遺骨で帰国するベトナム人技能実習生。彼らを弔った尼僧たちの訴え<タム・チー氏✕吉水慈豊氏>

HARBOR BUSINESS Online / 2019年6月22日 8時31分

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お経を唱えるベトナム人尼僧のティック・タム・チーさん

◆社会の分断を招く人権無視の外国人労働者受け入れ

 技能実習生、留学生の死亡が異常に多い。法務省は、2012~17年に171人の実習生が亡くなっているというが、実数ははるかに多いはずだ。彼らはなぜ死んだのか。遺族はどのような思いなのか。

 『月刊日本』7月号では、このまま行けば日本人と外国人の対立を煽り、社会の分断をも招きかねない現状に警鐘を鳴らすべく、「どうなる! 外国人労働者問題」と題した特集を組み、外国人労働の最前線にいる人々に話を聞いている。

 同特集の中から、不幸にして亡くなった技能実習生や留学生の死者を弔う在日ベトナム仏教信者会会長の尼僧、ティック・タム・チーさんと、同会の拠点である浄土宗寺院「日新窟」(東京都港区)の尼僧、吉水慈豊さんに話を聞いた記事を転載し、紹介したい。

◆遺骨でベトナムに帰る技能実習生

―― タム・チーさんは技能実習生や留学生の死者を弔っています。

タム・チーさん(以下、タム・チー):私は2001年に来日して大正大学で大乗仏教を学び、2009年から日新窟で在日ベトナム人の信者と関わってきました。2012年からは技能実習生、留学生の葬儀も行うようになり、現在までに100名ほどの方々を弔ってきました。彼らの水子も20名ほど供養しています。これまで実習生、留学生の葬儀は毎月1件程度でしたが、昨年からは毎月3~5件に増えています。昨年は40名、今年は現在までに15名の方々の葬儀を執り行いました。みんな20~30代の若者ばかりで、連絡を受ける度に「また?」「なぜ?」と疑問を感じています。

 実習生や留学生は病死、事故死、自殺など様々な理由で亡くなっています。心不全や脳梗塞で亡くなった方、建設現場で実習中に転落死した方、不法就労中に漁船から転落して溺死した方、職場で「暴力やいじめがあってつらい」と遺書を残して首を吊った方……。日本に夢や希望を抱いてやって来た若者たちが、なぜ、こんなに死ななければならないのでしょうか。

―― 葬儀の過程はどのようなものですか。

タム・チー:まず亡くなった方の友人から電話やメールで「葬儀をしてほしい」と連絡が来て、それからベトナム本国の家族に連絡します。家族の来日を待ってから荼毘に付し、葬儀を行います。家族の方々は遺体にすがりつきながら泣いています。境遇によって家族構成は様々ですが、まだ若い奥さんや幼い子供がいる方も少なくありません。

 中には、金銭的な事情から日本まで駆けつけられない家族もいます。そのため、葬儀の様子をインターネット上の動画で中継することもあります。家族だけではなく友人や知人も画面越しに参列し、様々なコメントを書き込んでいます。

◆遺骨になった子供と再開する親の気持ちを考えてほしい

―― タム・チーさんは葬儀中にどういう思いで読経しているのですか。

タム・チー:そうですね……日本で色々な目に遭って、最愛の家族を残して逝かなきゃいけない貴方もさぞ辛いでしょう。でも、日本に留まるのは苦しいだろうから、どうか魂はベトナムへ帰って安らかにお眠りください。そして、全てを洗い流してどうか成仏なさってください……こういう気持ちです。お経を上げている時は様々な想いが去来し、本当に重い気持ちになります。

 葬儀が終わると、家族が遺骨を持ってベトナムへ帰ります。その後も日新窟では葬儀を行った方々の位牌を安置して供養を続けています。この6月には「日越親善供養塔」を建立し、実習生や留学生たちの位牌と御霊を供養塔へ移します。

 ただ、先ほども申し上げたとおり、家族が日本に来られないことがあります。そういう場合は、私がベトナムに帰国する際に骨壺を持参して家族へ手渡しています。今年は2つの家族に骨壺を届けました。一人の母親はまるで生きている我が子の頭を撫でるように、愛おしそうに骨壺を撫でていました。もう一人の母親は私の足元に跪いて足に接吻し、「息子が日本でお世話になりました。立派な葬儀を有難うございました」と言われました。友人の方々は私に手を合わせながら「先生のおかげで魂がベトナムに帰ってこられる」と喜んでおられました。

 親にとって日本へ行った子供は近所でも評判の自慢の息子・娘です。親は子供に一家の大黒柱としてとても期待をかけていて、その成長した姿が見られる帰国の日を楽しみにしています。そんなある日、日本から連絡を受けて、再会した子供の姿は遺体か骨壺なのです。どうかその気持ちを考えてください。

◆外国人への救済制度を整えて

―― 日新窟では技能実習生や留学生の支援、保護もしています。

吉水慈豊さん(以下、吉水):最近は、医療関係に関する相談が相次いでいます。たとえば、ある元実習生(34歳男性)は不法就労中に作業現場から転落して頭を打ち、その後に脳梗塞を発症して病院に運ばれました。手術は無事に済みましたが、860万円の治療費と右半身不随の後遺症が残りました。さらに、日本に来るために実家を担保にして借りた150万円の借金も残っていました。

 他の元実習生(25歳男性)は不法就労中に全身に大火傷を負って治療をうけ、未だに入院しています。これまでに会社の社長が100万円、ベトナムの家族は200万円も負担しましたが、今後はどうなるか分かりません。これらの件は労務士の先生に相談して対応を検討しているところです。

 女性からの相談もあります。ある元実習生(20代女性)は失踪中に妊娠、入管に出頭しようとしたところ、昨年8月に切迫早産で600グラムの未熟児を出産しました。赤ちゃんはずっと入院していたのですが、今年3月に亡くなってしまいました。その間の医療費は2000万円に上っており、本人と自治体から相談をうけました。自治体からの相談内容は、帰国したいのだけど、飛行機代がないので支援してほしいという内容でした。出発日が決まっていたので、一度電話で話してチケットを購入しEメールで送ってあげました。病院の支払いは本人からの話によると、最終的に彼女はベトナムの家族が実家を売って工面した50万円を支払って帰国の途につきました。

 先月にはベトナム人の子供を妊娠した実習生(33歳)を保護しました。彼女は妊娠が発覚したら強制的に帰国させられることを恐れ、中国地方から一人で日新窟まで駆け込んできたのです。その後、私やタム・チーさん、社労士の先生が立ち会って、会社と本人の話し合いの場を設けた結果、産休を認めてくれました。技能実習生は妊娠を隠さなくていい、産休をとることができるんだという良い前例が生まれたと嬉しく思っています。

 日新窟に駆け込んできた日、彼女は夕食を食べながらポロポロ泣き出し、「皆さんにこんなに力になってもらえるなんて……」と声を震わせていました。これまでとても孤独で不安だったのだと思います。

 現在、私たちは本人、病院、自治体、ベトナム大使館などから相談をうけて個別に対応していますが、限界があります。日本社会として一日も早く外国人に対する救済措置・救済制度を整えてほしいと願っています。

―― 実習生、留学生とその家族は日本のことを恨んでいますか。

タム・チー:そういう言葉は使いたくありませんが、日本が嫌いになる人が多いのは事実です。日本とベトナムは同じ仏教国です。お互いに慈悲や平等の思想を大切にできるよう祈ります。

(聞き手・構成 杉原悠人)

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