「ちょっといいね」の積み重ねが人気の理由!進化したホンダ「N-BOX」は完成度がスゴい
&GP / 2021年6月15日 7時0分
「ちょっといいね」の積み重ねが人気の理由!進化したホンダ「N-BOX」は完成度がスゴい
今、日本で一番売れているクルマ、それはホンダの「N-BOX」だ。そんなベストセラーモデルが2020年末にマイナーチェンジを受けた。
見た目の変更はごくわずかだが、中身はトランスミッションや先進安全装備などが大幅にブラッシュアップされている。今回は最新型N-BOXの魅力と実力をチェックする。
■国内専用車ながら「フィット」を上回る売れ行き
初代N-BOXがデビューしたのは2011年11月のこと。その後の販売実績を振り返って見ると、2013年に年間販売台数でナンバーワンとなり、2014年こそ2位にとどまったものの、2015年から2020年までナンバーワンの座をキープ。しかも2019年までは、小型車や普通車といった軽自動車以外の車種まで含めた“乗用車”で最多販売を誇った。
昨2020年は、乗用車最多販売の座をトヨタ「ヤリス」に明け渡したが、実はヤリスの台数にはハッチバックのヤリスに加え、SUVの「ヤリスクロス」も含まれている。純粋に1車種ごとカウントすれば、N-BOXの方が多く売れているのだ。軽自動車でありながら人気ナンバーワン乗用車の座を獲得すると同時に、その人気が長く続いているのもN-BOXのスゴさといえる。
そんなN-BOXが、2021年5月末に累計販売台数200万台を突破した。初代デビューから9年半というタイミングでの200万台突破は、ホンダ車としては最速記録。それまでの記録は2001年6月登場の「フィット」シリーズによる11年9カ月だったが、フィットは海外市場でも売られるモデル。一方のN-BOXは軽自動車ということもあって国内専用車だ。にもかかわらず新記録を達成したのはスゴいことだと思う。
このように、スゴいことだらけのN-BOXだが、一体何がスゴいのだろう? そこまで売れる理由がどこにあるのか? 最新モデルをドライブしながら考えた。
今回試乗したのは、上級版の「カスタム」ではないスタンダード仕様の「EX」グレード。助手席が前後に57cmもスライドする“スーパースライドシート”を備えたモデルだ。
ちなみにエンジンはターボなしの自然吸気仕様。装備は充実してはいるがシンプルなN-BOXといっていい。
そんなN-BOXは、2020年12月にマイナーチェンジを受けている。2代目となる現行モデルは2017年秋のデビューなので、そろそろモデルライフも折り返し地点といったところ。そう考えると、今回のマイナーチェンジでは大規模な変更が施されてもおかしくなかったが、実際のところ刷新された箇所はそれほど多くない。
例えばルックスは、ヘッドライト内部の“円”が大きくなり、人間でいうと目がパッチリとした顔つきになった。またグリルのデザインも変わり、メッキの加飾部分が増えている。とはいえ、パッと見で新型と従来型とを識別できるほどの変化はない。愛車が旧型になったことを意識しなくて済むから、ある意味“従来型ユーザー思いの改良”といえる。
走りに関しても最新型はブラッシュアップを受けている。例えばトランスミッションのCVTは、リニアな制御を採り入れることでアクセル開度に対するクルマの反応をより素直で自然なものとした。減速時にエンジンブレーキを強める“ステップダウンシフト”の新採用を含め、キビキビと加減速するよう磨き上げられている。ちなみにシフトレバーは、従来「Lレンジ」だった部分を「Sレンジ」へと変更。Lレンジに比べてエンジンブレーキは弱いものの、ブレーキペダルを踏めば強いエンジンブレーキが効く制御となっている。そのほかファイナルドライブギヤの歯を研削し、振動と騒音を減らすなど快適性にも手を入れている。
最新型のもうひとつのポイントは先進安全機能の進化だ。高速道路の120km/h時代を見据え、“ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)”の作動上限速度をアップ。ステアリングの車線維持支援システムも進化させている。
加えて、道路標識認識機能が110km/hや120km/hの速度標識にも対応したほか、一時停止は英語併記の標識も読み取れるようバージョンアップ。さらに、後方誤発進抑制機能もセンサーを4個に増やすなど高度化している。つまり今回のマイナーチェンジは、見た目より中身の進化に重点が置かれているのだ。
■自然吸気エンジン仕様でも意外によく走る
そんな最新型を前にして、堂々としていてずいぶん立派だな、と感じた。背が高い分ボリューム感があり、さらにマイナーチェンジでクロームの飾りを増やした成果もあって見栄えが良くなった。かつての軽自動車はちょっと貧弱なイメージがあったが、最新型N-BOXにはそれがない。これも多くの人に選ばれる理由だろう。
乗り降りしやすいスライドドアを開けて車内に乗り込むと、広大な後席スペースに驚かされる。天井が高いのに加えて後席乗員の足下スペースが広く、窓も大きいから実に開放的なのだ。コンパクトカーでもこれだけの広さを持つモデルはそう多くない。「この広さが欲しい」と軽自動車を選ぶ人たちの気持ちがよく分かる。
一方、短い全長に対して広い後席スペースを確保したため、(通常の状態では)ラゲッジスペースが狭くなるのは否めない。とはいえシートスライド機能を活用してリアシートを前へズラせば、後席乗員の足下が狭くなるのと引き換えにラゲッジスペースを拡大できる。これなら日常的なシーンはもちろんのこと、ちょっとしたアウドドアレジャーや旅行に使っても困ることはないだろう。
さて、最新型N-BOXの走りはどうか? 結論からいえば、自然吸気エンジン仕様でも意外によく走る。“スーパーハイトワゴン”と呼ばれるこの手の軽自動車は、背が高いこともあって車重が重く、N-BOXがデビューする前までは力不足を感じさせるクルマがほとんどだった。しかしN-BOXなら、自然吸気エンジンでも遅くて困るようなことはなくストレスフリーでドライブできる。それは街中だけでなく高速道路も同様で、2名乗車なら苦もなく高速巡行できることに驚いた。
また、カーブや高速道路における走行安定性に不安がないのもN-BOXの美点。軽自動車の進化というか、N-BOXの作り込みの良さを実感した。「軽自動車だからこの程度でいい」なんて妥協は微塵もなく、まさに“サイズの小さな乗用車”といった仕上がりだ。とはいえ加速に関しては、ターボエンジン搭載車の方がさらにゆとりがあって運転するのがもっとラクだし、加速時のエンジン音が小さい分、長い距離をドライブしても快適だ。
昨今の軽自動車は進化が目覚ましいこともあって、正直にいうと最新型N-BOXであってもライバルに対する明確なアドバンテージを見い出しにくかった。とはいえこのモデルは、“映える”見た目やエンジンの力強さ、走りの安定感など、ライバルに対して“ちょっといい部分”をたくさん備えている。今、ユーザーのモノ選びの目は想像以上にシビアで正確だ。N-BOXは“ちょっといい部分”の積み重ねによるトータル性能の高さが、賢いユーザーたちに支持されているのだろう。
<SPECIFICATIONS>
☆EX(FF)
ボディサイズ:L3395×W1475×H1790mm
車重:930kg
駆動方式:FWD
エンジン:658cc 直列3気筒 DOHC
トランスミッション:CVT(自動無段変速機)
最高出力:58馬力/7300回転
最大トルク:6.6kgf-m/4800回転
価格:165万8800円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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