フェイスブック、ネット世論操作企業関連アカウントを大量削除。世論操作ビジネスは日本に拡大も

HARBOR BUSINESS Online / 2019年5月20日 8時32分

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◆暴露されたネット世論操作企業アルキメデスグループ

 2019年5月16日、フェイスブックはブログでフェイスブックとインスタグラムの265のアカウントとページを削除したことを発表した(参照:Removing Coordinated Inauthentic Behavior From Israel)。

 翌17日には、この発表を受け、AP通信社ニュースが『Facebook busts Israel-based campaign to disrupt elections』という記事を発表した。同記事内では本連載でお馴染みのデジタル・フォレンジックラボのコメントも紹介されている。デジタル・フォレンジックラボはアメリカのシンクタンク大西洋評議会の組織で、ネット世論操作を中心に調査研究を行っている。

 削除対象となったアカウントはフェイクであり、現地の人間あるいは地方新聞を名乗り、政治家からのリークだというフェイクニュースなどを広めていた。取り上げるテーマは選挙や候補者に関するものが多かった。ターゲットになった地域はナイジェリア、セネガル、トーゴ、アンゴラ、ニジェール、チュニジア、マリ、ガーナといったアフリカの国々、ラテンアメリカ、東南アジア、少なくとも13カ国がターゲットになっていた。そして、実行したのはイスラエルのアルキメデスグループという私企業だ。なお、13カ国にはフェイスブックの発表にはなかったが、のちにデジタル・フォレンジックラボで確認されたものも含めた。

◆地元紙やファクトチェック組織を装ってフェイクニュースを流す

 フェイスブックでは65アカウント、161ページ、23グループ、12イベント。インスタグラムでは4アカウントが対象になった。約280万アカウントがひとつかそれ以上のページをフォローし、5,500アカウントが少なくともひとつのグループに参加し、920アカウントがひとつ以上のインスタグラムのアカウントをフォローしていた。およそ8,850万円(US$812,000)の広告出稿があった。最初の広告は2012年12月で最新の広告は2019年4月。9つのイベントがこれらのページで開催され、2,900人が少なくともひとつに関心を示した。

 多くの投稿は地元の政治家を支援するか、攻撃するものが多かった。ページを作り、地方紙やファクトチェック組織に見せかけて、当該政治家に関するリーク情報を掲載していた。これらのページは地元の人間が作ったような体裁だったが、国外で運営されていたことがわかった。

 この連載でも『急成長するアフリカの覇権を巡り、しのぎを削る中露。経済支援・ネット世論操作でも』で、アフリカに蔓延しているネット世論操作について概観した。そこでネット世論操作が行われており、ケンブリッジ・アナリティカの関与を指摘した。しかしイスラエルの私企業が食指を伸ばしていたことは今回初めて知った。

◆アフリカの選挙を蝕むアルキメデスグループのネット世論操作

 このフェイスブックから事前に連絡をもらって解析を行ったデジタル・フォレンジックラボは、アフリカにおけるアルキメデスグループのネット世論操作を分析したレポート「Inauthentic Israeli Facebook Assets Target the World」を公開した。

 同レポートによると、多くのページが2019年2月に行なわれたナイジェリアの選挙(Muhammadu Buhariが大統領に再選された)に関連していた。Muhammadu Buhari支持と対立候補への攻撃を行うページが多く、中には対立候補をスターウォーズのダースベイダーになぞらえて批判するものもあった。

 いくつかのページは3月に行われたリバーズ州の地方選挙に焦点を当てていた。リバーズ州の選挙は3月に行われたが、現地の治安が非常に悪化したため結果の発表は4月に延期された。リバーズ州に広がる治安悪化を報告するサイト「Rivers Violence Watch」への投稿と評価にボットの活動の痕跡が確認された。

◆地元学生などを装い実際の拠点は海外

 フェイクニュースを告発するサイトを装ったフェイクニュースサイトも登場した。「C’est faux — les fake news du Mali」(それはフェイクだ— マリのフェイクニュース)はマリの新聞のフェイクニュースを暴くとし、マリの学生が運営していることになっていた。だが、実際の運営者はセネガルとポルトガルにいた。

 チュニジアでも同様に「Stop à la désinformation et aux mensonges」(誤報とウソを止める)というページがあったが、実際にはすでに誤報とされているものを紹介していた。ガーナには「Ghana 24」というニュースサイトを模したプロパガンダサイトがあった。「Ghana 24h」はイスラエルとイギリスのアカウントによって運営されていたことがわかっている。これらは氷山の一角で、多くのページは当該国で運営されているように装っているが、実際には国外(イスラエル、イギリス、ポルトガルなど)で運営されていた。

 いくつかのページでは候補者を攻撃あるいは支持するためのリーク情報(と称するもの)を公開していた。公式には公開できない軍事、諜報活動、汚職に関する情報を提供するのだという。

◆7年前から拡大してきたネット世論操作産業が世界の選挙を蹂躙する

 同レポートはネット世論操作の対象地域が広いことから、共通した思想的な背景があるのではなく経済的な便益が狙いだと考えられている。つまり特定の政権、政治家、政党から依頼を受けてネット世論操作を実行している可能性が高い(そもそもアルキメデスグループのページに請け負っていると書いてある)。

 つまり、7年前から私企業が利益のために世界中から依頼を受けてネット世論操作を行っていたことになる。

 アルキメデスグループはテルアビブに本社を置くコンサルティングとロビー活動を行う企業で、クライアントの望むように「現実を変える」のだという。デジタル・フォレンジックラボのGraham Brookieによると、同社はフェイクニュースを拡散するネット世論操作企業に他ならない。ロシアがやったようなネット世論操作を、金儲けのために請け負う企業が増加しており、民主主義を脅かしている。

 アルキメデスグループはネット世論操作市場に1プレイヤーに過ぎない。先だって公開されたNATO Strategic Communications Centre of Excellenceのレポート(参照:『世論操作は数十セントから可能だった。NATO関連機関が暴いたネット世論操作産業の実態』–HBOL)では、ネット世論操作産業が広がっている実態を明らかにした。

 このレポートでは市場を3つにカテゴライズしていた。アルキメデスグループはこのカテゴリーの「オフライン:リアル世界での直取引」でハイエンドに当たると考えられる。

◆日本の政権党が依頼した場合、野党は見破れるのか?

 レポートではハイエンド企業を見つけて依頼するのは難しいと書いてあったが、アルキメデスグループには当てはまらない。彼らは堂々と自社のウェブサイトを持ち、直接的な表現は避けているが、明らかにネット世論操作を請け負うことを表現している。「選挙を勝利に導く」、「クライアントのためにあらゆる手段を講じる」、「世界規模でのキャンペーンを成功に導く」、「大規模なSNSのマネジメント」、「無制限の規模のアカウントの作戦を実行」といった言葉からよくわかる。なお、 Archimedes Tarvaというツールを用いてネット世論操作を行っているらしい。もはやネット世論操作企業は自らの本性を各層ともしなくなっている。

 以前の記事『極論主義とネット世論操作が選挙のたびに民主主義を壊す』)で書いたように、ネット世論操作はアフリカ、ラテンアメリカ、東南アジアを中心に猛威を振るい、エセ民主主義化が進んでいる。ネット世論操作産業はそれを後押しし、エセ民主主義の広がりとともにその市場も拡大している。

 日本の政権党が国際的なネット世論操作企業に依頼する可能性は高い。その時、野党やメディアは告発はもちろん発見することもできないだろう。なにしろいまだに国内のネット世論操作の実態レポートがひとつも存在していないのだ。この分野で日本は世界でもっとも遅れている。

 ちなみにアルキメデスグループについての記事を掲載している日本語の新聞はない。The Japan Timesと、なぜか毎日の英語版では記事になっている。

◆シリーズ連載「ネット世論操作と民主主義」

<取材・文/一田和樹 photo by Anthony Quintano via flickr (CC BY 2.0)>

いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている

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