クルマはMT車が一番って人に!トヨタ「ヤリス」のMT仕様は操る楽しさ濃密です
&GP / 2020年4月4日 19時0分
クルマはMT車が一番って人に!トヨタ「ヤリス」のMT仕様は操る楽しさ濃密です
トヨタの新型車「ヤリス」が注目を集めている。ヤリスは、燃費やフットワークといった走行性能を、前身の「ヴィッツ」から格段に飛躍させたトヨタの意欲作だが、実はもうひとつ、クルマ好きとしては見逃せないポイントがある。
それが、今や貴重な存在となった、MT(マニュアルトランスミッション)仕様の設定だ。昨今の自動車マーケットでMT車が選ばれている比率は、全体のわずか2%ほどに過ぎない。そんなマニアックなモデルを、なぜトヨタは設定したのか? 街中から高速道路、ワインディングまで、多彩なシーンを走らせながら考えた。
■日本は新車の98%超がATという世界一の“AT大国”
30年ほど前まで、日本でもクルマのトランスミッションはMTというのが一般的だった。MTは左足でクラッチペダルを踏み、エンジンからの動力がタイヤへと伝わるのをコントロールしつつ、状況に応じてシフトレバーでギヤを変えていく必要がある。変速作業はわずらわしいし、クラッチ操作を失敗するとエンストしてしまうなど、MTは面倒で気難しい機構ともいえる。
その後、操作が簡単なAT(オートマチックトランスミッション。ここではCVTやデュアルクラッチ式ATなども含む)が台頭すると、トランスミッションの主力はあっという間にそちらへ移行。1991年に運転免許証で“AT限定免許”が登場したこともあり、今では日本の新規免許証取得者の6割以上が、“MT車を運転できない”AT限定免許を取得している。
そうした流れもあって、日本は新車販売におけるAT車比率が98%以上に! 世界一といっても過言ではない“AT車大国”となった。大半のドライバーがイージードライブを求めるのに加え、AT自体がかつてに比べて高性能化し、フィーリングや燃費が向上したことも、これほどまでの普及を後押しした理由といえるだろう。
そんな状況を踏まえれば、新型車にMT仕様が設定されないのは、もはや当然の流れといえるかもしれない。高級車やミニバンはもちろん、多くの軽自動車やコンパクトカーから、MT仕様が消えている。先頃登場したホンダの新型「フィット」も、従来モデルには設定のあったMT仕様をラインナップから落としている(日本向けだけでなく、海外仕様にも設定がないという)。
しかし、トヨタの新型車ヤリスには、絶滅危惧種というべきMT仕様がしっかりとラインナップされている。果たしてヤリスにとって、MT仕様を設定する意義はどこにあるのだろうか?
■80型スープラと同じ“儀式”がクルマ好きにはうれしい
ヤリスは、1リッターと1.5リッターのガソリンエンジンに加え、1.5リッターガソリンエンジン+モーターのハイブリッドという、3タイプのパワーユニットを用意しているが、このうちMT仕様を選べるのは1.5リッターのガソリンエンジン。最高出力120馬力、最大トルク14.8kgf-mと、スペックを見る限りコンパクトカーとしてはちょっとだけ力持ちではあるが、スポーツカーのようにパワフルというわけではない。
トランスミッションの段数は6速で、1速の左脇にある“R(リバース)”へ入れる際には、誤作動防止のためシフトレバーに付くリングを引き上げながら動かす。コレは、一部のヨーロッパ車やスバルのMT車、そして、1990年代の終わりに登場したR34型の日産「スカイラインGT-R」や、80型のトヨタ「スープラ」と同じ“儀式”であり、ちょっと特別感があって操作が楽しい。クルマ好きならきっと、うれしくなる演出だと思う。
そんなヤリスのMT仕様だが、“運転を楽しめるMT車”であるかどうかの判断基準は、ドライバーが心地よいと感じられるシフトフィールか否か、に左右される。では、ヤリスMT仕様のシフトフィールはどうなのだろうか?
試乗前には、「コンパクトカーだから期待できないかもな…」と考えていたが、それは大きな間違いだった。シフトレバーの操作力は重すぎず軽すぎずという絶妙な塩梅で、ギヤがかみ合う時は硬すぎず柔らかすぎずという、ちょうどいい節度感。
操作力が軽すぎると、スポンジを握っているかのように手ごたえが乏しくて面白くないし、感触が硬すぎるとレンガを砕いているかのようで疲れてしまう。しかし、ヤリスMT仕様はそのどちらでもなく、変速操作を“味わえる”のだ。スポーツモデルであれば、もう少し硬い方がいいだろうが、ヤリスは日常使いを犠牲にできないコンパクトカーなので、現状くらいの味つけがちょうどいいだろう。
■気軽にファン・トゥ・ドライブを味わえるヤリスMT仕様
昨秋、新型ヤリスの市販に先立ち、プロトタイプをサーキットでドライブする機会があった。その際、ハイブリッド仕様、1.5リッターのガソリン+CVT、同MT仕様の3台をドライブしたが、その中でも最も楽しかったのは、やはりMT仕様だった。
エンジンは決してパワフルではないし、むしろサーキットを走らせるには非力な部類。しかし、限られたパワーを最大限に引き出すべく、積極的に自らの意思でシフトレバーを動かしながら走らせるヤリスMT仕様は、驚くほど“ファン・トゥ・ドライブ”=クルマを運転する楽しみを感じられて、胸がときめいた。
その印象は、今回、公道を走らせても変わらなかった。サーキットとは違い、限界走行するわけではないものの、低速域から感じられる“自分でクルマを操っている”感覚が濃密で、何事にも代えがたい快感を味わえる。エンジンを自分のコントロール下に置きガンガン回していると、クルマと対話を交わしているようで気分が盛り上がるのだ。
確かに、MT車はクラッチ操作を失敗するとエンストしてしまうし、走行中も状況に応じてシフトダウン/アップを繰り返さなければならない。でも、そんな気難しくて面倒なメカを、なだめすかしながらコミュニケーションをとりつつ走らせるのが、実はとても楽しいのだ。
その上ヤリスは、徹底的に走行性能を磨いているためフットワークが軽快で、右に左にとハンドルを切りながら、峠道でもドライブを楽しめる。そんなクルマだからこそ、MTを選ぶ価値があると思う。
メーカーにとって、販売比率の小さいMT仕様をなくすことは効率化につながる。しかし、トヨタはヤリスからMT仕様をなくさなかった。どうしてヤリスにMT仕様を残したのか? と開発責任者にたずねると「ヤリスは“ヴィッツレース”と呼ばれる初心者向けワンメイクレースなどにも使われるクルマですからね」との回答だった。
さらに、トヨタにとってヤリスMT仕様は、軽商用車を除けば最もリーズナブルに購入できるMT車。そのため、「気軽にファン・トゥ・ドライブを味わえるクルマを提供したい」との願いが、このクルマには込められているように思うのだ。
ちなみにトヨタは、現行「カローラ」シリーズにもMT仕様を設定。中でも、5ドアハッチバックの「カローラスポーツ」は、ガソリン車におけるMT比率が2割を超えているという。MT車には今でも一定のニーズがあり、トヨタはそうした要望にも、しっかり応えているのである。
<SPECIFICATIONS>
☆Z(2WD/6MT)
ボディサイズ:L3940×W1695×H1500mm
車重:1000kg
駆動方式:FF
エンジン:1490cc 直列3気筒 DOHC
トランスミッション:6速MT
最高出力:120馬力/6600回転
最大トルク:14.8kgf-m/4800〜5200回転
価格:187万1000円
(文/工藤貴宏 写真/&GP編集部)
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