【ルノー メガーヌR.S.試乗】微細な開発に3年の年月を投じた超辛口のホットモデル
&GP / 2018年9月9日 19時0分
【ルノー メガーヌR.S.試乗】微細な開発に3年の年月を投じた超辛口のホットモデル
「待ってました!」という人も、多いのではないでしょうか。ルノーファン、スポーツカー愛好家、ホットハッチマニアの皆さま、お待たせしました。ルノー「メガーヌ」の高性能モデル「メガーヌR.S.(ルノー・スポール)」が、ついに日本に上陸しました。
ルノーのモータースポーツ部門であるルノー・スポールの名を冠したメガーヌR.S.も、今回のモデルで3代目。先代モデルはドイツにある市販車開発の聖地、ニュルブルクリンクの北コースにおいて、市販FFモデルの最速タイムをたたき出すなど、超辛口のホットモデルでした。
その血統を受け継ぐ新型R.S.は、果たしてどんなクルマなのでしょうか?
■フロントフェンダーは左右合わせて60mmも拡大
新たにラインナップに加わったメガーヌR.S.が、フランス本国でデビューを飾ったのは、2018年1月のこと。以来、日本でのデビューを心待ちにしていましたが、8月30日、ついに日本での販売がスタートしました。
ベースはもちろん現行4代目メガーヌですが、3ドアだった先代のR.S.とは異なり、ベースモデルのボディラインナップが5ドアハッチバックとステーションワゴンになったことに合わせ、新型R.S.は5ドアハッチバックのみとなりました。
とはいえそのエクステリアは、ベースモデルとは完全に別物。ボディサイズは全長4410mm、全幅1875mmと、ベースとなった5ドアハッチバックの「メガーヌGT」に比べ、それぞれ15mmと60mm拡大されています。
また、GTのタイヤ&ホイールは、225/40ZR18+7.5J×18インチであるのに対し、R.S.のタイヤは245/35R19(銘柄はブリヂストンの「ポテンザS001」)、ホイールは8.5J×19インチと拡大されており、このワイドなシューズを収めるべく、前後フェンダーはGT比でフロント片側30mm、リアは同22.5mm拡幅されています。
メガーヌのエクステリアは、どちらかといえばコンサバな方向でまとめられていますが、R.Sでは大きく張り出した前後フェンダー、フロントバンパーのエアインテークブレード、リアのディフューザーなどにより、力強さや精悍さがグッと増しています。とはいえ、増築を重ねた建築物のように、空力パーツで武装したスポーツモデルも少なくない中、メガーヌR.S.はクリーンにまとめられており、これなら、派手さを好まない大人のスポーツカー愛好家にも受け入れられるのでは? と思います。
インテリアは、ブラックの基調色でまとめられており、こちらもスポーティさと落ち着きを巧みにバランスした仕立て。シートは赤いステッチが配されたアルカンターラ地のスポーツタイプで、サポート部は大きく張り出しておりシェイプは深めです。基本の形状はGTと同じようですが、やや大柄な体格を意識しているのか、サイドの張り出しが大きく、ステアリング操作やコーナリング時にヒジが触れるのがちょっと気になりますが、これは好みの問題かもしれません。
インテリア細部のアクセントカラーは、GTがブルー系であるのに対し、R.Sはブラックまたはレッドとなっており、ステアリングの12時の位置には、赤いレザーのワンポイントがあしらわれています。
ダッシュボード回りの配置、インフォテインメントシステム、メーターなどは、基本的にベースモデルに準じており、走行モードやインテリア環境をカスタマイズできる“ルノーマルチセンス”も備わります。
7インチフルカラーTFTを使用するメーターもGTと共通のイメージですが、R.S.に新たに加わった走行モード「レース」では、メーターはスピードとエンジン回転数をシンプルに表示し、回転数が上昇した際には、シフトアップを促すインジケーターが赤く点灯します。
ラゲッジスペースは張り出しや突起などもなく、リアシートも6:4の分割可倒式なので実用性は十分。サーキットへの往復はもちろん、荷物の多い旅行にも使えるスペースが確保されているのは、フランス車らしい美点といえるでしょう。
■過激さと乗りやすさを両立したエンジン&トランスミッション
メガーヌR.Sに搭載されるエンジンは、排気量1.8リッターの直列4気筒直噴ターボで、最高出力は279馬力、最大トルクは39.8kgf-mというスペック。先代R.Sは、排気量2リッターで最高出力は273馬力でしたから、排気量はダウンしながらも、出力はアップしています。
このエンジンは、ルノー・スポールのレース部門と量産車部門、さらに、ルノーテクノセンターの特別編成チームが開発した新設計のシリンダーヘッドを採用。ちまたでは『アルピーヌ「A110」と同じエンジン』といわれていますが、基本設計こそ同じであるものの、実際には両モデルの特性を考慮した最適化が施されており、冷却系を始めとする細部は全く異なるのだそうです。
メガーヌR.S.のトランスミッションは、ドイツの自動車用トランスミッションメーカーであるゲドラグ社と共同開発した、デュアルクラッチ式の6速“EDC”。これにより、ついにメガーヌR.S.も2ペダルコントロールとなり、ステアリングコラムには手動変速用のパドルが備わります。ちなみに、シフトダウン側のパドルを引き続けると、最適なギヤ段まで自動でシフトダウンする“マルチシフトダウン”機能も採用されています。
ちなみに、本国には6速MT仕様も用意されており、今後の動向やリクエスト次第では、日本仕様にも設定の可能性があるとのこと。電光石火のシフトチェンジが可能なEDCも捨てがたいところですが、まだまだ左手でギヤチェンジしたい! という人は、ルノー・ジャポンへリクエストを送ってみてはいかがでしょう?
■現行メガーヌのキモである足回りはさらに進化
R.S.のベースモデルとなった現行メガーヌにおけるエポックといえば、GTに4輪操舵システム“4コントロール”が採用されていることでしょう。もちろん、R.S.にも4コントロールが備わりますが、GTとは少々設定が異なります。
後輪の操舵角ですが、60km/hまでの低中速では最大でマイナス2.7度まで逆位相、それ以上の高速域ではプラス1度の同位相となるのは、GTと同じ。しかし、その切り替え速度が、GTのスポーツモードは80km/hであるのに対し、R.S.のレースモードでは100km/hへと引き上げられています。サーキットにおける低中速コーナーの多くが、100km/h以下で回る曲率であることや、各種テストの結果からこの速度に設定されたそうです。またR.Sでは、後輪の操舵は車速やステアリング舵角のほか、ステアリングの回転速度もモニターしており、それらを複合的に判断し、リアの舵角が変化するシステムにしています。
メガーヌR.S.のキモというべきサスペンションには、4輪すべてのショックアブソーバーに“HCC(ハイドリック・コンプレッション・コントロール)”が採用されたことが見逃せません。HCCはショックアブソーバーの中に、もうひとつショックアブソーバーを内蔵したかのような構造で、その機能を簡単に説明すれば、ショックアブソーバーが底付きする前に止める緩衝材“バンプストップラバー”に代わるもの、といったイメージでしょうか。
動作としては、ショックアブソーバーのロッドが縮み、ストロークの終端部に近づくと、セカンダリーアブソーバーのピストンが減衰力を生み、メインアブソーバーのストロークを制限するという仕組みになっています。そのため、かなりの大入力時にのみ効果がある装置では? と思ってしまいますが、日常走行時も、減速用のバンプや目地段差の通過時などで車体の上下動を和らげ、突き上げなどの不快要素を低減してくれるのです。
■「レース」モードを選ぶとキャラクターが一変
さて、メカニズムに大幅な手が加えられたメガーヌR.S.ですが、やはり気になるのはその走りでしょう。先代モデルはかなり辛口のクルマでしたから、実はかなり身構えて試乗へと臨みました。
エンジンを始動させると、1.8リッターターボとはしてはなかなか迫力ある、ビートの利いたサウンドが響きます。ドライブモードは「コンフォート」、「ニュートラル、「スポーツ」、「パーソナル(オーナーの自由設定)」、「レース」という5つが用意されており「コンフォート」や「ニュートラル」では、十分パワフルではありますが、ドライバーを無用に刺激することはありません。
何より意外だったのは、乗り心地の良さ。扁平率35%のタイヤ、19インチのホイールというと、尖った振動をキャビンに伝えてきそうですが、HCCの効果もあり、荒れた舗装や段差の通過などでは、メガーヌGTをもしのぐほど衝撃や振動の伝達がソフトなのです。これなら、ファミリーカーとしての用途にも十分に応えてくれそう。同乗者から不満が漏れるようなこともなさそうですし、ロングクルージングも難なくこなせそうです。
しかし、コックピットに備わる“R.S.ドライブ”スイッチで「スポーツ」、または「レース」モードを選択すると、キャラクターが一変します。
ちなみにドライブモードを変更すると、エンジンやトランスミッションの制御だけでなく、4コントロールのレスポンスやステアリングの特性も連動して変化します。「スポーツ」モードの場合、エンジンやシフトチェンジのレスポンスが向上、パワーステアリングも操縦感覚がダイレクトになり、エンジンサウンドもワイルドさを増します。そして、サーキット走行を前提とした「レース」モードでは、4コントロールがより俊敏性を重視した設定となるほか、ESC(横滑り防止装置)がオフとなり、ドライバーの意思、操作に対して忠実に反応するようになります。
500馬力クラスのスポーツカーも多数存在する昨今ですが、メガーヌR.S.の279馬力だって、公道やワインディングでは十分以上。エンジンのキャラクターも、アクセルペダルを大きく踏み込み、レブリミットに近づくにつれて、一段とシャープなレスポンスを発揮する印象で、その加速はまさに弾けるかのよう。さらに、4コントロールによるシャープで強烈な旋回感覚と安定感は、一般的なスポーティモデルとは明らかに一線を画しています。
正直にいって、筆者レベルの腕前では、メガーヌR.S.の限界を垣間見るのは不可能…そう思えるほどのパフォーマンスです。では“腕っこき”のドライバーでなければ楽しめないのか? といえば、そんなことはありません。例えば、エンジンは美声で謳うタイプでこそありませんが、低中回転域でのちょっとラフでビート感のある吹け上がり、高回転域でのアクセルオフで弾けるエキゾーストサウンドなどは、それだけで十分に気分を盛り上げます。また、パドル操作でのスムーズなシフトチェンジ、拳ひとつほどのステアリング操作でスッと向きを変える操縦感覚など、思わずニヤリとする演出にあふれているのです。
実際、新型メガーヌR.S.は、サーキットなどのクローズドコースのみを重視したモデルではありません。実は、ルノー・スポールが手掛ける各モデルは、ヨーロッパ市場はもちろん、日本でも大きなセールスを記録しているのだとか。ならば、ということで、新型メガーヌR.S.の開発チームは、首都高速道路や箱根・伊豆のワインディングロードなども、徹底して走りこんだそうです。
最近は、コンピュータシミュレーションの進化により、8割方はコンピュータ上で作業が済んでしまうというクルマの開発ですが、新型メガーヌR.S.は残りの2割、すなわち、微細なセッティングに3年もの年月を掛けて開発してきたそうです。そうしたこだわりにより、新型は先代と同じ辛口でも“コクと味わい増した辛さ”を手に入れたように思います。
それでも「さらなるピリ辛モデルが欲しい!」という人もいることでしょう。ルノー・ジャポンは先述したMT仕様のほか、サーキット走行を重視した「メガーヌR.S.トロフィー」の導入も視野に入れている、とのこと。気になる方は、ラブコールを送ってみてはいかがでしょうか?
<SPECIFICATIONS>
☆R.S.
ボディサイズ:L4410×W1875×H1435mm
車両重量:1480kg
駆動方式:FF
エンジン:1798cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:6速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:279馬力/6000回転
最大トルク:39.8kgf-m/2400回転
価格:440万円
(文&写真/村田尚之)
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