1980~90年代、果敢にグリルレスに挑んだクルマたち
&GP / 2018年5月30日 20時0分
1980~90年代、果敢にグリルレスに挑んだクルマたち
クルマを正面から見た姿を人の顔に例えると鼻にあたるのがグリルです。デザイン上で大きな特徴となる部分であり、ブランドアイデンティティとして共通したイメージのグリルを採用する自動車メーカーも多いですよね。
▲(左上)レクサスのスピンドルグリル (右上)日産のVモーショングリル (左下)BMWのキドニーグリル (右下)アルファ ロメオの盾型グリル
近年の日本車はグリルを大型化して押し出しを強くしたものが増えています。トヨタアルファードはその象徴でしょう。
グリル周りにメッキ処理を施すとクルマの表情が煌びやかになり、迫力だけでなく高級感も高まります。日本人は存在感のあるグリルを持つクルマが好きだと言われています。そのため、外観からグリルを消したグリルレスのクルマは売れない、とすら言われることも…。果たして本当にそうなのでしょうか?
そこで、1980年代~'90年代のクルマを中心に、グリルレスに挑んだクルマを紹介していきます。この時代は実はグリルレスのクルマが多かったのです。紹介するクルマを見ながら「グリルレス=売れない」が本当かどうか、考えてみましょう。
■ホンダシビック(1983年)
初代と2代目には特徴的な大きなグリルがありましたが、1983年に登場したワンダーシビックこと3代目シビックはグリルレスで登場。よく見ると、フロントバンパー上には薄い穴が開いていて、グリルがあるようにも感じます。ただ、この部分に装飾的な要素はないので、グリルレスと言っていいでしょう。ワンダーシビックは自動車として初めてグッドデザイン大賞を受賞。若者から年配の方まで、多くの方に選ばれました。シビックは4代目のグランドシビック、5代目のスポーツシビックもグリルレスです。
■ホンダプレリュード(1987年)
1987年にデビューした3代目プレリュードは、当時ブームとなったデートカーを象徴するモデルでした。エンジンを18度傾けてエンジンルーム内に設置。これにより抵抗の少ないストレートな吸排気系設計が可能となっただけでなく、ボンネットを限りなく薄くしたデザインが実現。グリルレスながらシャープな雰囲気を醸し出し、大ヒットしました。
■日産スカイライン(1989年)
R31までの直線基調なデザインから一転、このR32スカイラインは流線形デザインで登場。フロントフェイスはR30後期型の鉄仮面を彷彿させるグリルレスなデザインに(ただ、鉄仮面にはバンパー上に薄いエアインテークがありました)。扱いやすい5ナンバーサイズだったこともあり、セダン、クーペともに支持されていたと言えるでしょう。そしてR32と言えば今や伝説的な存在であるGT-R。GT-Rには2本のフィンがついた迫力あるグリルが付けられています。GT-Rとの差別化のためにグリルレスデザインを採用したのかもしれないですね。
■日産インフィニティQ45(1989年)
北米で展開する高級車ブランドとして日産が立ち上げたインフィニティ。そのフラッグシップモデルであるQ45は、日本でもインフィニティQ45として発売されました。ライバルはトヨタセルシオ(レクサスLS)です。グリルを排除したフロントフェイスの中央に鎮座するエンブレムは七宝焼き。インテリアにはオプションで漆塗りのインパネが設定され、なんとディーラーオプションで18金で作られたキーが用意されるなど、バブルを象徴する贅を尽くしたクルマでした。しかし販売面では大きなグリルで上品さの中に迫力を演出するセルシオに大きく水をあけられます。そしてなんと1993年のマイナーチェンジでは、七宝焼きエンブレムが廃止されグリルが取り付けられることに…。
■マツダロードスター(1989年)
初代NAロードスターの登場は“事件”でした。ほぼ絶滅していた2シーターライトウェイトオープンというスタイルで登場し、世界中で大ヒット。以降、ロードスターの後を追うように多くのメーカーがこのカテゴリーに新型車を投入します。そんなロードスターのデザインには、日本の伝統が盛り込まれているのは有名な話。フロントマスクは能面がモチーフです。リトラクタブルライトを格納した時は、シンプルなデザインの中にさまざまな表情があり、今なお多くの人に愛されています。
■日産NXクーペ(1990年)
小型セダンのサニーをベースに開発されたNXクーペ。特徴はくぼんだヘッドライト。デザインはフェアレディZがモチーフになっています。スタイルがファニーすぎたのか日本での人気はいまひとつでしたが、北米では若い女性を中心にヒットモデルとなりました。
■日産プレセア(1990年)
1980年代中盤から、カリーナEDやコロナエクシヴなど、クーペのような雰囲気が漂う4ドアハードトップの人気が高まりました。日産がその市場に投入したのがこのプレセア。プレセアはグリルレスデザインを象徴するモデルとして現在でも語られています。丸みを帯び、ツルンとした卵のようなフロントフェイスは、どことなく女性的で気品のある雰囲気に仕上がっています。インテリアも高級感が高められていて、奥様のセカンドカーとして選ばれました。残念ながら2代目はグリルをつけたデザインに方向転換。デビューが早すぎたのか初代はヒットモデルとはなりませんでしたが、今見るとかなりいいデザインなのではないでしょうか。
■トヨタソアラ(1991年)
1981年に登場した初代、’86年登場の2代目がハイソカーブームを牽引。バブル時は「ガイシャかソアラじゃないと助手席に乗りたくない」という女子が現れるほど一世を風靡したソアラ。’91年デビューの3代目はスタイルを大きく変えて登場。ここには北米でレクサスSCとして販売するという戦略上の理由も伺えます。日本ではバブルが終焉しクルマの流行がクロカンやミニバンに移行したこともあり販売が低迷。「売れないのはグリルレスだから」ということも囁かれました。それが理由かどうかは定かではありませんが、3代目ソアラは’96年のマイナーチェンジで小さいながらフロントグリルがつけられたのです。
■マツダランティスクーペ(1993年)
マツダが5チャンネル販売を行っている時期に登場したランティス。ランティスには4ドアハードトップと5ドアハッチバックのランティスクーペがあり、フロントマスクを含めてデザインは大きく異なりました。ハードトップはグリルが与えられたオーソドックスなデザインなのに対し、ランティスクーペはグリルレスでスポーティな雰囲気に。ただ、どちらも販売台数は伸び悩みました。
■ホンダS2000(1999年)
ホンダ29年ぶりのFRモデルとして大きな話題に。搭載される直4DOHC VTECはNAながら250psを8300rpmで発生。リッターあたり125psという驚異的な数値を叩き出しました。スポーツ性はもちろんデザインの評価も高く、2シーターオープンということで台数が売れるモデルではありませんが人気はかなりのもの。車両状態にもよりますが中古車市場では現在でも90万~450万円(価格応談も多数)という高値で取引されています。
■グリルレス=本当に不人気なのか!?
こうやって見てみると、グリルレスデザインを採用した中にもヒットモデルはあることが分かります。グリルがないとフロントフェイスは間の抜けた感じになってしまうこともあります(人の顔で言えば鼻がないので、ツルンとしてしまうため)。でも、 そこをうまく処理したクルマは人気となっています。とくにボンネットが低くどっしり構えたスポーツタイプはグリルレスでもシャープな雰囲気になりますよね。
国産現行モデルを見てみると、グリルレスデザインを採用しているのはトヨタ86/スバルBRZ、日産フェアレディZ、マツダロードスターなど、スポーツモデルが多くなっています。クーペやオープンに乗りたい人は、シャープなグリルレスモデルを選んでみるのもアリだと思いますよ!
(文/高橋 満<ブリッジマン>)
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