親と暮らせない子ども、施設より里親のもとで養育を。日本は国連から改善勧告を受けていた

HARBOR BUSINESS Online / 2019年5月22日 8時32分

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◆親と暮らせない子どもの約8割が施設で生活

 日本には、親と暮らせない子どもが約4万5000人もいる(※平成31年4月に厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課が発表した資料による)。町村が「市」に移行する要件が5万人以上なので、0歳~19歳までの子どもたちだけで一つの市ができてしまいそうなほど多いのだ。

 こうした子どもたちに対して、行政は「社会的養護」に取り組んでいる。保護者のない児童や、保護者に監護させることが適当でない児童を、公的責任で養育し、保護するとともに、養育に大きな困難を抱える家庭への支援を行っているのだ。

 具体的には、親と暮らせない子どもの約8割が乳児院や児童養護施設などの施設で、残り2割未満は里親家庭やファミリーホームで育てられている。

 家庭的な環境より、施設のような環境で育てることが、子どもにとって本当に適切なことなのだろうか?

 この問題について議論する前に、日本の社会的養護の現状について知っておきたい。

◆様々な施設が子どもを養育

 一口に「施設」といっても、それぞれに養育している子どもの属性は異なる。

 乳児院では、保護者のいない乳幼児か、保護者による養育が困難または不適当な乳幼児を養育している(※就学前まで)。

 児童養護施設では、保護者のいない児童、虐待されている児童、その他環境上養護を要する児童を養育している(※特に必要な場合は乳児から20歳未満まで)。

 児童心理治療施設では、家庭環境、学校での交友関係、その他の環境上の理由で社会生活への適応が困難となった児童が対象だ。

 児童自立支援施設では、不良行為をするか、そのおそれのある児童や、家庭環境その他の環境上の理由で生活指導等を要する児童を入所させて(あるいは保護者の下から通わせて)、生活指導・学習指導・職業指導等を通じて心身の健全な育成と自立支援を図っている。

 母子生活支援施設(昔の母子寮)は、基本的に18歳未満の子どもを養育している母子家庭、または何らかの事情で離婚の届出ができないなど、母子家庭に準じる家庭の女性が子どもと一緒に利用できる施設だ。

 自立援助ホームは、児童養護施設等を退所した義務教育終了後の児童(15歳~20歳)を養育する民間の施設。NPOなどが運営している。

◆国連「子どもの権利条約」が定める「児童の最善の利益」とは?

 こうした取り組みには、児童福祉法という根拠法がある。その第1条には、こう書かれているのだ。

「全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する」

「児童の権利に関する条約」(通称:子どもの権利条約)は、18歳未満のすべての人の保護と基本的人権の尊重を促進することを目的として、1989年(平成元年)の国連総会で採択された。日本は1990年9月にこの条約に署名、1994年4月22日に批准し、同年5月22日から効力が生じている。(※条約の全文は、外務省のホームページで)

 日本国憲法では、第98条において「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」と明記されている。そのため、批准した以上、条約に拘束され、国内法を整える必要がある。

 児童の権利に関する条約の第3条には、「児童に関するすべての措置をとるに当たっては児童の最善の利益が主として考慮されるものとする」と書かれているが、「児童の最善の利益」は何を意味するのか?

◆国連は家庭での養育を推奨、「施設での養育は最後の選択肢であるべき」

 2015年8月、東京都議会議員だった音喜多駿氏は、自身のブログで『実は国連から「子どもの人権侵害」への懸念で勧告を受けている日本』という記事を発表した。

 音喜多氏は、条約の前文にある「家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべき」というフレーズを引用し、2010年6月20日の「国連子どもの権利委員会」からの公式な報告書で「親の養護のない児童を対象とする家族基盤型の代替的児童養護についての政策の不足」が指摘されていることを紹介したのだ。

 つまり、「児童の最善の利益」とは、施設より家庭での社会的養護を増やすこと。そのための政策を作り、議決することが条約によって求められている。

 これは、当時まで諸外国における養護のあり方とは真逆の方針を日本がとっていたからだ。実際、2010年前後の時点では、各国の要保護児童に占める里親委託児童の割合を見ると、欧米では半数以上が里親に委託しているのに対し、日本は10%台で突出して低い水準だった。

 2010年5月にユニセフ事務局長に就任したアンソニー・レーク氏は、会議でこう述べている。

「子どもにとっては家庭に基づく養育が最善であり、施設での養育は最後の選択肢であるべきです。ただ単に安全な場所を与えるのではなく、愛情に包まれ支えになってくれる環境こそが、子どもたちにとって大切なのです。こうした環境は、子どもたち自身が持つ力を自ら開花させる助けとなり、やがて社会に貢献する人間に成長することでしょう」(日本ユニセフ協会のホームページより)

 この方針に反する日本は、国連から改善勧告を受けていた。だから音喜多氏は同記事で、「我が国は、子どもの人権を侵害する該当国だった」と書いたわけだ。

◆児童福祉法の一部を改正 子どもは保護の対象から、権利の主体へ

 もっとも、遅まきながら日本政府は、2016年6月3日に「児童福祉法の一部を改正する法律」を制定・施行した。

【改正前】

すべて児童は、ひとしくその生活を保障され、愛護されなければならない

【改正後】

全て児童は、児童の権利に関する条約の精神にのっとり、適切に養育されること、その生活を保障されること、愛され、保護されること、その心身の健やかな成長及び発達並びにその自立が図られることその他の福祉を等しく保障される権利を有する

 この改正は、子どもを一方的に支援される対象としていた従来の考えを改め、守られる権利の主体者として位置付けた点で、画期的だった。子どもが児童相談所に保護されたいのかどうかの意思決定の権利者に含まれることを初めて明記したからだ。

 このことを逆手にとって、自分が虐待した子どもに虐待がなかったかのような文面を書かせたのが、野田市の虐待死事件の容疑者だった。行政は、「子ども自身の意見をお子さんから直接聞かなければ、私たちは何もできません。法に従って仕事をするのが、私たち役人ですから」と容疑者をつっぱねてもよかったはずだ。

 もっとも、国連が示す児童の権利とは、「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」であり、「参加する権利」以外がほぼ法律に明文化されたことは特筆に値する。

 また、社会的養護は、家庭での養育を優先し、施設での養育は次善の策として定められた。

(1)国及び地方公共団体は、児童が「家庭」において心身ともに健やかに養育されるよう、児童の保護者を支援することとする(児童福祉法第3条の2)

(2)ただし、児童を家庭において養育することが困難であり又は適当でない場合は、児童が「家庭における養育環境と同様の養育環境」において継続的に養育されるよう、また、児童を家庭及び当該養育環境において養育することが適当でない場合は、児童ができる限り「良好な家庭的環境」において養育されるよう、必要な措置を講ずることとする。(同法第3条の2)

◆国連は日本の取り組みを一応評価したものの……。

 こうした改正を経た日本政府が2017年6月に提出した報告書に対して、国連子どもの権利委員会による審査が行われ、子どもの虐待問題への対応強化などを求める「最終見解」が今年2月7日に公表された。

 それによると、児童福祉法が改正され、「児童の権利に関する条約の精神にのっとり」との一文を入れたことと、子どもの代替的養育に関して原則、家庭養育が掲げられたことなどは、国連から一定の評価を得られた。

 ただし、これは今後の努力への期待を含めた評価にすぎない。日本の社会的養護には、厚労省にとって「不都合」な現実があるのだ。次回の記事で詳しく説明しよう。

<文/今一生>

フリーライター&書籍編集者。

1997年、『日本一醜い親への手紙』3部作をCreate Media名義で企画・編集し、「アダルトチルドレン」ブームを牽引。1999年、被虐待児童とDV妻が経済的かつ合法的に自立できる本『完全家出マニュアル』を発表。そこで造語した「プチ家出」は流行語に。

その後、社会的課題をビジネスの手法で解決するソーシャルビジネスの取材を続け、2007年に東京大学で自主ゼミの講師に招かれる。2011年3月11日以後は、日本財団など全国各地でソーシャルデザインに関する講演を精力的に行う。

著書に、『よのなかを変える技術14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)など多数。最新刊は、『日本一醜い親への手紙そんな親なら捨てちゃえば?』(dZERO)。blog:今一生のブログ

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