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操る実感が高まったアルピーヌ「A110S」は最高のエンターテインメントだ

&GP / 2020年5月31日 19時0分

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操る実感が高まったアルピーヌ「A110S」は最高のエンターテインメントだ

ブランド復活にまつわるバックグランドやクラシカルなたたずまい、そして軽快な乗り味など、数多ある美点で多くのスポーツカーファンを魅了するアルピーヌ「A110」。

デビュー以来、世界中で高い評価を獲得してきた同モデルに、先頃、高性能バージョン「A110S」が追加されました。エンジンやサスペンションの強化に加え、軽量化も追求した特別な“S”は、果たしてどんな魅力を備えたスポーツカーなのでしょう? モータージャーナリストの岡崎五朗さんが分析します。

■自由な移動を突き詰めるとスポーツカーにたどり着く

最近、「スポーツカーが欲しい」といい出す友人が増えた。僕の周りで起きている現象だから、マーケット全体の傾向と重ね合わせるのは無理があるとは思うけれど、ほぼ同時期に何人もからスポーツカー購入の相談を持ちかけられたことは初めてだ。

「今までは家族のことや利便性を考えてクルマを選んできたけど、そういうのはもういいかな、って。これからは本当に自分が乗りたいクルマを選びたいんだ」。新型コロナウイルスによる新しい生活スタイルの話題も必ず出た。感染の不安、移動制限、在宅ワーク…。先の見通せない世の中をどうやって楽しく、濃く過ごしていくか。いろいろ考えた末に行き着いたのがスポーツカーだったのだという。とても共感できる考えだ。緊急事態宣言で自宅軟禁が続いたある日の夜、ふとキーを手に取りクルマを走らせた。どこに立ち寄るでもなく、単に走らせただけだったが、そこで感じたのは圧倒的な“自由”だった。「ああ、クルマの根源的な魅力ってこれなんだよな」と再確認した瞬間だった。

クルマは個人に自由な移動を提供してくれるツールとして、人類最大の発明だと思う。そして、そこを突き詰めていくとスポーツカーにたどり着く。決して便利ではないけれど、低い車体、強力なエンジン、ダイレクトな反応は、移動そのものをエンターテインメントへと変えてくれる。誰のためでもなく、自分のために乗るクルマとして最高の存在である。

■A110Sのハードな脚は快適性にも十分配慮

そんなスポーツカーにも、200万円弱の軽自動車から2億円超のスーパーカーまでさまざまなモデルがあるが、ここに紹介するA110Sの価格は899万円。スーパーカーほど高価でも高性能でもないけれど、1960年代〜’70年代にかけて生産された名車の復活、専用設計の超軽量シャーシ、ミッドシップなどマニア心をくすぐるストーリーをたくさん持っている。ある意味、フェラーリやポルシェのオーナーからも一目置かれる存在である。

A110Sは、ひと足先に登場したA110の高性能版という位置づけ。とはいえA110との外観の違いは控えめで、目立つ識別ポイントはグレーに塗られたFUCHS製の18インチホイールとオレンジのブレーキキャリパー、樹脂製ルーフより1.6kg軽いカーボンルーフといった程度。一方、約50%固められたサスペンション、40馬力アップの292馬力を発生するエンジン、前後とも10mmワイドなタイヤなど、性能にまつわる部分には惜しみなく手が入れられている。

そうはいっても、A110でも十分楽しいクルマに仕上がっているわけで、あえてA110Sを選ぶ意味はどこにあるのだろう? というのが、試乗する前の正直な気持ちだった。まあ、パワーはあっても困らないが、気になっていたのは50%も固められたサスペンションによる乗り心地の悪化。スポーツカーなら乗り心地は悪くてもOKというのは昔の話で、現代のスポーツカーには日常性も必要だ。

しかし、うれしいことにA110Sの乗り心地はそれほど悪くなかった。「これなら日常的に乗ってもいいな」と思えるレベルだ。細かく観察すると、荒れた路面での上下の揺すられ感はやや速く、大きくなっているが、それとて不快なほどではないし、段差を通過した時のガツンというショックに至っては、A110とほぼ変わらない。50%も固められたというとかなりスパルタンに思えるが、実際のところは日常域での快適性にも十分配慮したセッティングである。

街中のちょっとしたカーブや車線変更時など、低い速度域でのキビキビ感は若干低下した印象。A110はライトウエイトスポーツカーらしいヒラヒラ感を味わえるが、A110Sはロールとロールスピードが抑えられているため、ヒラリではなくグイッと曲がるイメージ。パワーステアリングのアシストが控えめなのも、そんな印象を強めている理由だ。この辺りは好み次第だが、ライトウエイトスポーツカーらしい軽快感を好む人は、A110がいいと感じるだろう。

舞台をワインディングロードに移すと、Sの真価が遺憾なく発揮される。素晴らしく楽しいクルマであることは認めつつも、ステアリングインフォメーションの希薄さがA110の数少ない不満点のひとつだった。その点、A110Sは、路面とタイヤの状況をリアルに伝えてくる豊かなインフォメーションと、強めの手応えを手に入れた。その結果、特に中高速コーナーへのアプローチでステアリングを切り込んでいく時の安心感が大きく高まり、同時にフィジカルな要素、操る実感も高まった。

もちろん、軽量なミッドシップカーであることのアドバンテージはいささかも失われていない。細かいカーブが連続するセクションでの信じられないほどの回頭性はゾクゾクするほど楽しい。

特に、S字コーナーで切り返す際のノーズの重さを全く感じさせない動きは、最高のエンターテインメントである。

■A110Sは生活を彩る特別なパートナーとなる

A110Sのもうひとつの魅力がエンジンだ。とはいえ、絶対的な動力性能はA110でも十分だから、プラス40馬力が生み出す“0-100km/h加速マイナス0.1秒(4.4秒)”にさほど大きな意味はないというのが僕の考え。コンマ1秒を削り取るのが正義のレーシングカーならいざ知らず、スポーツカーの正義は楽しさ、気持ち良さだからだ。

その点、A110Sのエンジンはより高回転域までトルクが落ち込まず、トップエンドまでドラマティックに伸びていく。また、トルクバンドが広がった分、より広い回転域でアクセルペダルと駆動輪が直結しているかのようなビビッドな反応を味わえる。ターボチャージャーの最大ブースト圧は高められているものの、タービン自体はA110と同じものを使っているためターボラグが増えていないのもうれしい点だ。とにかく、高出力化によって失ったものはない。となれば多少の価格アップはあったとしてもSを選びたくなる。オシャレなスポーツカーとして日常の生活に採り入れるならノーマルも魅力的だが、時にはサーキットやワインディングロードに持ち込んで性能を解き放ってやりたいと考えるなら、なおさらA110Sをオススメしたい。

最後に実用性についても触れておこう。A110Sはミッドシップカーなので定員は2名。

ラゲッジスペースはフロントに100L、リアに96L。フロントは深さが控えめ、リアは開口部が小さめなので万全とはいかないが、日常的な買い物なら問題なく対応してくれる。出張用のキャリーオンに関しては、厚さ20cm程度の小型タイプならフロントに収まる(専用設計の純正品なら2個収納可能)が、それ以上は無理。もっとも、宅配が普及していることを考えれば案外使えてしまうというのが実際のところだ。

スポーツカーは特別な存在だ。その特別さゆえ敬遠する人も多い。しかし、多人数乗車や大きな荷物の積載性さえ割り切ってしまえば、間違いなく生活を彩ってくれる特別なパートナーになる。800万円台で購入可能なアルピーヌA110Sは、特別感と手軽さを高い次元で両立した最高に魅力的な1台だ。

<SPECIFICATIONS>
☆S
ボディサイズ:L4205×W1800×H1250mm
車重:1110kg
駆動方式:MR
エンジン:1798cc 直列4気筒 DOHC ターボ
トランスミッション:7速AT(デュアルクラッチ式)
最高出力:292馬力/6420回転
最大トルク:32.6kgf-m/2000回転
価格:899万円

文/岡崎五朗 写真/村田尚之

岡崎五朗|青山学院大学 理工学部に在学していた時から執筆活動を開始。鋭い分析力を活かし、多くの雑誌やWebサイトなどで活躍中。テレビ神奈川の自動車情報番組『クルマでいこう!』のMCとしてもお馴染みだ。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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