パチンコ業界紙に踊った「『おだち』を国政に」。その意味と背景

HARBOR BUSINESS Online / 2019年6月1日 8時33分

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「週刊アミューズメントジャパン」(5月27日号)の紙面

 パチンコ業界向けの専門紙に、刺激的な見出しが掲載されている。株式会社アミューズメントプレスジャパンが発行している「週刊アミューズメントジャパン」(5月27日号)のトップの見出しだ。(参照:「週刊アミューズメントジャパンweb版」)

◆「おだち」を国政に!

 パチンコ業界内には、業界関係者が購読する業界誌(紙)が多数あるが、この「週刊アミューズメントジャパン」は、新聞仕様で購読する関係者も多い。その見出しが「『おだち』を国政に!」と謳った。「おだち」とは誰なのか。この「見出し」の意図するところは何なのか?

◆パチンコ業界と尾立源幸氏

「おだち」とは、前参議院議員の尾立源幸氏の事である。7月に予定されている、第25回参議院議員通常選挙で、全国区の比例代表自民党公認予定候補として立候補を予定している人だ。

「週刊アミューズメントジャパン」によれば、5月17日、都内のホテルで「前参議院議員 尾立源幸君を励ます集い」が開かれ、パチンコ業界関係者約700名が集ったという。集会には、業界関係者のほか、自民党の二階俊博幹事長や平沢勝栄衆議院議員、秋元司衆議院議員らが応援に駆け付けた。

 世間では、「パチンコ業界と政治家の癒着」であるとか、「政治家のパチンコマネー」などというバッシングが真偽の証もなく言われたりもするが、実のところパチンコ業界は、表立って積極的な政治活動を今まで行ってはこなかった。その背景については割愛するが、今回はそうではない。パチンコ業界全体が、尾立源幸氏の応援を公然と始めた。

 いわば、業界を挙げて「ぱちんこ族議員」を作るための奔走を始めた。

 パチンコ業界はなぜ積極的な政治活動を始めたのかについては、本サイトに掲載した拙文「接近するパチンコ業界と自民党。パチンコ議連提言がもたらす『じゃんけんの構図』」をお目通し願いたい。

 では尾立源幸氏とは、どのような人物なのか?

 元々は民主党で2期当選した参議院議員であり、民主党政権時代の「一番じゃなきゃダメですか?」の「行政刷新会議」の中心的なメンバーでもあったが、2016年の参議院選挙で落選。今回、自民党に鞍替えして立候補(予定)することになった。元々パチンコ業界と縁が深い訳ではないが、新たな支持基盤を探す尾立氏の意向と、族議員を擁立したいパチンコ業界との意向がマッチングしたとみるのが妥当だろう。

 ただ、尾立氏の(パチンコ業界側から見た)ストロングポイントは、元来の支持基盤として「大日本猟友会」があるということ。尾立氏は猟友会の会員でもあり、ハンターとしての資格も保有している。猟友会は、銃を扱うという点においても、害獣駆除や山狩り等の活動においても行政、特に警察庁との関りが深く、「警察行政が主管するパチンコ業界」という側面も見れば、適役に近いとも言える。

◆「族議員」であることの意味

 この段ではまず一般論を述べたい。

 世間一般においては、「族議員」という言葉に何かしらの反感やアンチテーゼを持つ人が多い。そこには「癒着」や「金銭授受」等のダークなイメージが付きまとうからであるし、そのような収賄事件等の報道もまま目にするからだ。

 しかしそれは「悪しき族議員」の話であり、「族議員」と言われる人たちが皆そういう訳ではない。視点を変えてみれば、「族議員」とは、その業種業界の「専門家」であるとも言える。まして国会議員であれば、業界に関する様々な情報が集約されるし、業界内に幅広い人脈も生まれる。「族議員」とは業界に対する使命感を持ち、国政の場において、質の高い専門知識と幅広い情報をもって提言する事が可能な人なのだ。医療や農業、建設や流通、国防や外交に至るまで、国政の場にはそれぞれ専門家と言われる「族議員」がいる。

 その専門性は、審議議論の核心を捉えるうえでも、議会運営の効率化を図るうえでも、国政の場において必ず必要なものである。

 今回、パチンコ業界が応援する尾立氏はどうか。彼を支持する団体はパチンコ業界だけではない。それは彼のHPを見れば一目瞭然だ。ちなみに、本原稿執筆時点で、尾立氏のHPに「パチンコ業界」は含まれていないが、今後、業界専用ページを立ち上げるという話は聞いている。

 話を戻せば、尾立氏はパチンコ業界だけではなく、彼を支持する多くの業界の「族議員」にならんとしている。現時点において、そこに「悪しき」の冠は付かない。

◆問われているのはパチンコ業界の政治力

 ではパチンコ業界は、尾立氏を応援するにあたって、どれだけの影響力を持つのか。

 パチンコ業界で口を糊する人は、おおよそ25万人~30万人程度と言われている。ここには全国1万店のパチンコホールの従業員はもちろん、メーカーや販社、その他関連事業者まで含まれている。票田としては、十分な規模と言えるであろう。

 しかし問題は、その票田を刈り取る事が出来るのか、という事。

 前述の通り、パチンコ業界は今まで政治的な活動を積極的に行ってこなかった。まして国政選挙となれば、まったくの未経験である。

 業界が一丸となってとは言ってみたものの、それが直接的な影響力に転化するのかと言えば、業界関係者ですら口ごもる。

 冒頭の「尾立源幸君を励ます集い」に応援に訪れた、自民党・二階幹事長は言った。

「みなさんの名誉がかかっている」

 パチンコ業界が政治に急接近するという事は、今までの警察行政とのパワーバランスを失う事にも直結し、事の帰結によっては、より一層の苦境に立たされる可能性もある。お願いする側である自民党が、「みなさんの名誉がかかっている」と問題の主体をすり替えているのはどうかとも思うが、少なくともパチンコ業界関係者は、不退転の、崖っぷちの決断をしたのであろう。

 パチンコ業界からすれば、少なくともこの決断は、栄えるための決断ではない。滅びぬための決断だ。しかしその決断の意義と意味を、ホール従業員の端々まで届ける事が出来るのか。そこにはファンもアンチもない。問われているのはただ業界全体の「政治力」である。

<文/安達 夕 @yuu_adachi>

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