブ-Xの魅力は、省燃費やクリーンな排気ガスだけにとどまらない。低燃費&クリーン性能と、気持ちの良い走りとの両立こそが、このエンジン最大のメリットだと強調しておきたい。

実は今回、走り始めてすぐに感じたのは「うわ、これ気持ちいい!」という思いだった。スカイアクティブ-Xは厚い低速トルクもさることながら、高回転域まで軽快に、かつ気持ち良く回るという美点を持つ。6000回転付近まで回してもトルクの落ち込みは小さく、滑らかさを保ったまま、小気味良い「フォーーン」というサウンドを聴かせながら回ってくれる。

最近のガソリンエンジンは、残念なことに、燃費を追求するあまり、回転フィールがカサカサしているものが目立つ。ファットフリーのアイスクリームやヨーグルトなど、カロリー控えめの食べ物がもの足りなく感じるのと同様、燃費を追求したエンジンは、回転フィールの艶っぽさがスポイルされ、エンジン自体の楽しさ、気持ち良さを感じにくい。ポルシェやフェラーリといったスーパーカーでさえも、最新ラインナップが積むターボエンジンより、かつての大排気量・自然吸気エンジンの方が、どうしても魅力的に映ってしまう。

その点、スカイアクティブ-Xは、省燃費と優れたクリーン性能、そして気持ちの良いドライブフィールを兼備してきたところに、大いなる可能性を感じさせる。今後、燃費規制がますます厳しくなる中で、自動車エンジンのフィーリングはどんどんつまらなくなってしまうのでは、と危惧していたが、SPCCIはガソリンエンジン本来の“気持ち良さ”を武器に、ひと筋の光明を見せてくれた。

燃費を追求するには、ハイブリッドやディーゼルエンジンなど、HCCIのほかにもすでに技術が確立された選択肢がある。逆に、まだまだ改善の余地を残すHCCIは、コストや生産性などの面で、この先、省燃費という価値をアピールしにくくなる可能性さえ考えられる。しかしスカイアクティブ-Xは、燃費を大幅に向上させながら、ガソリンエンジン本来の楽しさをも兼備できるという新たな可能性を示してくれた。夢の内燃機関スカイアクティブ-Xは、クルマ好きに新たな夢を見させてくれるエンジンでもあるのだ。

(文/岡崎五朗 写真/マツダ)

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