北朝鮮新型ミサイル登場で、「イージス・アショア」配備は本気で考え直す時期に来ている

HARBOR BUSINESS Online / 2019年9月16日 8時33分

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ルーマニアに配備されているイージス・アショア photo by Commander, U.S. Naval Forces Europe-Africa/U.S. 6th Fleet via flickr(Public Domain)

◆萩と秋田を「狙いやすい的」にするイージス・アショア

 前回までに、北朝鮮(DPRK)による新型短距離弾道弾(SRBM)の実験によって明らかとなった日本への影響と、西日本における弾道弾防衛の破綻、とくに萩配備イージス・アショアは射的の的となり、先制奇襲攻撃によって僅か5分前後のうちに蜂の巣にされて無効化されることを指摘してきました。これを「アヒルのお座り」(Sitting Duck)と呼びます。

 これは、日本側の土木利権と合衆国側の四軍それぞれの利権によって、日本では世界に類例なく顕著であり、軍事上、戦略上の意味のない基地が合衆国軍人を危険にさらしている(中国、北朝鮮への事実上の生け贄にしている)問題として顕在化しつつあります*。

<*American Bases in Japan Are Sitting Ducks Tanner Greer, 2019/09/04, Foreign Policy>

 秋田イージス・アショアは、核弾頭MRBM数発で秋田市と共に蒸発しますが、一方で合衆国による核を含む報復攻撃を誘致します。従って北朝鮮にとっては、対ハワイ核攻撃と同じくまさに最後の手段であり、政治的取引材料の性格が強いです。

 萩イージス・アショアの場合は、迎撃がほぼ不可能かつ極めて高い命中精度のSRBMによって、通常弾頭で狙い撃ちできますので、報復核攻撃が発動しうる核と異なり先制奇襲攻撃への政治的ハードルは、たいへんに低いものとなります。しかも日本配備イージス・アショアは、実態が合衆国防衛専用兵器であるにも関わらず、日本人のお金で配備し、自衛隊が運用しますので、例え先制奇襲攻撃で吹き飛ばしても通常弾頭であるならば合衆国による報復の理由になりにくい(合衆国にとり危険な核保有国への報復をする必要がない)という特徴があります。

 北朝鮮はすでに合衆国によって事実上の核保有国と見做されており、合衆国本土に到達する搬送手段(この場合火星14,15号などの大陸間弾道弾(ICBM))の実験も終えています。これにより、合衆国にとって北朝鮮への先制攻撃や報復攻撃の政治的ハードルは、たいへんに高くなっています*。

<*1957年10月4日にR-7ロケットによるスプートニク1号打ち上げによって、ソ連邦のロケット技術の圧倒的な先進性が世界にデモンストレイションされたが、これによってソ連邦による合衆国へのICBM(NATOコードSS-6)による核攻撃能力が示された。これをスプートニクショックと呼び、合衆国による対ソ軍事行動にたいする巨大な政治的障害となった。SS-6は、兵器としては失敗作であり、ICBMとしての実用性はほとんど無く、合衆国もそのことをほぼ正確に把握していたが、強烈な対米抑止力となったことはキューバ危機が実証している。北朝鮮の核、ロケット開発は基本的にこのスプートニクショックの縮小版を目指しており、今のところ成功している>

◆イージス・アショア日本配備の経緯

 さて、日本に地上配備型MDイージス=イージス・アショアを配備するという構想が現れたのは、2017年の3月でした*。このとき私は、全く意味のないミッドコース迎撃システムの後方配備をする理由が全く分かりませんでした。従って、フィジビリティスタディ(可能性調査)の後に、意味無しとして話はなくなると思っていました。それまでは、日本の弾道弾防衛を二段構えから三段構えにするためのTHAAD導入が真剣に議論されていました。

<* 敵ミサイル基地への攻撃能力、自民が保有検討を提言2017/03/29朝日新聞>

 この件について、2017年5月1日の段階で、筆者も以下のようにツイートしています。

”イージスアショアは、全く役に立たないだろうね。合衆国の早期警戒システムは、その陸上の最前線がアラスカで、本土ははるか後方。イージスアショアは、その固定観念に引っ張られた誤った根本的に代物だろ思うよ。ミッドコースディフェンスを、MRBM/IRBM落下領域に展開しても無意味。”2017年5月1日

”後代、イージスアショアは、トンデモ兵器の仲間入りだろう。”2017年5月1日

”探知距離と、反応時間が最大の問題であるBMDミッドコースキルで、迎撃システムを後方に配備するのは根本的に誤っている。イージスアショアの致命的かつ根本的な欠陥。日本本土防空には全く役に立たないだろう。アラスカと合衆国本土の関係ではないのだよ。”2017年5月1日

”欧州でのイージスアショアの配備は、実現するならば、旧東欧、トルコに配備して、ドイツを守るものになるだろう。ロシアの反発や、トルコ、ルーマニア国民の反発でお釈迦になりかねないが。で、これはロシア、中東に対して前方配備なのでミッドコースディフェンスとして理にかなっている。”2017年5月1日

 ところが同年8月17日に「新型」(実際には新規性皆無)と称してイージス・アショアの導入をすると報じられました*。これは2018年度予算概算要求の時期と合致します。そして「金額を明示しない「事項要求」とし、年末までに金額を確定させる」として概算要求**そしてなんと二カ所配備という話まで現れ***、常套手段であるなし崩しの既成事実化がすすみました。

<*陸上配備型イージス導入へ 日米防衛相会談で表明見通し2017/08/17朝日新聞>

<**防衛省、5兆2500億円要求へ 北朝鮮対応、過去最大 来年度予算2017/08/22朝日新聞>

<***陸上イージス、3つの課題 ミサイル対策強化 巨額コスト・迎撃力に限界・周辺国反発も2017/08/28 朝日新聞/”米ロッキード・マーチン社製のイージス・アショアは1基800億円で、2基で1600億円。1基あたり100人程度の要員も必要とされ、巨額の維持コストがかかる”(記事抜粋)。>

 この無意味な兵器に対する安倍自公と防衛官僚の執拗さと、固執から、私は、このイージス・アショア日本配備が日本防衛ではなく、合衆国の国益のためだけが目的であると断定しました。ここに日本の国益は皆無であり、外交もありません。あるのは、安倍晋三氏と取り巻きによる対米利益供与と地位保全(保身)であってまさに最悪の「安倍社交」です。

◆事前に予想し得た「配備場所」

 その前提から米朝関係を検討すると、2016年に数度に上る試射をしたIRBM(準中距離弾道弾)である火星10号(ムスダン)*の実戦配備が進みつつあり、2017年7月4日(合衆国独立記念日)と7月28日には、ICBM(大陸間弾道弾)である火星14号**の試射が成功していました。

<*Musudan – Missile Defense Advocacy Alliance>

<**Hwasong-14/KN-20 – Missile Defense Advocacy Alliance、【北ミサイル】北「ICBM発射成功」 高度2800キロ、40分飛行 EEZ着水、日米韓を牽制2017/07/04産経新聞>

 このほか様々な条件を勘案して、日本配備イージス・アショアは、合衆国防衛、即ち、ハワイ、グァム防衛専用ではないかという疑いをきわめて強くしました。そうであれば、配備場所は自ずと推測できます。

 そして2017/11/16に安倍自公政権は、イージス・アショアを萩市むつみ演習場と秋田市新屋(あらや)演習場に配備することを内示し、地元与党議員への協力を要請していたことが報じられました*。まさに予想通り、市民を合衆国の人身御供として差し出したわけです。さすがに安倍晋三氏の地元である山口県を差し出すとは思ってもいませんでした。

<*陸上イージス配備、秋田市・萩市で調整 政府、陸自演習場に2017/11/16朝日新聞>

 「安倍社交」のためには自らの地元県も合衆国の利益へと生け贄に差し出す。流石に想定外でした。

◆「不沈空母」から、使い捨ての「巨大駆逐艦」へ

 ここまでの推測において私は、ミッドコース迎撃システムが必要とする縦深性を大きく過大評価していましたが、一方で秋田と萩では、最も重要な防衛対象である大阪、名古屋、東京を狙う弾道弾との角速度が非常に大きくなる側方迎撃であることには変わりがなく、弾道弾防衛には最悪の立地であることは変わりありません。その一方で、ハワイ、グァム防衛には絶好の立地であり、合衆国防衛専用兵器であることに変わりはありません。

 そもそも日本はMDイージス艦8隻態勢が完成目前であり、しかもそのすべてが「最新鋭」のMDイージスシステムにアップデート可能で、実際にアップデートが進んでいます。ここに日本防空にとっては、最悪の立地でありかつ、陸上固定基地であるが故に最優先の先制攻撃の対象となるイージスアショアを配備することは、無意味な二重投資でお金の無駄*ですし、そもそもSM-3とPAC-3の守備範囲同士の隙間が放置されてしまいます。そして何より配備先の市民の生命を核攻撃の危険に晒すことになります。

<*当初、一基800億円なので1000億円のTHAADより安いという政府、自民党による触れ込みだったが、二年もたたずに運用費込みで6000億円を超過し、1兆円超えもほぼ確実である。しかも先制核攻撃を誘引するだけで、日本には何の役にも立たない>

 まさに日本は、中曽根康弘氏のいった「不沈空母」から、使い捨ての「巨大駆逐艦」になったわけです。事実、自民党と政府と密接な関係にあるとされる合衆国のCSIS(戦略国際問題研究所)による” Shield of the Pacific: Japan as a Giant Aegis Destroyer, Thomas Karako, CSIS, May 23, 2018” という2018/05/23発表には、そのものズバリ、「日本を太平洋に浮かぶ巨大イージス駆逐艦とし、ハワイ、グァム、西海岸といった弾道弾防御の手薄な地域の防御を鉄壁となす。日本にイージス・アショアを買わせることで、合衆国は10億ドル(1000億円)を節約出来る。」と明記してあります。

「情けない」、「無残だ」という言葉しかありません。

◆日本では、イージス・アショア配備は「アヒルのお座り」

 さて、日本のイージス・アショアは、陸上固定基地であるという致命的弱点から、萩配備は通常弾頭KN-23SRBMによって、せいぜい5分程度で蜂の巣にされ、秋田配備は先制核攻撃により10分以内に蒸発するため、何の役にも立たないことは本連載で1年あまりにわたって再三再四指摘してきたことです。そのような代物に合衆国が自らの将兵を配置するわけがなく、日本の資金で配備し、日本国内に配備し、日本人に運営させるのは当然のことです。

 例え役に立たなくても、千億円台後半から1兆円を超えるお金が合衆国の軍需産業に流れ込みますし、ハワイ、グァム防衛に僅かでも役に立てば棚からぼた餅です。そもそも早期警戒情報が日本から得られれば、SBD(洋上配備弾道弾防衛)などの合衆国防空システムに多少なりとも役には立ちます。あとは日本市民や将兵が吹き飛ばされても蒸発しても何ら問題ありません。これが外交にあらざる「安倍社交」の成果です。対露安倍社交でも、日本はあらゆるものを失う寸前です。

 では欧州配備イージス・アショアはどうなのでしょうか。こちらは合衆国の資金で建設され、合衆国将兵が運営します。理由は、十二分な縦深性にあります。結果、十数分の反応時間とトルコなどに展開する前方展開Xバンドレーダーの助けにより、ミッドコース迎撃とターミナルフェーズ迎撃によって自分自身を守り、想定される欧州旧西側を守ることが可能です。これならば合衆国自らの手で配備、運営する価値があります。

 但し、私にはイランが合衆国や旧西欧諸国を核攻撃する理由が全く分かりません。ロシアが、欧州イージス・アショアを弾道弾防衛に偽装した対露巡航ミサイル基地(INF全廃条約違反)であると批判してきている理由の一つです。

 日本の場合、射点からの距離が近すぎるために反応時間がたいへんに短くなります。むつみ演習場の場合、KN-23に対し手も足も出ず、一方的に蜂の巣にされます。新屋の場合、日本海にMDイージス艦を展開していれば生き残るかもしれませんが、完全に本末転倒です。

 まさにこの縦深性の欠如が、陸上固定基地であるが故の狙い撃ちを確実とし、日本では、MDイージス陸上配備=イージス・アショア配備は「アヒルのお座り」となるわけです。



◆人口密集地に近接した先制核攻撃の的

 さらにこれはとくに秋田市新屋のイージス・アショアで顕著なのですが、人口密集地とあまりにも接近しすぎています。Google Earthの衛星写真で、概ね同縮尺でルーマニア、デベセル基地と陸上自衛隊新屋演習場を比較してみましょう。(※配信先によっては埋め込んだ画像が見られない場合がございますので、その場合は本体サイトでご確認ください)

 ルーマニアのデベセル基地は、広大な農地のど真ん中にあって、人家は小さな集落が2.5〜3km離れた地点に存在します。一方で新屋演習場は、秋田県庁から2.5km程度、住宅街からは500m程度しか離れていません。

 これでは平時における強烈な電波放射による民生活動への悪影響や住民の健康への影響が憂慮されます*。そして何より、北朝鮮にとっての対合衆国核抑止力への最大の障害となりますので、先制奇襲核攻撃の最優先の目標となりますから、秋田市民は考え得る限り最も無残な事になり得ます**。

<*筆者は、電波輻射による人体への影響を殆ど気にしない為、家人から電磁波人間だのビリビリマンとまで言われたが、流石に秋田での位置関係はあり得ないと考えている>

<**筆者は、50kt四発程度の地表、上空爆発を想定している。広島への核攻撃が10〜15ktの上空爆発。もちろん、故障や迎撃による無能力化を想定した数字だが、うち一発でも秋田市は大部分が消滅することになる。とくに地表爆発の場合、残留放射能により復興は不可能となろう>

 いくら自民党員の政治家であっても、このような危険を内包する安倍社交に市民を差し出すことは恥知らずと言うほかありません。

◆結びに向けて

 今回までの16回にかけてイージス・アショアは、単なる安倍社交と合衆国軍産複合体のお金儲けのためだけの代物で、軍事上も外交上も殆ど無意味であり且つ、日本人から千億単位ないし兆単位のお金を搾り取り、その対価として日本が先制核攻撃の対象となる愚劣な代物であると厳しく指摘しました。

 それだけでも酷い代物ですが、日本イージ・スアショア配備は、日本の外交上も致命的な打撃となる恐れがあります。

 次回は、その点を論説した上でひとまずの結びとします。

『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』ミサイル防衛とイージス・アショア16

※なお、本記事は配信先によっては参照先のリンクが機能しない場合もございますので、その場合はHBOL本体サイトにて御覧ください。本サイト欄外には過去15回分のリンクもまとまっております。

<文/牧田寛>

【牧田寛】

Twitter ID:@BB45_Colorado

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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