元東電・賠償担当者からみた、山本太郎氏らに向けられた「放射脳」という“風評被害”

HARBOR BUSINESS Online / 2019年7月23日 8時33分

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Contents1 「国が安全だというのに、なぜ風評被害を煽るのか」という批判2 食の安全基準が、原発事故後は「核のゴミ」レベルまで上がった3 山本候補が被曝の問題を訴え続けてきたことの意義4 「放射脳」と言われることを承知のうえで弱者の側に立っている5 福島の街頭演説に見た、山本氏の「対話しよう」という姿勢

◆「国が安全だというのに、なぜ風評被害を煽るのか」という批判

 7月21日に行われた参議院選挙に、れいわ新選組を率いて立候補した山本太郎氏。れいわ新選組には、北朝鮮拉致被害者の蓮池薫氏の兄で、元東京電力社員の蓮池透氏も参加、立候補していたが、特定枠から木村英子氏、舩後靖彦氏の2名が当選。代表の山本太郎氏は落選者史上最高得票を集めながらも落選、次の衆院選を目指すことを明らかにした。

 そんな山本氏だが、一連の選挙活動を通じてネット上などで「放射脳」と言われ、選挙活動の場においても「真面目にやっている被災者がいるのに邪魔をするな。放射能汚染については国が安全だというのに、なぜ風評被害を煽ることを言うのか」という批判の声もあがっていた。

◆食の安全基準が、原発事故後は「核のゴミ」レベルまで上がった

 彼らはなぜ「放射脳」と呼ばれるようになったのだろうか。それは、「食の安全基準」が大いに関連している。

 2011年3月11日の福島第一原発事故発生前において、原発作業時の防護服などに付着した放射性物質については、100ベクレル/Kg以上になれば「低レベル放射性廃棄物」。つまり「核のゴミ」として厳重に管理しなければならなかった。

 しかし、原発事故後は野菜や魚肉類などは100ベクレル/Kgまでが食品流通の基準となり、市場に流通している。簡単に言えば、原発事故前には「核のゴミ」だった基準が現在の食品流通基準になっているということになる。

 加えて大手メディアが「風評被害」「食べて応援」と煽っていた福島第一原発事故後の約1年間は、食品の流通基準は500ベクレル/Kgまでとなっていた。

 つまり、原発事故前に「核のゴミ」として定められていた基準の5倍までの汚染なら“安全”とされ、市場には100ベクレル/Kgを超える食品も多く流通していたことになる。しかし、大手メディアは原発事故による汚染の実害を「風評被害」として喧伝した。そのため、「食べて応援」することが復興支援になると信じた人たちも多くいたのである。

 原発事故前の「核のゴミ」の5倍までの汚染物質を「食べて応援」させようとしてきたことは、冷静に考えれば狂気の沙汰としか思えない。しかし、大手メディアにより創られてしまった“第2の安全神話”に気がつかない人たちからすれば、その危険性を指摘する人こそ“異常”であり、復興支援を妨げたり、デマを流したりする「放射脳」だと揶揄したくなってしまうのだろう。

◆山本候補が被曝の問題を訴え続けてきたことの意義

「放射脳」デマ屋として復興支援を妨げている、という強い印象を持たれている山本氏だが、別の見方をすれば原発利権側にとってはタブーとされる問題に踏み込んできた人物でもある。何度も国政の場で、年間被曝量の観点から健康上の問題がないかを問い続けてきた。そのことの意義は大きい。

 山本氏は、事故前までは年間1mSV(ミリシーベルト)以下に抑えるという目標であったにも関わらず、子どもや妊婦も含めて年間20mSV(ミリシーベルト)までは安全とする政府の判断基準は、見直しが必要ではないかと主張している。

 山本氏と日本政府の主張のどちらが正しいかについては、議論をすれば並行線をたどるものである。しかし、チェルノブイリ原発事故時のウクライナ政府の基準では、年間5mSV以上は強制移住となり、また1~5mSVでは移住の権利が与えられている。それを考慮すれば、確かに日本政府の被曝許容基準はゆるいとしか言いようがない。

 放射性物質を取り込むことによる内部被曝の影響、つまり病気の発症についてはまだわかっていないのが現状だ。因果関係は不明ではあるが、予防原則に反しているとして山本氏が疑義を唱えていることは、電力会社の社員だった筆者から見ても評価に値するものである。

◆「放射脳」と言われることを承知のうえで弱者の側に立っている

 山本氏は、知識を持たない一般大衆から「放射脳」デマ屋と批判されることを承知しながらも行動を続けてきているように見える。日本のゆるい基準や放射能汚染の実害に怯えて、自力避難した原発事故被災者たち。彼らと接することで、不条理に気がついた者として弱者の声を代弁していると考えられる。

 何をもって「安全」とするかが不明瞭でダブルスタンダードとしか思えない安全基準のなかで「原発周辺住民が本当に、健康上何も影響を受けずに暮らせるのか」ということを、信念を持って問い続けてきたという姿勢が山本氏には伺える。そのことも、異常に被曝を気にしすぎると言われ「放射脳」とバカにされる人たちから、熱い支持を得られる要因であろう。

◆福島の街頭演説に見た、山本氏の「対話しよう」という姿勢

 また、れいわ新選組に参加した蓮池透氏も、原発事故による被害者の方々に謝罪をするなど真摯に向き合い、温厚でありながら鋭い指摘をするため、被害者からの信頼が厚い。反原発運動のなかには、己の正義感や虚栄心を満たすために被害者や関係者を利用する者もいる。

 山本氏はそうしたニセ者には声をかけず、想いや人柄がしっかりしている蓮池氏に声をかけるあたりは、虚栄心に囚われた反原発運動家に利用されそうになったことのある筆者からすると、流石としか言いようがない。山本氏は、単に熱弁をふるうだけの人物ではなく、真贋を見極める力を持っていると思われる。

 7月18日、山本氏と蓮池氏が福島駅東口で街頭演説を行った際、「福島の風評被害を煽るな」として山本氏を敵対視する聴衆がいた。山本氏はその声にも怒ることなく、その言い分を聞きつつ対話し、ていねいに説明をしようとしていた。

 山本氏は「風評被害を煽るのをやめろ」と言ってくる人たちを否定しない。彼らもまた被害者であり、苦しんでいるということを知っているからだ。筆者は山本氏のこのような態度を見て、「放射脳」という呼び方こそ山本氏への“風評被害”なのではないかと思った。

 利害関係を最優先して堕落した日本社会を変えるには、時には「デマ屋」だと勘違いされても、本質を問う気概のある姿勢を持ち続けることが必要となる。勘違いされても他者のために信念を貫く彼らの今後に期待したい。

<文/一井唯史>

【一井唯史】

元東京電力社員。上智大学卒業後、2003年に東京電力へ入社。2010年、著しい業務改善の実績が認められ、社長表彰優良賞を受ける。原発事故後は、賠償業務への第一陣として福島第一原子力事故の賠償業務に従事。法人関係の賠償協議部門、賠償システム関係を経て、法人賠償部門の総括業務で指揮を執るも、過重労働によりうつ病を発症。労災問題を隠そうとする東京電力と対峙し、自力で労災申請を行うも東京電力より解雇される

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