【ベンツ Gクラス試乗】新型が出た今、あえて従来型“G”の魅力を深掘りする:河口まなぶの眼
&GP / 2018年6月6日 20時0分
【ベンツ Gクラス試乗】新型が出た今、あえて従来型“G”の魅力を深掘りする:河口まなぶの眼
本日、ついに日本でも、メルセデス・ベンツの新型「Gクラス」(1562万円〜2035万円)が発表されました。
ルックスは従来型Gクラスのイメージを巧みに継承しつつ、居住性や走行性能は大幅にアップしたと謳われています。
そんな新型Gクラスの実力を検証する前に、『&GP』では改めて、39年間も作り続けられてきた偉大な存在、従来型Gクラスの魅力をおさらいしたいと思います。
検証してくれたのは、YouTubeチャンネル「LOVECARS!TV!」を始め、雑誌、Webと多彩なメディアで活躍する河口まなぶさん。自らもメルセデス・ベンツを乗り継ぐ人気の自動車ジャーナリストは、改めて従来型Gクラスをドライブし、どのような印象を抱いたのでしょうか?
■ドライブは濃密な時間であることを意識させる従来型Gクラス
メルセデス・ベンツのGクラスが誕生したのは、1979年。それは、実に39年も前に遡った昔の出来事だ。
ご存知の方も多いだろうが、Gクラスの“G”とはドイツ語でオフローダーを意味する“ゲレンデヴァーゲン”の頭文字から来ている。元々は、NATO(北大西洋条約機構)が採用する軍用車両だったゲレンデヴァーゲンを民生用に仕立て直したものがGクラスの発祥であり、ゲレンデヴァーゲンそのものの仕様は、各国の軍によってそれぞれ異なっている。
そんな成り立ちを持つ従来型Gクラスは、39年もの長きに渡って生産・販売が続けられてきた。もちろんその間には、その時代時代に応じたマイナーチェンジが何度も行われてきた。事実、そうしたマイチェンを経たことで、エンジンやインテリアは当初のそれから大きく変わった。だが、基本的な構造は当初の設計を長らく受け継いできた、まさに稀有なクルマなのだ。ここ日本でも、Gクラスは’83年から発売されており、これまでに2ドア版やカブリオレといった希少モデルも発売されている。
従来型Gクラスは、’89年に大枠で見ての第2世代へと進化している。この時は、フルタイム4WDを採用したり、エクステリアではオーバーフェンダーやサイドステップが与えられたりしたほか、インテリアでもモダンな内装が与えられたのが特徴だ。
以降、生産が終了するとのウワサが何度か流れたものの、2018年まで生産が行われ、現在は「G350 d」、「G550」、そしてメルセデスAMG「G63」、同「G65」の4モデルをラインナップ。そしてつい先日“最後の”特別限定車である「G350 d ヘリテージエディション」と「G550 デジーノマグノエディション」が発売になった。
“最後の”と記したことからも分かるように、Gクラスは2018年のデトロイトモーターショーで、ついに新型を発表。そして本日、ここ日本でも公開された。そんな新型にフォーカスが当たりがちなタイミングだが、今回は、今後しばらく併売されるという従来型Gクラスの魅力を改めておさらいしたい。
試乗したのは、G350 d ヘリテージエディション。先代Gクラスの中で最もベーシックなモデルをベースとした限定車で、3リッターのクリーンディーゼルエンジンを搭載。最高出力244馬力、最大トルク600N・m(約61.2kg-m)を実現した強力なディーゼルだ。トランスミッションは、7速ATの“7Gトロニック”が組み合わせられ、フルタイムの4輪駆動で路面にパワー/トルクが伝えられる。
その姿からも分かるように、Gクラスは何もかもが現代のクルマとは異なる。例えばエクステリアでは、有機的なボディラインなどはなく、あくまでも直線のみで構成されたボクシーなデザインが印象的だ。「機能がカタチになった」とは、まさにこのことだ。
また、フロントグラスを始めとするすべてのガラスも、ボディパネル同様、すべて平面で構成されている。さらにフロントフェンダー上に与えられ、車内から見ると車幅をつかむためのガイドにもなる無骨なウインカーや、リアゲートに背負ったスペアタイヤなど、Gクラスならではのアイコンをそこかしこに見つけられる。
これも機能的な形状となるドアハンドルの、少し重めのタッチのボタンを「カチッ」と音がするまで押すと「ガチャ」っとロックが外れてドアが開く。
そうして運転席に乗り込むと、インテリアは実にモダン。実際、メーターやハンドルには、他のメルセデス・ベンツの現行モデルと共通した部品を用いている。さらに、ダッシュボード中央には独立したモニターが与えられており、これも他のモデルと同じデザインとされている。もちろん機能も最新で、アームレストの中にはUSBポートが2つも備わり、シフトレバー後方には“コマンドコントロール”のダイヤルも備わっている。
もっとも、目の前に広がる基本的な骨格から、それが現代の設計とは異なるクルマであることがすぐに分かる。フロントガラスとサイドガラスの間にあるAピラーは、現代のクルマと比べるととても細い。ダッシュボードも奥行きがなく、目の前にさまざまなメーターが取り付けられる点も、現代のクルマとは異なる感覚だ。また、助手席の目の前には、昔からお馴染みのアシストグリップが残される。
スターターボタンではなく、最近のクルマでは珍しくなったキーをシリンダーに挿し、それをひねってエンジン始動。エンジンが目覚めるとボディに「ブルッ」と振動が伝わるのも、最近のメルセデスとは少し違う点だ。そして、最近のクルマと比べると重く感じるアクセルペダルを踏み込む。すると、G350dは少し億劫そうに動き出す。
路面から伝わる感触も、現代のメルセデスとは異なる。まずは、ボディがカッチリとした高い剛性を感じさせる。さらに乗り味も、なんとなく硬さが漂う種類のもの。大径で重いタイヤが路面の段差や荒れたところを乗り越える際には、ボディを揺するような感覚もある。だが、乗り心地は決して悪くはない。いやむしろ、基本設計が古いにも関わらず、現代のクルマと大差ない乗り心地を実現できている辺りに感心する。
3リッターのクリーンディーゼルも、力不足は全く感じない。最大トルク600N・mを発生するだけに、力強さは十分以上。もっとも、車両重量は2580kgとヘビー級ゆえ、動き出しには重さを感じる。だが走り出せば、豊かなトルクでボディがグイグイと押され、滑らかな加速感に変わっていく。
ズシリとした感触と、豊かなトルクの融合によって、従来型Gクラスは悠々と走る。そしてハンドルを操作した瞬間、現代のクルマとは明らかに異なる感覚があることに気づく。これは、従来型Gクラスが採用するステアリング形式によるもの。新型Gクラスはもちろん、現代のクルマのほとんどは“ラック&ピニオン形式”のステアリング機構を備える。だが従来型Gクラスの場合“リサーキュレーティングボール式”と呼ばれる機構を採用。“ボールナット式”とも呼ばれるこの機構は、ハンドルをひねるような感触と、ある程度の重みがあり、ドライバーにはねっとりとした感触を伝える。これが、軽く回る現代のラック&ピニオンとは全く異なる感触なのだ。
当然その分、ハンドルのロック・トゥ・ロックも多くなるので、カーブでは通常のクルマよりもハンドルを多く回す必要がある。またハンドルを回した後は、自分である程度戻さなくてはいけない。こんな具合に、現代のクルマとは全く違うが、味わいは実に濃い。
高速道路の直進安定性は、現代のクルマに譲る部分も感じる。しかしクルマ全体から伝わるズシリとした安定感は、他に代わるものがないと同時に、このクルマに身をまかせたいと思える安心感がある。
改めて従来型Gクラスを運転して感じたのは、最近のクルマでは忘れていた、ドライブそのものを堪能するという豊かな時間の存在だ。最近は安全で快適なクルマが増えたので、ドライブを楽しむというより、単なる楽な移動と感じがち。しかし従来型Gクラスに乗ると、最近のクルマが進化と引き換えに失った、ドライブという濃密な時間の存在を改めて意識できるのだ。
果たしてこの辺り、新型Gクラスはどのように変わっているのだろうか? それとも、この独自の味わいを保っているのだろうか? その辺りも含め、新型をドライブした際には、改めて試乗レポートをお届けしたいと思う。
<SPECIFICATIONS>
☆G350 d ヘリテージエディション(従来型)
ボディサイズ:L4575×W1860×H1970mm
車重:2580kg
駆動方式:4WD
エンジン:2986cc V型6気筒 DOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:7AT
最高出力:245馬力/3600回転
最大トルク:61.2kg-m/1600〜2400回転
価格:1190万円
(文/河口まなぶ 写真/村田尚之)
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