官邸vs.ジャーナリズム――多くの記者たちが異例のデモ参加、問われるメディアのあり方

HARBOR BUSINESS Online / 2019年3月27日 8時32分

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首相官邸前のデモでスピーチを行う望月記者

◆メディア関係者を含む600人がデモに参加

 前代未聞、極めて異例なことだ。3月14日、首相官邸前で新聞記者などメディア関係者ら600人がデモを行い、内閣官房記者会見での政府関係者による望月衣塑子記者(東京新聞)への嫌がらせに対して抗議した。

 多くのメディア関係者らがデモという直接行動に出るようになった背景には、安倍政権が露骨に「報道の自由」への圧力を加えてきたことへの危機感がある。

 14日の官邸前デモを主催したのは、日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)。新聞、放送、出版、映画、広告等それぞれの労働組合の連合会、協議会等で構成された組織だ。MICは同日のデモで発した声明で以下のように、内閣官房の振る舞いを批判している。

“菅義偉官房長官の記者会見で、沖縄県名護市辺野古での米軍新基地建設をめぐり、「埋め立て現場ではいま、赤土が広がっております」と質問した新聞記者に対して、首相官邸が「事実誤認」「問題行為」と一方的に断定し、質問制限や妨害行為を正当化する政府答弁書の閣議決定までしました。しかし、赤土が広がっていることは現場の状況を見れば明白であり、記者が記者会見で質問することは自然な行為です。首相官邸の主張は、意に沿わない記者に「事実誤認」のレッテルを貼る卑劣な行為です”

◆辺野古建設強行の「急所」を突いた望月記者への圧力

 安倍政権が沖縄県の民意を無視して強行している辺野古米軍新基地の建設海域一帯は、絶滅危惧種ジュゴンの餌場であり、アオサンゴ群落は北半球最大規模であるなど、世界的にも貴重な生態系がある。

 工事に伴って赤土が流出することは、これらの生態系に深刻な悪影響を及ぼしかねない。そのため沖縄県は、環境保全の条例に反するとして、辺野古新基地の工事計画の見直しが必要だとしている。

 辺野古米軍新基地建設の「急所」である赤土流出問題について、望月記者が昨年12月26日に内閣官房記者会見で質問したところ、安倍政権は“逆ギレ”した。首相官邸の報道室が上村秀紀室長名で、首相官邸にある記者クラブ「内閣記者会」に対して、望月記者の質問を「事実誤認」で「問題行為」としたうえで「事実を踏まえた質問をしてほしい」などと申し入れる文書を出した。

 さらに、政府は今年2月15日、望月記者の質問が「誤った事実認識に基づくものと考えられる」とする答弁書を閣議決定した。

◆「会見は、国民の知る権利のための場なのです」

 前出のMICは14日のデモの中での声明で、“記者の質問内容にまで政府見解の枠をはめようとする首相官邸の行為は、「取材の自由」や全ての市民の「知る権利」を奪うものであり、断じて容認することはできません”と批判。“首相官邸および閣議決定に署名した各閣僚に対し、厳重に抗議し、撤回を求めます”と要求した。

 14日のデモでは望月記者本人もマイクを握り、「沖縄県知事選でデニー知事の圧勝も止まらない辺野古の強制的な埋め立て等、政府の沖縄県民の民意を無視する横暴を観るにつけ、これだけは聞かねば、民主主義が根底が覆えされようとしているという危機感から、私は会見に臨んでいます」と語った。

 さらに「内閣官房記者会見が、政府にとって都合の良い広報の場となっていないでしょうか?」「会見は政府のものでもなく、メディアのものでもなく、国民の知る権利のための場なのです」と訴えた。

◆既得権益を持つ大手マスコミ側にも温度差が

 だが一方でメディアの中には、望月記者のことを快く思っていない者もいるようだ。今年2月21日付けの『神奈川新聞』の記事で田崎基記者は、同月18日夕方に加盟社へ配信された共同通信記事から、削除された部分について暴露した。

 その削除部分とは、“メディア側はどう受け止めたのか。官邸記者クラブのある全国紙記者は「望月さん(東京新聞記者)が知る権利を行使すれば、クラブ側の知る権利が阻害される。官邸側が機嫌を損ね、取材に応じる機会が減っている」と困惑する”というものだった。

 つまり、政治家と良好な関係を保ち、記者は情報をもらう。そうした癒着を示す記事の核心部分は、配信直後に共同通信から記事配信を受けている加盟社からの「記事内容が誤解を招く」との求めにより、削除されたのだという。

 田崎記者は「マスコミ大手の人たちにも『望月記者への質問制限は、我々が取材しやすいとかしやすくないとは別の問題』と語る人も多い」とも語る。ただ、内閣官房記者会見で、多い時には1分半の間に7回と、上村秀紀・報道室長が望月記者の質問を遮ぎる中で、その場の他の記者たちが猛抗議するような場面は見られなかった。

◆フリーランスは毎日2回ある内閣官房の記者会見に週1しか参加できない

 また「報道の自由」を叫ぶ一方で、記者クラブの大手マスコミ記者たちは、フリーランスの記者たちを排除している、との指摘もある。20年以上前から記者会見の開放を訴えているジャーナリストの寺澤有氏は「記者クラブメディアは、『国民の声を代弁してる』とか言いながら、私をはじめとする多くのフリーランスを首相や官房長官の記者会見から排除しているのです」と批判する。

 確かに内閣官房での記者会見も、平日の午前と午後の毎日2回あるにもかかわらず、フリーランスは週1回しか参加できないという事実上の「質問制限」を受けている。

「しかも、内閣官房の会見に参加できるのは、記者クラブメディアからの推薦状を提出する等の条件を満たしたフリーランスだけ。この条件が不当極まりなく思えて、私は推薦状なしで何回も出席を申し込みました。しかし、首相官邸、記者クラブの双方から拒否されました」(寺澤氏)

 望月記者は、14日のデモで「今、国家権力とメディアのあり方、そしてメディアとは何なのかを問い直す時期に来ているのだと思います」と訴えた。また、「政府がメディアを支配しようとする今だからこそ、私たちはそれぞれの勇気を振い立たせ、連帯し、共にたたかっていこうではありませんか」と呼びかけた。

 望月記者が言うように、権力の暴走を監視するメディアがその役割を果たさなくなったら、人々の知る権利は奪われ、この国の民主主義は根底から崩壊する。だからこそ、フリーランスであるかないかを問わず、記者たちは「民主主義の礎」たる自らの責任を自覚しないといけないのだろうし、そのためにも各々の立場を超えた共闘が必要なのだろう。

【ニュース・レジスタンス】

<取材・文/志葉玲(ジャーナリスト)>

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