最後に本命が登場!現行モデルの最後を飾る400台は「カングー」初のディーゼル車
&GP / 2021年7月19日 7時0分
最後に本命が登場!現行モデルの最後を飾る400台は「カングー」初のディーゼル車
ルノーの人気モデル「カングー」に、現行モデル最後となる限定車が追加された。
本国フランスでは商用車として位置づけられているが、日本ではおだやかなルックスや広くて実用的なキャビン&ラゲッジスペースがウケ、街乗りからキャンプやアウトドアの相棒としてまで、幅広い層から人気を得ているいるカングー。
現行モデルの最後を飾る「リミテッド ディーゼル MT」は、ネーミングからも分かる通り、ディーゼルエンジン+MT仕様のマニアックなモデルだ。
■“カングーのある暮らし”を楽しむオーナーたち
都市部の道でも結構な頻度で見かける“ゆるキャラ”的なフランス車、それがルノーのカングーだ。
どことなくふんわりとした顔つきに丸くてボリューミーな車体、そして元々が商用車だから当然といえば当然だが、一般的なクルマと違って質感や高級感を演出することもない。まるで真っ白なTシャツとジーンズをサラリと着こなしているかのようだ。
イマドキのクルマでは「ありえない」と毛嫌いされそうな、黒い樹脂がむき出しとなった無塗装のバンパーも、カングーでは逆に人気。クルマとしてのベクトルもユーザー層も、普通のクルマとはかけ離れている。
そんなカングーが初めて日本に上陸したのは2002年。全く無名のモデルだったがジワジワと人気が高まり、2009年に2代目へ生まれ変わると人気はさらにアップした。
このように、今ではすっかり市民権を得たカングーにとって日本は特別な国。カングーが大好きなファンがたくさんいるからだ。コロナ禍前は毎年恒例となっていたイベント「カングー ジャンボリー」には多くのカングーオーナーが参加。彼らは思い思いにドレスアップしたカングーに乗って集まってくる。その様子を見るだけでも、オーナーたちは“カングーのある暮らし”を楽しんでいることがよく分かる。
本国フランスはもちろんのこと世界中のどの国を見ても、日本ほどカングーが親しまれている国はない。確かにフランスではカングーがたくさん走っているが、それらは郵便車だったり仕事に使われる相棒だったりとあくまで商用車としての位置づけ。好きとか嫌いの対象ではないのである。
そのため、ルノーでカングーの開発を担当するスタッフは、日本でのカングーの愛され方を目の当たりにして天地がひっくり返るほど驚いたという。それくらい日本の“カングー愛”は、フランス人も理解できないレベルにあるのだ。
そんな背景もあって、カングーは日本市場を特別視している。例えば2016年には、DCT(デュアルクラッチ式トランスミッション)を搭載したグレードを追加。それまでカングーに搭載されるトランスミッションはMTとフツーのトルコン式ATだったが、後者は正直なところ、フランス人にとってオマケ程度の存在だった。なぜなら、フランス(というか日本以外)で売られるカングーはほぼすべてMT車であり、2ペダル仕様の需要がないためだ。だからDCT登場以前のATユニットは設計の古い4速仕様で、イマドキのクルマとしては少々物足りなかった。
しかし、日本での人気ぶりを知ったカングーの開発チームは、「それなら」とDCT仕様を日本市場に向けて本気で開発した。そのDCT+1.2リッターターボエンジンの組み合わせはフランス本国でも発売されたが、日本市場を優先して開発しただけあって、本国での発売は日本より後になったというのだから輸入車としては異例である。
■黒く塗られたスチールホイールが「分かってるね」
そんなカングーは、3代目へのフルモデルチェンジを控えている。すでにオフィシャル写真が公開され、本国ではそう遠くないうちに発売が始まる模様だ。
そんなタイミングでありながら、いや、そんなタイミングだからだろう。日本市場向けにファイナルエディションが発表された。最後ということで特別なボディカラーや装備を採用したのかと思いきや、なんとパワートレーンが専用品というのだから驚くばかり。最後の限定車であるリミテッド ディーゼル MTは、その名の通りディーゼルエンジン+MTという仕様なのだ。
限定台数はわずか400台。そのために特別なパワートレーンを積むなんて、なんてワクワクすることをしてくれたのだろう。ルノー・ジャポンの広報担当者に導入の理由を尋ねると「フランスでのカングーはディーゼルエンジン+MTという仕様が主流。2代目モデルの最後に、日本でも本場のパワートレーンを味わって欲しくて導入した」と語ってくれた。
リミテッド ディーゼル MTの見た目は、黒い樹脂製のバンパーとドアミラー、そしてブラックに塗られたスチールホイールで商用車っぽくコーディネート。見るからに本国で見掛けるカングーっぽい。
一般的なクルマでこれをやると“質素”といわれるところだが、カングーだと「分かってるね」となるから面白い。きらびやかに見せようとは一切しない、質素な感じがカングーらしい。
ちなみにフロントバンパーは、形状自体が通常モデルと異なる。特別なボディカラーをまとって定期的に登場した人気の限定車「クルール」と同じデザインだ。
そのほかスタイリングでは、フロントドアに付く“LIMITED”バッジと、フロントバンパーに組み込まれたLEDデイタイムランプがリミテッド ディーゼル MTだけの個性。
また装備面では、バックソナーも追加されている。
■気がつけばさりげなく速いディーゼル+MT
リミテッド ディーゼル MTの気になる走りはどうだろう? 正直にいうと、乗る前の想像とはずいぶん異なるフィーリングだった。乗る前は商用車向けのディーゼルエンジンだけあって、粗さが否めないだろうと予想していた。エンジン音はうるさく、フィーリングもザラザラしていると考えていたのだ。
しかし、実際はそうではなかった。車外で聞くエンジン音はディーゼル車らしく少々騒がしいが、車内に入るとそれが驚くほど伝わってこない。そして、回転フィールはなめらかだからドライバビリティも良好。イマドキの乗用車ディーゼルとして見れば当然といえば当然だが、カングーはあくまで商用車。こんなに洗練されたエンジンだとは失礼ながら予想外だった。
また思いのほか速いというのも、カングー・ディーゼルの特徴だ。ディーゼルエンジンらしくトルクが太いから扱いやすく、荷物をたくさん積んで出掛けるカングーには好相性だし、エンジン回転を高めなくても早めのシフトアップでグングン加速していく。気がつけばさりげなく速い、というのは、いかにもヨーロッパのMT車らしい特徴だ。カングーはMT車比率が高い(多い時には3割ほど)というが、MTで運転を楽しみたくなるドライバーの気持ちがよく分かる。
そんなリミテッド ディーゼル MTをドライブして改めて感心したのは、カングーが基本的に備える乗り心地と直進安定性の良さだ。サスペンションはしなやかに動いて路面の凹凸をしっかり吸収するから、車体はフラットに保たれる。また直進安定性の良さは、ロングドライブでの疲れにくさに直結している。
さて、そろそろ結論といこう。最後に入ってきたディーゼル+MTのカングーは、クルマ好きにとって“ベスト・カングー”と断言できる出来栄えだ。ウワサによると、限定400台のうち残りはそう多くないというから、気になる人は早めのアクションをオススメする。
<SPECIFICATIONS>
☆リミテッド ディーゼル MT
ボディサイズ:L4280×W1830×H1810mm
車重:1520kg
駆動方式:FWD
エンジン:1460cc 直列4気筒 SOHC ディーゼル ターボ
トランスミッション:6MT
最高出力:116馬力/3750回転
最大トルク:26.5kgf-m/2000回転
価格:282万円
文/工藤貴宏
工藤貴宏|自動車専門誌の編集部員として活動後、フリーランスの自動車ライターとして独立。使い勝手やバイヤーズガイドを軸とする新車の紹介・解説を得意とし、『&GP』を始め、幅広いWebメディアや雑誌に寄稿している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
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