街にも趣味にも似合う!フィアット「パンダクロス」は走りにワクワクする個性派です
&GP / 2021年3月20日 19時0分
街にも趣味にも似合う!フィアット「パンダクロス」は走りにワクワクする個性派です
イタリアを代表する実用車、フィアット「パンダ」の4WD仕様「パンダ 4X4(フォー・バイ・フォー)」をベースに、月面車を想起させる派手なパーツを組み合わせたのが「パンダ クロス 4X4」だ。
今回、そんな個性派を雪道でドライブ。キュートな見た目だけでなくパワートレーンの楽しさも印象的な、愛すべきモデルの魅力に迫る。
■雑貨のような楽しさを備えた特別仕立てのパンダ
何を隠そう、筆者はパンダに乗るのが久しぶりだった。記憶をたどれば、かつて乗ったのは、イタリアのキッチン用品メーカー・アレッシィとコラボした限定モデルだった。いや、その後に追加された「パンダ 100HP」にも乗った覚えがある。100HPのデビューは2007年だから、もう13年も前の話か…。
久しぶりに対面したパンダを前に昔のことを振り返っていたら、現行型パンダの日本デビューは2013年だと気がついた。そうか、現行パンダにはこれまで縁がなく、試乗する機会がなかったんだ…。時にはそういうクルマもある。ポジティブに受け止めれば、それはある意味ラッキー。例え新型車ではなくても新鮮な気持ちで触れられるからだ。
というわけで、筆者の目の前には、2013年のデビューながら今回初対面となる現行パンダがたたずんでいる。しかし今回の試乗車は、フツーのパンダではない。特別仕立てのパンダ クロス 4×4だ。4WD仕様のパンダ 4×4をベースとしながら、樹脂の素地がむき出しのパーツが多いフロントマスクや、スキッドガード風のデザインとした前後バンパー、シルバー仕上げのルーフレールなど、SUVテイストを強めた個性派だ。
それら特別なパーツが、黄色いボディカラーとよくマッチしている。華やかな黄色いボディパネルと、対照的に真っ黒な樹脂パーツ、そして、無機質に見えるシルバーのスキッドガードなどによる絶妙なコーディネートが素晴らしい。ヘッドライト下のパンダ クロス専用フォグランプなども、一歩間違えれば煩雑なデザインになってしまいそうなところを、そうならないギリギリのところで留めている。見事にバランスされたエクステリアデザインは、見ているだけで楽しくなる。
ノーマルのパンダもいいけれど、こういう個性派は雑貨的な楽しさも味わえる。街乗りのアシに選んだら、乗るたびに気分が上がりそうだ。
■乗り味が濃い生命感みなぎるツインエアエンジン
しかし、本当の驚きは乗った途端に襲ってきた。「パンダって、こんなに楽しいクルマだったんだ!」。走り始めた瞬間から、ついつい頬が緩んでしまった。
走りの何が楽しいのか? 最大の魅力はエンジンの音とフィーリングだ。「ポコポコ」としたエンジンサウンドや、遊園地のゴーカートみたいな細かい振動など、普通のクルマとは印象が全く異なる。また、低回転域のトルクはイマドキの実用エンジンに比べるとスカスカで、アクセルペダルを踏み込んで回転を上げて初めて、元気が湧き出てくる印象。とはいえ、高回転域までシャープに吹け上がってくれるかといえば、決してそんなことはない。エンジンの頑張っている様子がひしひしとドライバー伝わってくる。まるでひと昔前のクルマみたいだ。「動いてるよー、頑張ってるよー」とクルマが語りかけてくるかのような、生命感がみなぎっている。
こういったフィーリングは昔のクルマでは珍しくないが、今となってはかなり懐かしい。何を隠そう、この生命感こそが“ツインエア”エンジンの個性だ。ツインエアがあって初めて、パンダ クロスのキャラは完成するといっても過言ではない。
ツインエアとは、フィアット独自の2気筒ターボエンジンのことだ。排気量は875cc。2気筒エンジンは、かつて一部の小排気量車に搭載されていたが、振動や騒音の大きさがウィークポイントとされ、世の中からどんどん消えていった。
しかし、燃費効率などの面でメリットがあるため、フィアットは電子制御技術などを用いて現代に2気筒を復活させた。味わいは懐かしいけれど、ツインエアのデビューはイタリア本国で2010年。誕生から10年ほどしか経っていない比較的新しいエンジンなのだ。
それにしても、パンダ クロスの走りは濃密だ。「パンダってこんなに濃い味のクルマだったっけ?」と思いながらよくよく考えてみたら、筆者はツインエアのパンダ自体、初体験だった。先代は並みの1.2リッター4気筒エンジンを搭載(100HPは1.4リッター4気筒)していて、正直なところ個性が薄かった。それに比べると、ツインエアは味わいが濃い! 存在感が格段に増していて、運転していて楽しい。パワーユニットの味がクルマの個性を左右することを改めて教えられた。
ちなみに、パンダ クロスに搭載されるツインエアの最高出力はわずか85馬力。現代のコンパクトカーの基準に当てはめてみると、決して速さを期待できない。しかし、高速道路を走ってもパワー不足は感じないし、頑張って走っている様子に思わずほっこりさせられる。妙に心が落ち着く相棒といった印象だ。
■ワガママなツインエアの魅力を引き出す6速MT
そして、パンダ クロスが楽しいもうひとつの要素がトランスミッションだ。パンダ クロスはMTのみの設定。スイートスポットが狭いワガママなツインエアを、ドライバー自らの変速操作で“お膳立て”してあげる行為が楽しい。こういうクセのあるパワーユニットには、エンジン回転数を自在にコントロールできるMTがマッチする。
キビキビ走らせたい時は、エンジンをきっちり回してからシフトアップ。ツインエアは低回転域でのトルクが不足気味なので、中間加速の際は2速へとシフトダウン…。
そんな変速作業が本当に楽しく、ドライバーを元気にしてくれる。
一方、パンダ クロスに搭載される4WDシステムは、基本的にほぼ前輪を駆動(とはいえ、通常状態も2%ほどのトルクを後輪へと送っている)し、タイヤのスリップを検知すると後輪へのトルク配分を増やす電子制御タイプの油圧多板クラッチ式。今回は、スタッドレスタイヤを履いて雪道を走ってみたが、登り坂での発進時に乱暴にアクセルペダルを踏み込んでみてもタイヤは空転しない。日常的なシーンでは、十分な性能を備えていることが分かった。
また、センターコンソールにあるダイヤルでドライブモードを「オフロード」にすると、後輪へトルクを送るレスポンスが早くなり、空転しているタイヤのブレーキを作動させることでタイヤの空転を抑える“ブレーキLSD”的な効果も発揮する。
本格4WDにはさすがに及ばないものの、ちょっとした荒れ地くらいなら走破でき、見た目に違わぬ頼もしさを発揮してくれる。
■第1弾は完売も落ち着いたトーンの“おかわり”が上陸予定
そんなパンダ クロスは、日本では限定車としての扱い。2020年10月に売り出された第1弾の150台はあっという間に完売した。
しかし、あきらめるのは早い。どうやら近いうちに、ボディカラーの異なる仕様が導入されるようだ。“おかわり”のパンダ クロスは、もう少しトーンを落としたボディカラーになりそうなので、第1弾を見て「イエローはちょっと」と思った人も買いやすいことだろう。
とはいえ筆者個人の感想としては、明るいボディカラーの方がこのクルマには似合うと思う。なので、近いうちに再び、明るいボディカラーのパンダ クロスが上陸することを期待したい。
それにしても、こんな楽しいクルマをこれまでスルーしていたことが悔やまれる。見た目も乗っても楽しい。これぞ、人を幸せにするクルマではないだろうか。同じことをヨーロッパの人たちも思っているのか、2021年1月の欧州における新車販売台数で、(全数がパンダ クロスではないものの)パンダは総合8位にランクインしていた。もうすぐデビューから10年が経つにもかかわらず、パンダはみんなに愛されているのだ。
<SPECIFICATIONS>
☆パンダ クロス 4X4
ボディサイズ:L3705×W1665×H1630mm
車重:1150kg
駆動方式:FWD
エンジン:875cc 直列2気筒 SOHC ターボ
トランスミッション:6速MT
最高出力:85馬力/5500回転
最大トルク:14.8kgf-m/1900回転
価格:263万円(完売)
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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