店が増えても買い物難民!?「食強化」に挑むドラッグストア、「業態拡大」のその先にあるものは

HARBOR BUSINESS Online / 2019年8月29日 8時31分

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幹線道路沿いに「クスリのアオキ」「ゲンキーフード&ドラッグ」「スギ薬局」の3店が並んで出店する(岐阜県)。 とくに郊外型ドラッグストア激戦区の「九州地方」「中部地方」では「あえてライバル店の前に出店」するという光景が各地でみられる。

Contents1 ドラッグストア、各社で異なる販売品目と業態拡大の方向性2 急成長する郊外型ドラッグストア、成長のカギは「食品」3 食品の格安販売で集客する郊外型ドラッグストアの戦略4 郊外型ドラッグストアは「パイの奪い合い」…店は増えても「買い物難民」!?5 「業態拡大」続くドラッグストア――薄まる「スーパー」との垣根6 業態拡大を続けるドラッグストア

◆ドラッグストア、各社で異なる販売品目と業態拡大の方向性

 ドラッグストアの道を挟んでドラッグストア、そしてその隣にもドラッグストア…といっても、ここは大都市の駅前などではなく地方都市の郊外。しかも規模が小さな都心型のドラッグストアとは異なり、それぞれの店舗はかなり大型だ。

 ドラッグストア業界上位各社の売上推移をみていくと、業界トップのツルハHD(以下、ツルハ)、2位のウエルシアHD(以下、ウエルシア)のようにM&Aにより成長を遂げた「イオン系ドラッグストア」、そして3位のコスモス薬品(以下、コスモス)など「郊外型が中心のドラッグストア」が大きく売り上げを伸ばしている一方で、5位のマツモトキヨシHD(以下、マツキヨ)など「都心型が中心のドラッグストア」の売上が頭打ちになりつつあることは以前の記事で述べた通りだ。

 ひとことにドラッグストアといっても、「都心型」と「郊外型」では、その店舗規模や品揃えにも大きな差が出てくる。今回は、ドラッグストア大手各社の「販売品目」、そして「業態拡大」に注目する。

◆急成長する郊外型ドラッグストア、成長のカギは「食品」

 以下に、ドラッグストア大手各社の「薬以外」の売上品目比率を示す。なお、業界4位であり近年「ダイレックス」業態など郊外型大型店に力を入れるサンドラッグは品目別の売上高を出していないため、ここではコスモスと同様に地方(福井県)に本部を置き小商圏型の郊外型店舗をドミナント展開するという戦略で成長を遂げた「ゲンキー」、そして栃木県に本部を置く北関東の雄「カワチ薬品」(以下、カワチ)を「郊外型」の代表例として示す。

 これを見ると、都心型中心の「マツキヨ」、「スギHD」(以下、スギ薬局)、「ココカラファイン」(以下、ココカラ)の3社は「化粧品」、郊外型中心の「コスモス」「カワチ」「ゲンキー」の3社は「食品」に強みを持つことが分かる。また、現在経営統合の協議を進めているマツキヨとココカラの両社はとくに売上品目比率が似通っているといえる。

 もちろん、マツキヨなど「都心型中心」にカテゴライズしたドラッグストアが郊外に出店する例も少なくない。しかし、都心型中心のドラッグストアでは、郊外に進出する際にはスーパーマーケットや近隣型ショッピングセンターの準核テナントとして出店し、食品は「他企業に任せる」ことが比較的多いのに対し、郊外型中心のドラッグストアは「単独出店」が殆どだ。「郊外型」で急成長しているサンドラッグも、郊外大型店のダイレックス業態が出店できないエリアや従来型の都心店においてはスーパー内や商店街内に出店する例が多くみられる。

 また、イオングループの2社(ツルハとウエルシア)は「バランス型」だ。両社は郊外型店舗が比較的多いものの、イオングループのスーパーマーケットと共同で出店している事例も多いことが「食品が突出」という結果にはならなかった一因であろう。

◆食品の格安販売で集客する郊外型ドラッグストアの戦略

 急成長を遂げる郊外型ドラッグストア各社は、いずれも食品を格安で販売することで集客し、利益率の高いドラッグ部門で利益を上げる戦略を採っている。とくに成長著しい各社は地方発祥の企業が多く、創業初期から小商圏にドミナント展開して利益を上げる仕組みができているからこその成長であるともいえる。

 ちなみに、マツキヨはかつて千葉県郊外を中心に食品ス-パーを展開しており「食品に強いドラッグストア」となりうる素地があったものの、好調であったドラッグストア事業に専念するため2006年に撤退・売却したという過去がある。

◆郊外型ドラッグストアは「パイの奪い合い」…店は増えても「買い物難民」!?

 しかし、こうした郊外型ドラッグストアの「食品強化戦略」による急激な成長は市場のひずみを生み、新たな問題も起きている。

 九州のとある地区。とくに小商圏に展開するドラッグストアが多い九州では、この小さな町にも複数のドラッグストアが存在する。しかし現在、この地区にはスーパーマーケットは存在しない。かつてはスーパーがあったものの、近隣に複数のドラッグストアが出店。価格競争に勝てず閉店してしまったという。

 食品も薬も安く売っているドラッグストアが出店なら便利になったのではないか――と思い客に話を聞くと、どうやら一筋縄ではいかないらしい。ある客は「お菓子とかを買うには安いけど料理する人には不便になったんやないかな」とポツリ。そう、多くのドラッグストアでは生鮮品は野菜など一部しか販売されていないため、「買い物難民問題」が生まれているのだ。

 かつては「ドラッグストア同士の競合」といえば駅チカの商店街などで良く見られる現象であったが、近年は地方郊外(とくに九州地方・中部地方)でも「食品を販売する郊外型ドラッグストア」の急拡大による小さなパイの食い合いが頻繁に起きており、ドラッグストアがスーパーマーケットを潰し、そして更にドラッグストア同士による熾烈なパイの奪い合い、というよりもあえてライバル社の近隣に出店するという「潰し合い」ともいうべき光景すら見られる。

 取材に応じた九州のある中堅ドラッグストア本社に勤務する男性は「どこかが店を出したら儲かると思って必ず○○(大手)とか○○(地場大手)が近くに出る。採算取れんなるしそのうち全部潰れる」と話す。

 中小ドラッグストアが大手のライバルに対抗して食品を強化するにしても、食品中心のドラッグストアは利益率が低く、例えば都心型中心で化粧品に強みを持つマツキヨの利益率はここ数年30パーセント前後で推移しているのに対し、郊外型中心で食品に強みを持つコスモスは約20パーセント前後。もちろん、本格的に食品を扱うとなればそれなりのノウハウも必要となる。

 そして、こうした熾烈な競争こそが、ライバルであったドラッグストア同士が経営統合する動きにも繋がっている。

◆「業態拡大」続くドラッグストア――薄まる「スーパー」との垣根

 一方で、そうしたなか少し異なった動きを見せているドラッグストアもある。その1つが、現在業界第4位となっている「サンドラッグ」だ。

 サンドラッグは2009年に佐賀県の家電量販店を祖とするディスカウントストア「ダイレックス」を傘下に収め、その後は食品や生活雑貨の取り扱いを拡充。やがて、西日本を中心にディスカウントストア+ドラッグストアに新たに生鮮食品を導入した「ダイレックス」屋号の新業態店舗の出店もおこなうようになった(一部店舗は生鮮なし)。店によっては売場面積3,000~4,000平方メートルほどの規模のところもあり、もはや「ドラッグストア」とは言えない雰囲気だ。2018年度には、サンドラッグの全売上(連結)の4割弱をこのダイレックスが占めている。

 さらに、ダイレックスは新業態店舗を展開するに当たって大型空き店舗への居抜き出店を積極的に活用。ディスカウントストアとドラッグストアのノウハウを合わせた価格競争力を武器に、とくにここ数年はドラッグストア等との競争により閉店したスーパーの跡や、核テナントが撤退した中心市街地の核店舗や地域主導型商業施設に新たな核として「総合スーパーに近い業態」で出店する例が相次いでいる。つまり、ドラッグストアが業態拡大した結果、その店舗が「スーパーマーケット(大型空き店舗)を、そして買い物難民を救済する側」になっているのだ。

 同社は2018年には群馬県のショッピングセンターに出店していたセブンアイ系スーパー跡にも核テナントとして出店しており、今後は東日本でも「ダイレックス」の大型店を見かける機会が増えるかも知れない。

 このほか、中部地方を中心に展開する「ゲンキー」(本社:福井県坂井市)も2017年より青果・精肉売場を充実させた「フード&ドラッグ業態」の展開を開始。2019年現在は半分以上の店舗に青果・精肉売場(鮮魚は干物など加工品のみ)を備えているほか、大型店では菓子などの品揃えも拡充されており、「ドラッグストア」というよりも「薬も買えるスーパーマーケット」というべき商品構成へと生まれ変わっている。また、同社のライバルである「クスリのアオキ」(本社:石川県白山市)も一部店舗のみではあるが2012年より青果・精肉・鮮魚の導入を開始。近年は生鮮導入店舗を増やしつつある。

 この両社はともに北陸の地方都市を拠点としており、中山間地域にも多くの店舗を持つため「地区唯一のチェーン店がゲンキーやアオキ」というところもある。そうした地域では、両社の「生鮮食品強化」による買い物難民発生阻止への期待も大きいであろう。

◆業態拡大を続けるドラッグストア

 経営規模のみならず「業態」としても拡大を続けるドラッグストア。

 経済産業省が2014年に「ドラッグストア」の売上統計を開始して僅か5年だが、もはや「ドラッグストア」という業態の定義づけさえも難しいものとなっている。

 元を質せば、かつて日本最大手であったスーパー「ダイエー」も薬局を発祥とし、取り扱い品目を徐々に拡大することで総合スーパーへと成長を遂げたという経緯がある。

 その点では、イオンの傘下となっている現在業界1位・2位の「ツルハ」「ウエルシア」はこれ以上の「業態拡大」が見込めないともいえ、たとえ経営統合が起きない場合であっても数年後には再び「業界1位」が入れ替わっている可能性もあろう。

競争激化するドラッグストア。新時代の覇者となるのは一体どこであろうか。

<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>

【都市商業研究所】

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若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

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