「安倍は辞めろ!」コールを封印、翁長前知事「オール沖縄」の意思を引き継ぐ若者世代

HARBOR BUSINESS Online / 2019年3月13日 8時33分

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3月1日21時すぎ、官邸前(国会前)抗議集会でスピーチをする元シールズメンバーの元山仁士郎さん。この日は個人として参加し、スピーチ後に「安倍辞めろ!」コールはしなかった

 3月1日夜、「安倍は辞めろ!」「辺野古は埋めるな!」というコールとドラムの音が鳴り響き、官邸前が多数のデモ参加者で溢れた。警備のため、ずらりと立ち並んだ警察官が通行制限をしている。そんな中、「『辺野古』県民投票の会」代表の元山仁士郎さんがマイクを握ってこう切り出した。

「今日はあくまで個人として参加しています。さっきまで玉城デニー(沖縄県)知事と、日本外国人特派員協会で記者会見をやっていました。ちょっと(官邸前の)警備が過剰すぎるなと思って、後ろのほうから上がって来ました。参加者の方々も警察の方も、少し落ち着いていただいて、もう少し私たちが声を上げやすい場を作ってもらえたらなと思います。よろしくお願いします」

◆「安倍さんが沖縄の意思をしっかり聞いてくれたら」

 元山さんはかつて、安保法制に反対して官邸前(国会前)の大規模な集会を主催した学生団体、SEALDs(シールズ)のメンバーだった。元山さんはこう続けた。

「残念ながら、沖縄県が示した意思はまだ形になっていません。今日は『辺野古埋め立てを止めろ』という県民の意思をしっかりと聞いてほしいという思いで、参加された方が多いと思います。

 今日も『安倍辞めろ!』というコールで盛り上がっていたと思います。自分自身も3年前、シールズをやっていた時にはそういったコールをしていました。その気持ちはすごく分かります。

 しかしながら『安倍政権が一強だ』と言われている今、『安倍さんがこの沖縄の意思をしっかりと聞いてくれるのだったら』という思いも持っています。もちろん安倍首相が聞いてくれない、あるいはウソをつくなど、信用できないことは分かっています。

 それを変えられない現実も受け止めてほしいと思います。今日、『もっと多いかな』『沖縄の声を聞いてくれる人は、東京にもっといるのかな』と思って来ました。これじゃ、まだまだですよ。こんなんじゃ沖縄の声、安倍さんは聞いてくれないですよ。菅さんも聞いてくれないですよ」(元山さん)

 安倍首相をはじめ、与党国会議員が方針変更(辺野古埋め立て工事中止)する可能性を最初から排除しないということが、「安倍辞めろ!」コールをしていたシールズ時代の元山さんとの違いだった。

◆元山さんが「安倍辞めろ!」コールをしなくなったのはなぜか

 元山さんはこの日の集会で、参加者と一緒に「安倍辞めろ!」コールをあげることはしなかった。そんな彼に素朴な疑問をぶつけてみた。

――元山さん、安倍一強を崩すのは難しいということですか。

元山さん:まだまだじゃないですか。

――参院選で野党が結集して、自民党を大敗させる可能性はあると思いますか?

元山さん:もちろんそうなればいいと思いますが、分かりません。頑張ってほしいと思いますが。

――3年前のシールズの時とは微妙に心境が変わっているのですか。

元山さん:そんなに変わらないですよ。

――さっきは(スピーチの後)コールもしなかったし、心境の変化があったのかと思ったのですが。

元山さん:いやいや、スピーチで言いたいことを言ったので。それでいいやと思いました。

◆まずは“沖縄いじめ”の状況をまず止めたい

 元山さんがスピーチで強く訴えたのは、立場・意見の違う人たちへの呼び掛けだった。そして、「沖縄の民意を無視して辺野古埋め立てを強行する“沖縄いじめ”を止めてほしい」と訴えたのだ。

「皆さん、もっと周りの人に伝えてください。立場が違う人、職場の人、いろいろいると思います。『県民投票、どう思う?』ということからいろいろ周りに話してほしい。自分もそうやってきました。

 私の父は自民党系です。でも父にも『県民投票をやろうと思う。どう思う』というところから話をしてきました。『おまえがやるんだったら、いいんじゃないの』ということで許しをもらいました。

 県民投票の動きも、父は影で見ていたと思います。立場や考え方が違っても、お互いのことを尊重して、『今はこの(沖縄)いじめの状態をまず止めないといけないのではないか』と。そこでは一致できるのではないかと思います。

 いじめはやったらダメに決まっているじゃないですか。沖縄ではそういう状態が起きているんです。『本当にいじめられているの?』とか、『いじめている人がもっと声を上げろ』とか、そんなのおかしいじゃないですか。

『まずはいじめを止めよう』『もっと沖縄の声を聞いて中止しようよ』『これからみんなで話し合おう。知恵を出しあおう』となれば、他の選択肢を見つけられますよ。辺野古を埋め立てるのが唯一の選択肢ではないんですよ。

 ぜひともみなさん、周りと話し合ってほしい。大変かも知れないし冷めた目で見られるかも知れない。でも、そこを乗り越えて自分はやって来ました。みなさんにもそれを実現してほしいと思います。ありがとうございました」(元山さん)

 これこそ、保革を乗り越えて辺野古埋め立て阻止で結集した“オール沖縄”の核心なのかも知れない。同じ仲間同士で政権批判をしてこと足りるのではなく、立場が違う人とも話をしながら解決策を模索する。だから「安倍辞めろ!」コールはせず、政権与党が方針変更する可能性も最初から排除することはしないということだ。

◆与党の方針変更の可能性も否定しない

 2月27日の永田町での県民投票報告集会「沖縄県民は答えを出した 私たちはそれにどう応えるのか」でも、元山さん自身の変化は見て取れた。

 質疑応答で司会者の今井一氏(「[国民投票/住民投票]情報室」事務局長)が、「こういう県民投票の結果が出て、立憲民主党や国民民主党は『辺野古の工事は中止すべきだ』ということで一致しているのではないか。次の参院選挙で政権を代えれば、まず工事は止まる。その後、衆議院選挙もある」と呼びかけをしたのを受け、筆者は元山さんにこんな質問をした。

「3年前の参院選の時は、奥田愛基さんをはじめシールズのメンバーが一時的に活動を再開、選挙にかかわりました。今回、参院選でまた一時的にシールズ復活のようなことを考えられていますか。官邸前(国会前)集会を再開して、参院選で県民投票尊重派(議員)を支援しようと考えられているのでしょうか」

 去年4月から一橋大学大学院を1年間休学して、県民投票実現に奔走してきた元山さんは「まあ、『いつまでやらせるのか』というのがありますけれども……。自民党が『ハイ、分かりました。これは止めましょう』と言ってくれるのが、一つの道としてはあり得るのでしょうし……」と、ここでも与党の方針変更の可能性を最初から否定することはしなかった。

 そして、公明党議員や創価学会員ら与党関係者との意見交換にも意欲を示した。

「与党側にも真摯に受けて止めてほしい。具体的に、沖縄の人たちの意思が反映されるような形にしてほしいというふうに思っています」(元山さん)

◆沖縄県民投票の民意軽視を許してしまったら、全国に広まってしまう

 元山さんのように、立場や意見の違いを超えて話し合いたいという若い世代が、沖縄県外でも増えてきている。2月27日夜、文京区シビックセンターで開かれた沖縄県民投票報告集会の質疑応答で、清泉女子大学2年生の丸山衣美里さんは次のように発言した。

「本土の私たちに何ができるかというのは、私もずっと県民投票に向けて結果が出る前から考えていました。学内にいっぱいビラを貼ったり、そういうことはしてきたのですけれども、沖縄では県民投票の前から若い人たちがいろいろな運動をしてきて、『沖縄の若い人たちは格好がいいな』『うらやましいな、そういう環境があって』と思っていました。

 何で『うらやましいな』と思ったかと言うと、自分の周りにはそもそも政治のことに興味を持っていない人がすごく多くて、ちょっとそういう話をしようとすると、『どうしたの? 宗教にでも入ったの? 何で急にそういう話をし始めるの?』とドン引きされてしまうんです。

 そこから話ができるような状態でもないという状況のなか、ビラを貼るために学内の教授に協力をお願いして回っていたのですけれども、その際にも『何でそんな沖縄の話なんかに興味があるの?』と元新聞記者の教授にまで言われてしまったりして。

 私としては、もちろん本土の責任も大きいと思うし、何より地方自治の形骸化、軽視というのは沖縄だけではありません。今回許してしまったら、全国に広まって行ってしまうなという危機感が強くあります。

 私の高校は横須賀なのですが、グラウンドのフェンスを挟んですぐ隣が米軍基地です。沖縄よりは少ないけれども、『常にヘリの音が聞こえていたり、何か物が落ちてきたり』といった被害は、神奈川県でもたくさん起きています。

 本土の基地の近くに住んでいた者として、『これは地方自治の問題だし、あなたの身近なところで同じ問題が起きるかも知れない』『今回の県民投票の結果を尊重しない政府を許してしまったら、自分たちの意見も聞いてもらえなくなるかも知れないんだよ』ということを、まずは学内から広めて行きたいなと思っています」(丸山さん)

◆元山さん「自分よりも年下の人たちを応援したい」

 丸山さんの実体験を交えた発言が終わると同時に拍手が沸き起こり、元山さんが「僕を呼んでくれたら行きますので」と言うと、さらに大きな拍手となった。そして元山さんは「できるだけ同世代の人たちの動きを応援したいと思います」と、思いを語り始めた。

「自分も、沖縄の大学教授たちが誘ってくれて『授業をまるまる使っていいよ』ということで話させてもらったり、『高校生たちも関心があるんですよ』と高校の先生たちが声をかけてくれたり。

 本当にすごいなと思って。ハンガーストライキをやった時は、高校生たちも来てくれました。『なぜ(県民投票の)投票権を奪うの? そんなのダメじゃん』という、16歳や17歳の子すら分かるようなことを、宜野湾市長はやってしまっていた。そういう自分よりも年下の人たちのことをものすごく応援したい。

 これから自分たちが社会・政治を担っていきます。今回の県民投票では投票権がまだなかった(さらに若い)世代も考えていかないといけないと思いますし、それは沖縄だろうが、他の都道府県であろうが同じだと思います。特に、大学の中で考えること、学生が動いていくということはすごく重要だと思うので、何とか協力できればなと思います。ありがとうございました」(元山さん)

◆かつての官邸前集会とは違った若者たちの動き

 元山さんら若者たちが牽引する形で実現した県民投票は、これまで政治への関わりが少なかった若い世代への確かなメッセージとして届き始めているようだ。彼らは、「“沖縄いじめ”を止めてほしい。黙って見過ごしていたら、次はあなたがいじめられることになるかも知れない」と、「身近な問題」として呼びかけている。

「安倍は辞めろ!」コールに象徴される、かつての官邸前集会とは違った形で、静かなうねりとして若者世代を含めて浸透し、それが全国各地に広がり始めているように見える。

 保革の結集を呼びかけて「オール沖縄」を産み落とした故・翁長雄志前知事の精神を引き継いだ元山さんが、今後も沖縄県民の民意を形にする活動に関わって行くことは間違いない。これからも元山さんの動きから目が離せない。

<取材・文・撮影/横田一>

ジャーナリスト。小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)に編集協力。その他『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数

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