森友学園報道のスクープ報道で安倍政権に忖度!? NHKを退職した記者が語る「報道の危機」

HARBOR BUSINESS Online / 2019年8月6日 8時32分

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Contents1 報道局長が介入してきたNHKの森友報道2 報道局長賞の受賞と同時期に記者職から外され、NHKを退職3 森友問題はまだ何も解決していない4 プロの記者の仕事への「信頼」を取り戻したい5 「誰にでも一分の理はある」。メディアが伝える籠池氏の姿への違和感6 各テレビ局の上層部は、報道人としての魂を失っている7 NHKを変えるのは「視聴者のご意見」

◆報道局長が介入してきたNHKの森友報道

「日本の報道は、危機的状況にあります」

 NHKの報道記者として、森友学園問題のスクープを連発した相澤冬樹氏はこう語る。相澤氏はNHK大阪放送局で司法キャップなどを務め、昨年8月に退職した。

 相澤氏は「森友学園に売却された国有地だけが価格を開示されない」というニュースの原稿を書く際、「この土地に建つ小学校の名誉校長に、安倍昭恵首相夫人が就任している」という内容も冒頭に書いたが、デスクの判断でこの部分を削られてしまう。

 そしてこのニュースも、その後の「国有地払い下げに際して、8億円もの大幅な値引きがされていた」というニュースも、関西圏だけでしか放送されなかった。

「その後も、私が関わったNHKの森友報道では、『クローズアップ現代』や『ニュース7』などの番組で、人事権を振りかざした露骨な圧力がありました。全国のNHK報道部門のトップである報道局長が介入してきたのです。安倍官邸に忖度したのだと思います」

 2017年6月には「近畿財務局が国有地の売却前に、森友学園が出せる具体的な金額を聞き出し、実際にその金額以下に値引きして売っている」という情報を入手。相澤氏は取材を進めて確証を得たが、一向に報道される気配はない。「報道局長を説得するのが難しい」のだという。

 そこで相澤氏は「大阪地検特捜部もこの情報を把握して捜査している」という情報を付け加え、7月26日の『ニュース7』でやっと報道することができた。「近畿財務局が森友学園の都合に合わせて価格を決めていた」という、背任行為を強くうかがわせる大スクープだ。

◆報道局長賞の受賞と同時期に記者職から外され、NHKを退職

「そのニュースの放送から3時間ほどたってから、激怒した小池英夫報道局長が、私の上司である大阪のA報道部長の携帯に電話をかけてきたんです。私はたまたまA部長の目の前にいました。『私は聞いていない』『なぜ出したんだ』と、私にも聞こえるくらいの大声で怒鳴られていました。

 社会部長が説明したはずだから、聞いていないはずはない。きっと社会部長はニュースを通すため、わざと重要性がわからないように説明したのでしょう。それで、報道局長は『そんな重要なニュースだとは聞いていない』と怒っていたのだと思われます。

 電話を切った後、『あなたの将来はないと思え、と言われちゃいましたよ』とA部長は言いました。しかし私は『それは私のことだろうな……』と思いました。

 もうひとつ、この時におかしいなと感じたことがあります。それは、報道局長が電話をしてきたのが、ニュースから3時間ほどたっていたことです。もしもニュースを見て激怒したのなら、ニュースが終わった直後に電話をしてくるはずですよね。

 ではこの3時間のタイムラグは何なのか? おそらく自分でニュースを見て激怒したのではなく、ニュースを見た“他の誰か”が激怒して、報道局長に何かを言ってきた。報道局長はそれを受けて私の上司に電話をしてきたから、時間がかかったんでしょう。

 では、“他の誰か”とは誰でしょう? NHK内部の人ではないでしょうね。報道局長は報道部門のトップですし。小池報道局長が安倍官邸の人たちと近いことは、よく知られています。そこから圧力があったんだろうなあと私は推測しています」

 相澤氏は森友事件に関するスクープ報道でNHK報道局長賞を受賞。それと同時期に、社内の人事異動で記者職から外されて「考査部」に移されることになる。

「私はNHKで31年間、記者を続けてきました。これからも生涯、記者でいたいと思っていました。しかも森友事件の取材の真っ最中に、担当していた記者を外すというのは信じられません。報道局長賞の受賞も同時期でした。

 民主党政権やその前の自民党政権でも“政権の意向”というのは感じましたが、安倍政権になってからは露骨に政権の意向を忖度するようになりました。もうここにはいられないなと思い、退職しました」

◆森友問題はまだ何も解決していない

 そして現在は『大阪日日新聞』を発行する新日本海新聞社の記者として、森友問題の取材を続けている。

「まだ森友問題は何も解決していません。何のしがらみもないこの職場で、私は取材を続けます」

 それでも相澤氏は「NHKに恨みなどはまったくありません」と語る。「組織とはそういうもの」と、冷めた見方をしているようだ。

「NHKの現場の記者の多くは真面目で、腑抜けた上層部とはまったく違う。NHKには、優秀で気骨のある記者やディレクター、カメラマン、職員がたくさんいるんです。私は、NHKを今でも愛しています。

 今、NHKの実権を握っている上層部の人々は、NHKを愛していない。私のほうがずっとNHKを愛していますよ。彼らは、自分たちの時代が安泰であれば、後はどうでもいいと思っている。はっきり言って、上があかんのです。上を総取っ替えしないと。

 私は、受信料で成り立つ公共放送がこれからもあってほしいし、あったほうがいいと思っています。しかし、こんな放送をやっていたら視聴者にそっぽを向かれてしまう。今回の参院選で『NHKから国民を守る党』が一定の支持を受けて議席を確保したのも、NHKの放送に不満を持つ人が増えて、信頼がどんどん薄れていっていることの表れだと思います」

◆プロの記者の仕事への「信頼」を取り戻したい

 相澤氏は、一連の森友事件報道の舞台裏を綴った『安倍官邸vs.NHK』(文藝春秋)を昨年12月に上梓した。森友報道がどのように歪められていったのかを詳細に説明すると同時に、相澤氏(と取材チームの面々)がどのようにして取材対象との信頼関係をつくっていったのか、放送段階で歪められないようにと局内で手を尽くす姿なども描かれている。

「そこはかなり意識して書きました。自分の取材手法を晒したら、記者という仕事に興味を持ってもらえるんじゃないかと。だからあえて自分が失敗した話も書いています。若い記者や、これから記者を目指す人にも読んでほしい。

 現在、ネット上の根拠のない情報のほうが信じられてしまい、テレビや新聞、雑誌の情報の方がフェイクだと言われるようになってきました。これに対してはメディア側の責任も大きい。『プロの記者の仕事への「信頼」を取り戻したい』という思いもあったのです」

◆「誰にでも一分の理はある」。メディアが伝える籠池氏の姿への違和感

 本書では、NHK局内での会話や籠池泰典・森友学園前理事長との面談などが話し口調で再現され、まるで読者もその現場にいるような臨場感を感じることができる。

「発言はなるべく忠実に再現するようにしています。例えば、籠池さんについては今も取材して書いていますけれども、他のマスコミが報道する内容と同じようなものを伝えても意味がないと思っているんです。

 人間って、いろいろな側面があるじゃないですか。籠池さんも、テレビで見るだけでは『特異な思想を持ち、奇抜な行動をとるインチキ臭い人物』といったイメージを持たれがちです。しかし、それは一面的なものにすぎない。

 実際に会うと、教養人であったり、熱心な教育者だったりといった多面的な部分が見えてきます。非常におもしろい人だなと。籠池さんの言い分をすべて正しいと考えているわけではありませんが、私は『誰にでも一分の理はある』と思っています。

 取材対象をどこまで愛せるか、取材対象に愛されるか。そして愛し愛される関係になった時に、本当のことをしゃべってもらえる。そこからどれだけ本音や事実を引き出せるかが、事件解明の大きな手がかかりになる。最近、私も本にサインを求められるようになってきて、そこには『取材は愛』と書き添えているんです(笑)」

◆各テレビ局の上層部は、報道人としての魂を失っている

 相澤氏は「今のNHKは私がいたころよりも、もっとひどくなっています」と見ている。

「政権による放送への圧力・介入どころか、NHKの側からヨイショをしにいっている。これまでは絶対にやってこなかったことをやっています。安倍首相に食い込んでいると評判の岩田明子さんは、首相の代弁者かのようになっています」

 さらに「NHKだけでなく、各テレビ局の上層部は報道人としての魂を失っている」とも指摘する。

「安倍政権は、非常にマスコミ操作がうまい政権です。これはNHKだけでなく民放にもいえることですが、各局の上層部は政権とつながっています。本来であれば、官邸からの介入があっても『そんなことはできない』と、断固拒否できる立場にあります。しかし、それをせずに言いなりになったり、圧力もないのに忖度したり。

 しかしこれを『安倍官邸が悪い』のかというと……。まあ『良い』とは言いませんけれども、自分たちに都合のいい放送をしてほしいと働きかけるのは、ある意味当然のこと。権力が何を言ってこようと、不当な介入だと思ったらつっぱねるべきなのに、それができなくなっている。だから支配されてしまう。これは報道機関側の問題です。NHKに限ったことではなく、民放も新聞社も含めて、日本の報道機関全体の危機であると考えています」

◆NHKを変えるのは「視聴者のご意見」

 安倍政権に忖度するどころか、介入まで許してしまっているNHK。どうにかこの状況を打開する方法はあるのだろうか?

「ひとつ影響力があるとすれば、『視聴者のご意見』です。森友問題も、私が大阪放送局で伝えたニュースを『なぜ全国に伝えないのか』という視聴者からのお叱りを受けてから、全国放送されるようになりました。

 そういう意味では、スポンサーの広告料ではなく受信料で成り立っているNHKは、民放よりは視聴者の声を受けやすいのです。視聴者の目から見て『これはおかしい』というものにはぜひ声を上げてほしいと思います。

 一方でNHKは、いいニュース、いい番組もたくさん出しています。ですから、苦情を言う際にできれば『これはよかった』というお褒めの言葉もかけてください。

 それは担当した記者やディレクターの励みになりますし、局の上層部にも『こういう内容のニュースや番組が視聴者から支持される』というメッセージになります。ぜひ視聴者の声で、NHKの放送を少しでもいい方向に変えてほしいと思います」

【相澤冬樹氏】

大阪日日新聞論説委員・記者。’87年にNHKに入局、大阪放送局の記者として森友報道に関するスクープを連発。’18年にNHKを退職。著書に『安倍官邸vs.NHK』(文藝春秋)

取材・文/北村土龍

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