シーズン途中の勇退を選んだサガン鳥栖・トーレスの覚悟

HARBOR BUSINESS Online / 2019年7月6日 8時32分

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引退会見に臨む、サガン鳥栖のフェルディナント・トーレス(筆者撮影)

Contents1 フェルナンド・トーレス、シーズン途中の決断2 トーレスとサガン鳥栖の関係はどうなる?3 やるべきことは、「チームのために全員がまとまること」4 同僚の現役サガン選手が見たトーレスの「プロフェッショナリズム」

◆フェルナンド・トーレス、シーズン途中の決断

 引退とは、一部の実績を残した選手にのみ許される特権である。大部分の選手は、野球界用語でいえば戦力外通告、サッカー界用語でいえばゼロ円提示を受け、要はクビになる。

 本来ならフェルナンド・トーレスの契約は今年いっぱいまであり、来年も一年間のオプションが残っている。しかし、トーレスはシーズン途中の「引退」を選んだ。言うまでもなく、世界大会三連覇(2008EURO,2010南アフリカW杯、2012EURO)、チャンピオンズリーグ優勝もした男には引退の時期を選ぶ資格がある。

 そして引退にも二種類ある。余力を残して引退するのと、ボロボロになるまで戦い続けて本当に体が動かなくなって引退するパターンである。50歳過ぎても現役を続けるカズはまさに後者であり、筆者はどちらかといえばそういうタイプが好きだ。

 しかし、トーレスの引退理由は明らかに前者だ。

「私は自らに対しても要求が高く、その要求が今は満たせなくなっている。それならば、本当に体が動かなくなってフットボールを楽しめなくなる前にと今回の決断に至った」

 もう一度繰り返すが、トーレスには自らの引退時期を決める資格がある。それは最大限に尊重するしかない。

◆トーレスとサガン鳥栖の関係はどうなる?

 筆者が気になっていたのは、「今後のトーレスとクラブ(サガン鳥栖)との関係がどうなるのか」であった。本来ならシーズン最後まで契約を全うすべきだ、という筋論は確かにある。しかし、この会見には竹原稔社長も同席し、引退と同時にトーレスのアドバイザー就任が発表された。今回の決定が円満なものであり、今後もトーレスとサガン鳥栖が良好な関係を維持することが明らかとなったわけだ。

 会見場に足を運ぶと、受付で案内が渡された。その中に気になる文言があった。

「質疑応答は“日本語”もしくは“英語”にてお願いします」

 フェルナンド・トーレスの国籍はスペインではなかったのか? トーレスはイングランドでのプレー期間が長く、英語を話せるのはよく知っているが、スペイン人にスペイン語で質問して何が悪いのか。それでも、彼は実際に全てのやりとりを英語でこなしてみせた。

 質疑応答の時間となり、筆者も手をあげ、スペイン語で問いかけた。

「フェルナンド、スペイン語で質問してもいいですか?それとも英語にしますか?」

 最初は「どちらでも」と言っていたが、やはり母国語のほうが話しやすいのだろう。「ではスペイン語で」と言ってくれた。

「今シーズン、サガン鳥栖はJ1で生き残らなければなりません。今後残留に向けてカギとなる選手、キャプテンとして引っ張っていける選手は誰ですか?」

 現実問題として、サガン鳥栖は今シーズン開幕からずっと降格圏から抜け出せていない。本来なら昨年の横浜Fマリノス戦のように、トーレス本人が残留確定ゴールを決めるのが望ましい。しかしそれが叶わなくなった今、彼は誰に期待しているのか。

◆やるべきことは、「チームのために全員がまとまること」

 もし誰もスペイン語がわからないなら筆者自身がもう一度日本語で同じ内容を繰り返すつもりだったが、その必要はなかった。司会者の隣から一人出てきて、訳してくれた。

 では彼の答えを逐語訳しよう。

「私たちには昨年も同じ経験がありました。チームが(降格の)危機的状況にあるときに、チーム全体でまとまって戦うことが強さだと学びました。サガン鳥栖はチームで団結することが強さを生み出すと知ることが必要なクラブです。選手が個人的に戦うのではありません。確かに昨年は私が主将としての責任を負い、私たちは降格圏脱出という目標を達成できました。今年の私に同じ責任はありませんが、やるべきことは昨年と変わりません。大切なことは、このカテゴリー(J1)に残るためチームとしての団結を維持すること、チームとして機能すること、チームとして考えること、チームのために全員がまとまることです」

 それよりも筆者が驚愕したのはこの通訳氏である。注意書きに「日本語」か「英語」で、と強調しており、実際にスペイン人の記者も英語で質問しており、スペイン語の応答は想定していなかったはずだ。にもかかわらず、即興で完璧な通訳をしてみせた。只者ではない。

 あとで聞いてみると、彼はアルゼンチン居住経験があるDAZNの社員だった。今回の会見もDAZNの独占配信で、言うまでもなくJリーグにトーレスはもちろん、ポドルスキやイニエスタ、ビジャといった選手が続々来日したのもDAZNマネーのおかげである。そして社員にもこのような優秀な人材を抱えていることが明らかになった。

 さすがである。Jリーグに限らず、日本のスポーツ界は、今後絶対にDAZNを手放してはならない。

◆同僚の現役サガン選手が見たトーレスの「プロフェッショナリズム」

 サガン鳥栖の現役選手の中に筆者の友人が一人いる。「会見に行ってきたよ」と彼に伝えると、次のようなメッセージが返ってきた。

「トーレス引退は一ファンとしても、仲間としても悲しいですが…(中略)プロフェッショナルとしての振る舞いは本当に素晴らしいの一言に尽きます」

 本音を言うと、筆者としては先ほどのやりとりで誰か選手の個人名を言わせたかった。彼より若い選手がこういう場で名前を出してもらえれば、今後の支えになり、奮起させられるではないか。しかしトーレスは筆者の考えを瞬時に読み切ったのか、個人名はあげなかった。

 そのことを彼に伝えると、こう答えた。

「色々なところへの配慮がみれる彼らしさが出た回答だったかとは思いますね」

 彼の言う通り、会見全体を通して、フェルナンド・トーレスのプロフェッショナリズム、気配り、知性の高さは徹底していた。最後に、筆者の友人かつトーレスのチームメイトでもある男・藤田優人の言葉をもって本稿を締めくくることとする。

「トーレスと共にプレーできる残り二か月の時間を大切にしたいです」

【タカ大丸】

 ジャーナリスト、TVリポーター、英語同時通訳・スペイン語通訳者。ニューヨーク州立大学ポツダム校とテル・アヴィヴ大学で政治学を専攻。’10年10月のチリ鉱山落盤事故作業員救出の際にはスペイン語通訳として民放各局から依頼が殺到。2015年3月発売の『ジョコビッチの生まれ変わる食事』は15万部を突破し、現在新装版が発売。最新の訳書に「ナダル・ノート すべては訓練次第」(東邦出版)。10月に初の単著『貧困脱出マニュアル』(飛鳥新社)を上梓。 雑誌「月刊VOICE」「プレジデント」などで執筆するほか、テレビ朝日「たけしのTVタックル」「たけしの超常現象Xファイル」TBS「水曜日のダウンタウン」などテレビ出演も多数。

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