群馬県の珍スポット「アダルト保育園」から考える、高齢者がナゾの芸術に目覚めるワケ

HARBOR BUSINESS Online / 2019年8月22日 15時30分

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Contents1 群馬県の山奥に現れる“アダルト保育園”とは一体2 発祥は意外にも「地域のため」3 「壇蜜の部屋」は健康の秘訣4 「老人になって目立ちたがりになった」その理由

◆群馬県の山奥に現れる“アダルト保育園”とは一体

 道行く先で「なんだあれは」と口にしてしまうような怪しいオーラを放つ場所に出くわしたことはないだろうか。それに恐怖を覚えるか、それとも興味を覚えるかでいえば、私は後者である。

 群馬県甘楽郡(かんらぐん)には、通称「アダルト保育園」と呼ばれる知る人ぞ知る場所がある。のどかな田舎の風景に、突然奇抜なビジュアルが目に飛び込んでくるのがそれだ。看板のペンキ文字とちりばめられた装飾品の情報量で、頭が混乱してくる。

 敷地は公園くらいの広さがあり、薄汚れた家電や骨董品などで作られた作品があった。管理人らしき人はおらず、草木をゆらす静かな風の音が謎オブジェの存在感を際立たせる。

 このような場所はいわゆる珍スポットと呼ばれているが、近年、ここにあるような創作物がアートとして注目される一面もある。主流から外れた独自の芸術活動は、アウトサイダー・アートと呼ばれ、ここアダルト保育園はアウトサイダー・キュレーターである櫛野展正(くしののぶまさ)氏にも紹介されている。せっかくなのでこのアダルト保育園を作ったアウトサイダー・アーティストに会ってみたい。

 はす向かいにあった同じような装飾の民家に、その人はいた。家主の中條狭槌さん(79歳)だ。このアダルト保育園を一人でもくもくと作っているらしい。ハツラツと話す姿からはもうすぐ傘寿という年齢を感じさせない。

 こんなエキセントリックなものを作っているもんだから、どんな人かと少々身構えていたが、商店街にいそうな気のいいおじいさんといった印象だ。

◆発祥は意外にも「地域のため」

 この場所は何なのか尋ねると「地域の集会場として使ってたんだよ」と教えてくれた。15年ほど前に町の集会場が使えなくなってしまい、地域の仲間ために中條さんがガレージを改良して居場所を作ったそうだ。

「前は敷地のすぐそこに自販機があってね。飲み物を買ってガレージの中で近所の仲間と『若い女抱きたいな~』『でも俺のモノがだめだな~』なんて談笑してたわけ」

 そのうち仲間の土建業者が解体で出た不用品を持ってくるようになり、それを飾っていると5年ほど前から現在のようなアート空間が出来上がった。廃品アートには、解体した保育園の遊具を利用したものもあるため「アダルト保育園」と名付けたらしい。

「仕事をしてたときは金はあっても時間がなかった。でも引退しちゃうと時間ができても金はかけられない。だから廃品で作るアートは都合がよかったんだ」

 しかし、つい最近茶飲み仲間も解散してしまい、現在は集会場というよりは自由に廃品アートを鑑賞できる場として開放しているようだ。アダルト保育園は、意外にも地域の人と持ちつ持たれつの関係で生まれた産物だった。

◆「壇蜜の部屋」は健康の秘訣

 廃品アートのほかには、ちょっとエッチなコーナーもある。物置くらいの小屋に壇蜜のグラビアが飾られた「壇蜜の部屋」は、中條さんの一番のお気に入り。赤い照明が妖艶なムードを醸し出している。

「体とか脳の働きは年齢に逆らえないけどさ、唯一逆らうことができるのは気持ち。こういうのを男が見るとワクワクした気持ちになって病気を防げる……と思い込んでいるわけ(笑)」

 筆者が「いつかテレビの取材で壇蜜が来てくれるかもしれないですね?」と振ってみると、中條さんは頭の中で妄想したのか「フフフ」と口元を緩めて、その姿にこちらも笑ってしまった。

 オープンにスケベ心を晒す中條さんだが、36歳のときに結婚した妻と二人で暮らしている。アダルト保育園については「女房は関心がないようで、文句も言わなければ褒めもしない」らしい。奥さまの本音が気になるところだ。

 中には、壁一面に羽子板が飾られた一角もあった。

「田舎は義理人情が熱いから、親戚にこどもができたら武者人形やひな人形をいろいろ贈る。でも子どもが成長しちゃうと家にあっても仕方がないから処分してくれっていっぱい集まってくるわけよ。この羽子板なんか壁に敷き詰めるときれいだよ」

 外壁には、ダジャレがびっしりと書き込まれた黄色い看板も。ダジャレは、歌謡曲のタイトルを中條さんがもじったのだという。「『命やらない』は瀬川瑛子の『命くれない』であり、『墓場だよ おとっつぁん』は美空ひばりの『波止場だよ おとっつぁん』であり……。若いとわかんないかもしれないけど(笑)」

 見ごたえのある作品の数々だが、コンセプトやこだわりを聞いてみても「ない」ときっぱり。一方で、よりよく見せるために定期的に模様替えや配置換えを行っているらしい。

「見てくれる人が楽しんでくれればいいんだよ」

 その思いはコンセプトやこだわりを超越しているのだろう。

◆「老人になって目立ちたがりになった」その理由

 高齢になって芸術活動に目覚める人は少なくない。中條さんもその一人だ。単純に暇ができたからというのも当然あると思うが、それだけではない気がする。中條さんは、自身の性格についてこう語っていた。

「老人になってから目立ちたがりになったんだ。昔は無口で消極的でな。結婚したけど晩婚だったし、それまで30人近く毎年のようにフラれて。年を取って“変身”したんだよ。いろんな本を読んだり、大勢の前で話せるように訓練したりして、自信がついたからだろうな」

 年を取って目立ちたがりになったことを、中條さんは“変身”と言っていたが、私は別の言葉を思い浮かべた。これは“回帰”なのではないか、と。

 というのは、中條さんの話や創作物を振り返ると、純粋な子どものように思えてきたからだ。「年を取ると子どもに返る」という一説を思い出すと、合点がいった。

 子どもが壁に落書きをするような無邪気でまっすぐな創作意欲。ゴミをゴミとさせない大胆で自由な発想。そんな童心を取り戻して、人に自分が作ったものを見てもらいたくなったのではないだろうか。そして、そこに80年近い人生の人間臭さが融合されると、一見不可解だけど強烈なパワーを放つ化学反応が起きるのだ。

 そう考えると、奥さまが「文句も言わなければ褒めもしない」というのもわかる気がしてきた。子どもがやることだから文句は言わない、だけど大人がやることだから褒めもしない。

 なんだか急に“アダルト保育園”というネーミングがしっくりきた。

【ツマミ具依】

企画や体験レポートを好むフリーライター。週1で歌舞伎町のバーに在籍。

Twitter ID:@tsumami_gui_

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