なぜ、AT車はブレーキの踏み違いが多発するのか。その対策を考える

HARBOR BUSINESS Online / 2019年5月7日 8時32分

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アクセルとブレーキの踏み間違いは、いかにして防げるか

 連休前、立て続けに起きた交通死亡事故。中でも池袋での高齢者ドライバーによる死傷事故(以下「池袋事故」)は、世間に「アクセルとブレーキの踏み間違い」の危険性を知らしめ、日本の高齢化がもたらす「社会問題」として、強く認識させるきっかけとなった。

 前回は、その池袋事故から「高齢者ドライバーが免許更新時に受ける認知機能検査の甘さ」について紹介したが、今回は、頻発するオートマチック車による「踏み間違い事故」の原因と、池袋事故の翌日に発生した兵庫県三ノ宮市のバス死亡事故(以下「三ノ宮事故」)から垣間見える業界の現状を、元大型自動車ドライバーの視点から述べてみたい。

◆踏み間違いによる事故は、ほとんどがAT車で起きている

 現在、道路を走るクルマには、大きく分けてマニュアル車(MT車)と、オートマチック車(AT車)がある。AT車は周知の通り、アクセルを踏めば進みブレーキを踏めば止まる、操作が比較的容易なクルマだ。

 一方のMT車は、AT車ではほとんど使わない左足と左手を使い、発進や変速、停車時にクラッチ操作やシフトチェンジが必要となる。

 ここ数年急増しているアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故は、そのほとんどがAT車で起きている。

 AT車は、「D」レンジに入れたままブレーキを足から離すとクルマが前進する「クリープ現象」が発生する。「踏み間違い事故」の多くが、意図せず起きたこのクリープ現象に焦り、ブレーキではなくアクセルを踏んでしまうことで起きる。

 これらは、本来クルマが止まっていなければならない状況下で起きるため、交差点前での踏み間違いは、「信号無視」、さらには「大事故」を意味することになる。恐らく今回の三ノ宮事故もこのケースだろう。

 これ以外にも踏み間違いが起こりやすいのが、「車庫入れ時」だ。

 クルマを駐車場や車庫などに入れる時は、レンジを「D」から「R」へと頻繁に入れ替える必要があるのに加え、体をよじらせて後方を確認しながらブレーキとアクセルを頻繁に踏み変えるため、足の位置が不安定になりやすく、踏み間違い事故の発生率が高くなるのだ。

 実のところ、踏み間違い事故は高齢者だけでなく、20代以下のドライバーにも多い事故ではあるのだが、加齢で関節が硬くなった高齢者にとっては、若者よりもフィジカル面で、踏み間違いの危険性が増すのである。

 その点MT車は、簡単に言えば、アクセルを踏むだけでは構造上発進できず、クラッチやアクセルペダルの踏む程度を間違えるとエンストか空吹かしを起こすため、踏み間違いによる急発進は起こり得ないのだ。

◆大型車にも広がるAT車

 筆者は今回、三ノ宮事故が「踏み間違い」によるものだとする報道に、当初大きな違和感を覚えた。

 乗用車のほとんどがAT車である一方、トラックやバスは今のところMT車が大多数で、踏み間違い事故は、これまでほとんど発生してこなかったからだ。

 が、今回事故を起こしたバスがAT車だったと知った時、「なるほどそうか」と納得すると同時に、大型自動車を扱うバス・物流業界が直面している深刻な社会的背景を垣間見た。

 ATの大型自動車は、普通自動車のそれとは乗り心地が大きく違う。

 ATのトラックの変速には、アクセルの踏み込みからかなりのタイムラグがあり、自分の思った通りのスピードを出しにくいのだ。満載時に坂道を上る際などは、アクセルを全開にしても全くスピードが出ないこともある。

 今回、ATの大型トラックやバスに乗ったことがあるドライバーにアンケートを取ったところ、そのほとんどがMT車のほうが好きだと回答。筆者も現役時代、ATのトラックに乗ったことがあるが、やはりMT車のほうが断然運転しやすかった。

◆それでもAT車が増える背景には人手不足が

 しかし、こうしたドライバーからの不評をよそに、昨今、AT車や「セミオートマチック車(AMT車)」の導入を検討する物流・バス企業が急増。それに伴いトラックメーカーも次々にAT・AMT車の製造販売をするようになってきている。

 その理由は、業界が抱える「人手不足」にある。

 近年、物流やバス業界は、深刻なドライバー不足や現役ドライバーの高齢化に陥っており、人材確保のため様々な取り組みがなされているのだが、中でも積極的に取り入れている対策の1つが、AT・AMT車の導入なのだ。

 警察庁が発表した平成30年運転免許統計によると、同年に普通自動車免許の試験を受けた受験者のうち、約66%がAT限定免許。つまり、業界で主流となっているMTのトラックやバスを運転できるドライバーは、免許取得の時点で34%に絞られてしまうのである。

 そのため各企業、難しい運転技術が必要ないAT車を積極的に導入し、AT限定免許しか持たない人の他、高齢者や女性にもドライバー採用の幅を広げ、人材獲得を狙っているというわけだ。

 中には、保有するMT車をAT車に総入れ替えした物流業者や、「AT限定の大型自動車免許の創設」を期待する声も出てきている。

 こうしたバスやトラックのAT車化により、将来考えられるのが、今回の三ノ宮のような「大型車による踏み間違い事故」の増加だ。

 今まではMT車率が高く、トラックやバスでの踏み間違いは起こりづらい状況にあったのが、AT車が増えることで、今回のような事故が増える恐れがある。そこに「ドライバーの高齢化」が重なれば、なおさらだ。

 乗用車よりも図体の大きい大型車が踏み間違いを起こせば無論、事故の規模や被害も大きくなる。

 実際、三ノ宮事故で出ていたスピードは、事故時の動画を見るに、30km/h前後程度。それでもあれだけの被害が出たのは、やはり大型自動車だったからという感が否めない。

◆「左足ブレーキ」が現時点での最大限の対策?

 こうしたAT車によるアクセルとブレーキの踏み間違いに対し、改善策見出そうとする動きはかなり昔からあった。

 今では「誤発進防止システム」や「衝突防止装置」、アクセルとブレーキを同時に踏んだ際にブレーキを優先する「ブレーキ・オーバーライド・システム」などが搭載されたクルマが世に出始めてはいるが、車種や天候、道路状況によっては作動しないことも多く、現状、機械に100%頼れるまでには至っていない。

 そんな中、走行中に遊びほうける左足をブレーキ役に使い、「一脚一役」で踏み間違いを防止するドライバーが昨今増えつつある。いわゆる「左足ブレーキ」だ。

 左足でペダルを踏む感覚に慣れる必要があること、そして、そもそも現在のクルマはブレーキを左足で踏む構造になっていないことから、専門家などからは推奨されていないが、実際左足ブレーキをしているドライバーからは「右足だけの運転より安全性は高い」などの声が挙がっており、ネットでは否定派と意見をぶつけ合っている。

 筆者自身も、現在のクルマでの左足ブレーキには賛成し難いところだが、事故が起きる度に踏み間違いに対する議論がなされては、根本的な改善策が見出されてこなかった現状に鑑みると、「クルマ」や「クルマの運転」には、左足ブレーキに限らず、何らかの大きな方向転換が必要になってきている時期ではあると感じる。

 MT車の流れを継ぎ、どちらとも右足で踏まれるAT車のアクセルとブレーキ。

 AT車の比率が高まる時流ならばいっそのこと、「誤発進防止システム」などを取り付ける前に、左足用のブレーキを搭載したクルマを開発したほうが、根本的な事故削減に繋がるのではと、減らない連続交通事故から思うところだ。

【橋本愛喜】

フリーライター。大学卒業間際に父親の経営する零細町工場へ入社。大型自動車免許を取得し、トラックで200社以上のモノづくりの現場へ足を運ぶ。日本語教育やセミナーを通じて得た60か国4,000人以上の外国人駐在員や留学生と交流をもつ。滞在していたニューヨークや韓国との文化的差異を元に執筆中。

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