米政府のファーウェイ制裁。スマホは発売延期、世界経済への影響も

HARBOR BUSINESS Online / 2019年5月23日 8時32分

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中国にあるファーウェイの販売店(遼寧省瀋陽市)

 米政府は中国の華為技術(ファーウェイ)への制裁を発動した。米商務省傘下の産業安全保障局は2019年5月16日付けでファーウェイとその関係会社などをエンティティリストに追加しており、関係会社などには日本法人の華為技術日本(ファーウェイ・ジャパン)も含まれる。この制裁でどのような影響が想定できるのだろうか。

◆ファーウェイは米原産品の調達困難に

 産業安全保障局はファーウェイを米国の国家安全保障や外交政策の利益に反する事業体と判断し、エンティティリストに追加したという。エンティティリストに指定された事業体への特定の米国原産品の輸出には産業安全保障局が発行した許可証が必要となる。完全禁輸ではなく厳密には輸出許可制だが、原則として許可は下りず、輸出には第三国を通じた再輸出や国内移転まで含まれ、内容は取引禁止に近い。

 規制対象となる特定の米国原産品は産業安全保障局が管轄する輸出管理規則(EAR)の対象品目である。輸出管理規則は軍事転用可能な民生品(デュアルユース品)の輸出管理が目的で、デュアルユースの材料や部品などの汎用品、ソフトウェア、特許を含む技術が規制対象となり、兵器などに転用できる多くの米国原産のハイテク製品が含まれる。

 また、規制対象の製品や材料を組み込んだ製品において、価値ベースで規制対象のものが一定以上の割合を占める場合、それも規制対象となるため、米国企業のみならず第三国の企業の製品を含めて規制対象が広範囲に及ぶ可能性がある。第三国の企業が規制対象の製品を許可なしでエンティティリストに指定された事業体に輸出すれば、輸出者までも制裁対象となる恐れがあり、ファーウェイとハイテク製品を取引する場合は十分な注意が必要となる。

 EARは米国の輸出管理法を根拠とし、国際法の属地主義の観点から米国法の過度な域外適用は国際法の原則に反すると考えられるが、制裁対象となれば金融機関などから取引を拒否される恐れがあり、第三国の企業でも米政府の措置を順守するしかないのが現状だ。すでにドイツの半導体メーカーがファーウェイへの製品の供給を中断した模様で、実際に第三国の企業が取引を中断する動きが出ている。また、取引内容が規制対象でなくとも、制裁対象の事業体とは関与を避ける企業も多く、ファーウェイは米国原産品の調達が困難になるほか、一部の取引先を失う可能性もある。

◆影響範囲は極めて大きくなりそう

 取引内容が規制対象かどうかの判定は複雑で、ファーウェイやその取引先も具体的な影響範囲は精査中と思われ、すぐに影響範囲を特定するのは困難だ。しかし、ファーウェイはブロードコム、グーグル、ルメンタム・ホールディングス、マイクロソフト、オラクル、クアルコム、ザイリンクスなど多くの米国企業から部品、ソフトウェア、技術を含むハイテク製品を調達しており、すでに一部企業がファーウェイとの取引を中断した。ファーウェイは携帯端末事業や通信設備事業を軸とするが、米国企業からのハイテク製品の調達が困難となれば、各事業とも製品の製造や販売に影響を与えるだろう。

 ファーウェイは子会社の深圳市海思半導体(ハイシリコン)からも主要な半導体を調達するが、ハイシリコンの半導体は台湾積体電路製造(TSMC)が製造する。ハイシリコンの半導体が米国の技術などを含むならば規制対象になる可能性もあり、そうでなくともハイシリコン自体が制裁対象であるため、製造設備の調達などで米国企業と取引があるTSMCの判断次第では影響を受けても不思議ではない。

 中国の中興通訊(ZTE)が制裁を受けて事業が停止したZTE事件は多少の参考にはなるだろう。ZTEは完全な取引禁止で、制裁の内容こそ多少は異なるが、両社は同業で規制対象品目も同じだ。ZTEは制裁を受けた結果、携帯端末事業と通信設備事業ともにほぼ中断に追い込まれた。

 ファーウェイはZTEより財務力も技術力も優れており、制裁への耐性も強い。しかし、携帯端末や基地局は膨大な数の部品、ソフトウェア、技術の集合体で、構成要素を規制対象外のもので代替できる場合もあれば、そうでない場合もあるだろう。ZTEほどではないとしても影響は避けられなさそうだ。

 なお、産業安全保障局は一時一般許可証を発行し、2019年5月20日から2019年8月19日までファーウェイとの保守関連など限定的な取引を認めた。2019年5月16日以前に契約もしくは一般に利用可能な通信設備、通信網、携帯端末の保守に必要なソフトウェアのアップデートやパッチを含むサポートやサービスに関する取引を許可したが、これはファーウェイへの救済措置ではなく、ファーウェイ製品に依存する顧客への救済措置である点に留意したい。

◆グーグルのサービスはどうなる

 一部でファーウェイ製の携帯端末ではAndroid OSやグーグルのサービスが利用不可となる可能性が報じられ、Twitterでも日本のトレンドで上位に入るほど話題となった。

 グーグルはAndroid OSやその他のサービスを提供するが、Android OSは無償公開するオープンソースで一般に入手可能なソフトウェアであるため、Android OS自体は規制対象にならない可能性が高い。ただ、グーグルが提供するプロプライエタリなソフトウェアやサービスは規制対象の可能性が高く、ファーウェイ製の携帯端末では利用不可となる事態もあり得なくはない。

 ファーウェイは既存の携帯端末へのサポートは継続すると表明し、グーグルも既存の携帯端末へのGoogle PlayやGoogle Play Protectのセキュリティは引き続き機能すると案内した。保守関連の取引が許可されたことからも、短期的には既存の携帯端末への影響は軽微だろうが、中長期的には不透明な状況だ。グーグルは影響を検討かつ米国政府の措置を順守する意向を明確化しており、将来的に発売されるファーウェイ製の携帯端末は影響を受ける可能性がある。

◆米国や日本の企業も大きな打撃か

 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなど大手通信事業者各社はいずれもファーウェイから携帯端末を調達しているが、すでに影響が生じている。

 NTTドコモはHUAWEI P30 Pro HW-02Lの予約受付を中止、KDDIと沖縄セルラー電話はHUAWEI P30 lite Premium HWV33の発売延期、UQコミュニケーションズやソフトバンクおよびウィルコム沖縄はHUAWEI P30 liteの発売延期を決めた。特に大手通信事業者は各社がサポート窓口となるため、先行き不透明な状況でこの判断は当然だ。すでに発売済みの携帯端末でも、ファーウェイ側で製造が停止または縮小すれば調達が難しくなる場合がある。

 また、基地局など主要な通信設備では大手通信事業者としてはソフトバンクとワイヤレスシティプランニングがファーウェイを採用するが、保守関連の取引は認められており、すでに発売済みや調達済みの製品に関して直ちに深刻な影響が生じることはなさそうだ。

 一方、サプライヤは打撃を受ける可能性が高い。ファーウェイのサプライヤには日本企業も多く、AGC、京セラ、ジャパンディスプレイ、住友電気工業、ソニーセミコンダクタソリューションズ、TDK、東芝メモリ、日本電産、パナソニック、富士通、三菱電機、村田製作所などが挙げられる。供給する製品が規制対象ならば供給不可となり、そうでなくともファーウェイ側で製造または縮小すれば供給の中断や縮小も余儀なくされる。供給する製品やファーウェイの状況次第では日本のサプライヤへの影響は間違いなく生じる。

 すでに米国のルメンタム・ホールディングスはファーウェイへの出荷停止に伴う業績の下方修正を発表した。これから影響範囲が確定する中で、日本企業を含め同様の事象が続出するかもしれない。世界における2018年のスマホ出荷台数でファーウェイは2位に肉薄する3位まで成長した。サプライヤにとって巨大なファーウェイは大型顧客となる場合も多く、米政府がファーウェイに制裁を発動した結果、米国やその同盟国の企業まで打撃を受けることは覚悟しておかなければならない。

◆解決は外交決着か

 ファーウェイは独自OSの開発や部品の大量確保など制裁に備えて準備してきたというが、やはり制裁の影響は避けられず、救済策を模索して解決に向けた取り組みを最優先とするだろう。

 ファーウェイのみならず世界の関連業界にとって早期解決が求められる事案だが、解決するならば外交決着になるのではないだろうか。ファーウェイへの制裁の発動が判明後、中国政府はすぐに反対を表明しており、米中外相の電話会談も行われた。すでに二国間の重大な懸案事項となっており、米トランプ政権は対立が深刻化する米中貿易摩擦の交渉カードに使い、ファーウェイへの制裁の軽減または解除を条件に譲歩を迫ることだろう。2019年6月下旬に大阪市で開催されるG20サミットに合わせて米中首脳会談を開くとの情報もあり、我が国で開催される会談で進展があるのか要注目だ。

<取材・文・撮影/田村和輝>

たむらかずてる●国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報に精通。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ

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