都市の野生「Barbour(バブアー)のオイルドジャケット」映画監督・平野勝之「暮らしのアナログ物語」【16】
&GP / 2017年11月30日 21時0分
都市の野生「Barbour(バブアー)のオイルドジャケット」映画監督・平野勝之「暮らしのアナログ物語」【16】
■こんなもの使えるか
正直、5年ほど前までの僕は、バブアーなど眼中になかった。
こんなアナログ道具の連載をしているせいか、僕はバリバリのクラシック趣味に思われるけど、実は機能第一主義だ。
フィルムを使っているのは結果が良いからだし、ランドナーもツーリングや日常でも他の自転車より役に立つからであり、ツイードジャケットにしても自転車専用に機能優先で作りつつ、普段でも広範囲に使える汎用性、何よりも丈夫で長持ちという「機能」があるからだ。それにプラスして、デザインなどスタンダードなものが好みなのである。
長持ちという意味では違うかもしれないけど、各種アウトドア製品も大好きで、自分の持っているものより少しでも軽く機能的なものが登場すると、容赦なく変えようとしてしまう。
そんなアウトドア用の服などに馴染んでいたせいか、「バブアー? ああ、オイルドね? 重いじゃん、防風性はあるだろうけど透湿性ゼロでしょ? え? 押し入れに仕舞うな? 何それ、めんどくせ」
「バイクなら良さそうだけど自転車の人間にはそんなものは役にはたたない、使い物にならないよ、さらばじゃ」って感じで、クソミソだった。
しかし、そんなふうに思っていたのに、今ではすっかり大ファンで、冬の雨の日などに活躍している。人生はわからないものだ。
■「あっ……」と思った。
キッカケは5年ほど前、帽子などを探しにセレクトショップに寄った時だった。
相変わらずバブアーなど買う気はなかったが、その日はどういうわけか試着してみようと、ついジャケットに袖を通してしまったのだ。
「……あ、悪くないかも」これが素直な感想だった。
鏡を見たら、似合っているように見える。着たらそれほど重さは気にならず、逆にその重さのためか、安心感があるように思えた。
聞けばこの店のバブアーは別注で、日本人の体形に合わせ少し脇を絞ってあり、タイトに処理され胸ポケットも追加されていた。
頭の中がグルグルして、すでに半分買う気になっていた。
とりあえず長持ちするのは間違いないだろう。
そして数日後、自転車に乗る事も考えて、乗馬用に丈が少し短いビディルというモデルを購入してしまったのだ
■都心専用のバブアー
バブアーは定期的にオイルを塗り込んでいれば、その防水能力は何十年にも渡って劣化する事はないという。
この機能は他にはない大きな特徴だった。
アウトドア製品の化繊は素晴らしいけど、宿命的に必ず劣化する。
10年以上着倒した場合、どんな姿になっているのか? それも楽しみのひとつだった。
しかし、バブアーは重すぎる上に透湿性はないので、汗をかきハードである自転車旅にこれを着て出るつもりはなかった。
日本の場合なら、本来は納屋にでも放り込んで雨の農作業に使ったり、森林などに入っていく場合、その強力なエジプト綿は枝や岩などから身を守ってくれるだろう。また、汗をかかないバイクなどにはこれまた重宝すると思う。
僕の場合、冬の雨の日をメインに都心専用で使っている。
冬の自転車移動の場合、短距離であまり汗をかかないので、日常的に使う事が可能だった。
確かに扱いは面倒だし、オイルドなので何かと気を使う事も多い。
しかし、購入してから5年。今でも冬に入るとせっせと自分でオイルを塗り込み愛用している。
どうしてあれほどクソミソ言っていたのに、こんなに気に入ってしまったのだろう? 自分でも謎だ。カッコいいから? それもあるだろう。長持ちするから? もちろんそれもある。
バブアーに関しては、なぜか割り切れないモヤモヤが心の矛盾として存在していた。
■都市の野生
僕は傘をめったに使わない。
傘が嫌いだった。
冬の冷たい大雨になると、面倒だなと思いながらもバブアーが登場する。
やはりオイルドの帽子を組み合わせ、防水のブーツを履き、都心を今日もウロウロしている。
ある日、ずぶ濡れになりながらフッと思った。もしかしたら、自分は「野生」を忘れたくないために都心でバブアーを着ているのかもしれない。
都心で生活をしていると、さまざまな事が薄く忘れがちになる事が多い。バブアーを着て、冷たい雨を直に受けていると、そんな「野生」を呼び起こされる感覚になる事がある。
そんな事を感じながら、今日もバブアーを身に着ける。
もしかしたら、それが自分にとっての「お洒落」なのかもしれない。
冷たくなった体で部屋に戻り、ずぶ濡れのバブアーを部屋の隅に吊るして、しばし眺めながらそう思った。
(文・写真/平野勝之)
ひらのかつゆき/映画監督、作家
1964年生まれ。16歳『ある事件簿』でマンガ家デビュー。18歳から自主映画制作を始める。20歳の時に長編8ミリ映画『狂った触覚』で1985年度ぴあフィルムフェスティバル」初入選以降、3年連続入選。AV監督としても話題作を手掛ける。代表的な映画監督作品として『監督失格』(2011)『青春100キロ』(2016)など。
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