移住先としても人気のタイ。ただ、食い扶持探しは年々難関に

HARBOR BUSINESS Online / 2019年9月25日 15時30分

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入社に要求されるスキルは年々高くなっているが、タイの会社勤めは日本よりも過ごしやすい環境ではある

◆人気の移住先でもある「タイ」。その現実

 タイは和食店、日本人向けサービスも多く、海外移住初心者に向いている国と言える。そういったこともあって、政治的に不安定な国ではあるものの、毎年日本人は増加傾向にある。

 日本のメディアでもマレーシアと並んでタイを移住候補地に推す傾向が見られる。しかし、的外れな勧め方があるのも事実だ。そこを見誤ると、せっかくの海外移住が失敗に終わってしまう。実際に、タイが好きで仕方がなくて移住してきたものの、3ヶ月も経たずに帰国してしまう人も少なくない。

 特に初心者がタイの首都バンコクに移住を考えた場合に気をつけておきたいことを見ていこう。

◆今のタイは日本より生活費が高い!?

 まず、多くのメディアで紹介される「タイは物価が安い」は予算を検討するにあたり要注意事項だ。

生活様式にもよるけれども、今のバンコクは日本よりも生活費がかかると思うべきだ。確かに家賃は安い。プール付き、守衛常駐の賃貸マンションも4万円前後からある。しかし、このレベルの金額だとバンコクの中心地ではないので、出勤する際やちゃんとした店で食事をする際には交通費が別途かかってくる。日本よりタクシーは安いとはいえ、積み重なればそれなりの金額になるだろう。

 食費も今はかなり高くなった。といっても、もし屋台なら日本よりもずっと低く抑えることはできる。しかし、一般的な日本人には不可能だと思うべきだ。屋台はタイ料理が中心になる。いくらタイ料理好きでも、毎日は案外厳しい。タイ料理は味が濃く、和食のようにバランスが取りにくい。タイ人のように生まれてからずっとタイ料理ならともかく、和食に慣れた日本人の身体がタイ料理に合わせられない。

 無理にでも屋台を貫こうにも人とのつき合いは避けられない。バンコクは国際都市なので、世界各国の本格料理も楽しめる。そのため、例え日本人だけでなく、タイ人との交際でも和食や欧米料理などのそれなりに高いレストランに行くことになる。

 昨今は日本のラーメン店でも1杯が1000円近くするし、居酒屋はいわゆる割り勘にしてもひとり5000円以上はかかってくる。日本でもタイ料理が高いように、タイで和食は高級料理の扱いになり、日本よりも高い。

 その安い屋台にしても、2000年初頭はひと皿が25バーツ程度だったものが、現在は倍の50バーツ近くになりつつある。全体的にバンコクは物価が上がっているので、決して低コストで移住できる場所ではなくなってきているのだ。

◆さらにネックはビザと食い扶持の確保

 移住コストが高いバンコクではあるが、決して移住先として不適格というわけではない。しっかりとした下調べと計画を持ってすれば、バンコク移住は日本の生活より豊かになる見込みは高い。タイ人は南国の人らしく明るく、その雰囲気で生活することは、我々日本人にも明るい影響を与えてくれるようだ。

 ただ、筆者が初めてタイに来た20年前とは事情が少し変わってきているようで、あまり移住予算が取れない、企業に就職を希望する移住者は注意が必要だ。現地採用者(以下「現採」)という立場で働く方法があり、毎月の収入が確保できること、それから最も大切な滞在ビザと労働許可証が得られる。

 ただ、タイは長期滞在におけるビザの確保が難しくなっている。タイ人を配偶者に持つことで長期滞在のビザを得ることはできるが、日本人とタイ人の国際結婚は案外に少ない。多くの人が起業して法人名義でビザと労働許可証を申請するか、就職して現採となりそれらを確保するかしかない。正直言えば、金銭は今の時代ネットでいくらでも稼げる。逮捕覚悟で不法就労をする人もいるなど、食い扶持はどうにかなる。しかし、ビザだけはタイ政府が公務員の賄賂受け取りに厳しくなっている今、正攻法で取得するしかなく、外国人はみなビザに苦労している。

 起業するにも資本金や運転資金、店の内装などに数百万から数千万円はかかる。

 そうなると、資金がない人は現採を検討することになる。バンコクには現採を求める企業と現採希望を繋ぐ人材紹介会社がある。日本の人材派遣とは異なり、双方が登録するとその紹介会社が面接をセッティングする。採用が決まり、規定の期間(多くが研修期間1~3ヶ月)雇用すると、規定の報酬金を採用企業が紹介会社に支払うというものだ。現採希望者は一銭も費用を払わず、就職ができるという仕組みである。

◆「右も左もわからん日本人」は現地採用も難しい

 しかしながら、その現地採用も年々難しくなっているのが現状だ。

 20年くらい前はタイに進出する企業もタイのことがわからないので、日系であれば最低でもタイ語ができる日本人現採を求めていた。それが徐々に日本企業間のビジネスが拡大してきたので、極端な話、英語もタイ語もできなくてもよく、日本のしきたりがわかる日本人なら誰でもと、引く手数多の時代が来た。

 しかし、タイ人の大卒が増えている今、そういう時代も終わりつつある。タイ人の従業員のスキルも上がっているため、右も左もわからない日本人はいらないという日系企業が増えてきたのだ。

 タイに来てまで日本の企業に勤める必要はないと思う人もいるだろう。確かに、タイ企業も日本人現採を求めてはいるが、タイ語がかなりできる上にタイの習慣に精通していないとかなり難しい。突然の解雇や不当な扱いというのはいまだに少なくないためだ。

 欧米企業もあるが、こちらもまた日系企業以上に即戦力を求める傾向にある。海外留学するタイ人も今や少なくないので、そういった若い地元戦力と比較すると、タイのことを知らない日本人の競争力は低いと言わざるを得ない。

◆日系企業現地採用で強みになる「ある部分」とは?

 そうなると、日系企業の方が就職しやすいのだ。しかし、企業も誰でもいいというわけではない。その業界においてまったくの未経験でも採用の可能性があるものの、「ある部分」がないと厳しいと、タイに留学経験もあり、現採歴が10年を超えるDさんが言う。

「若い人で社会人経験ないと結構厳しいかな。英語、タイ語がネイティブとか、海外経験が豊富とかならチャンスはあると思いますが」

 例えば製造業だと、日本では生産はせずにタイを拠点にしているという企業は少なくない。そうなると、ビジネスシーンにおけるスピード感は日本よりも早くなるとも言える。営業担当だけでなく、事務員でさえもその流れに乗る必要があり、業界経験値があるに越したことはないが、総合的な社会人経験がないと厳しい。

 同時に先にも述べたようにタイ人の会社員レベルも高くなっている。以前は遅刻はする、報告はしない、責任感はもちろんなし、という者が散見されたが、タイ社会でもその風潮は変化しつつある。ある日本人に聞くと、「あくまで私の周りでの印象ですけどね、確かにあまり若い日本人の現採を最近は見かけませんね。若い子ができる範囲はタイ人ができちゃっている感じです。正直、最近のタイの若い子は仕事できるのが多くなりました」と言う。

 この人物はSNSなどではタイ人会社員にわりと痛烈な批判をいつも書き込むタイプなのだが、それでもタイ人の会社員スキル向上を認めている。

◆バンコク以外ならまだチャンスも

 こうなると社会人経験ゼロの日本の若者は海外で就職することは難しいのだろうか。筆者は日本の学生が就職活動で苦労している話をネットで見かけるたびに、世界に出ればいいのに、タイに来ればいいのに、と思うのだが、もう時代が違うのだろうか。

 しかし、これはあくまでもバンコクの話で、製造業に勤めるU氏は他県ならまだチャンスはあるという。

「未経験でもPCスキル、英語ができれば、まだまだ見つけられると思いますよ。特にチョンブリやラヨーンエリアは常に現採人材難ですから。会社員としての社会経験があればなおいいでしょうけど」

 チョンブリ県、ラヨーン県はタイ東部にあり、自動車工場など製造業者が多く集まる。この辺りはバンコクから離れているので、多少の不便はあるかもしれないが、ビーチリゾートが近いので、週末の休みには海で寛ぐことも可能だ。

◆自分から動くことでチャンスに繋がることも

 それでもバンコクがいい、という人もいるかもしれない。もちろん、バンコクでも若く未経験の日本人が現採として働き口を見つけることは不可能ではない。そもそも数千の日系企業がタイにあるわけだし、先の人材紹介会社に依頼して根気よく待てば、いつかは巡り合う機会もある。ただ、その間ビザや滞在費をすり減らすことになるので、落ち着いて過ごすことは難しいということだ。

 もしどうしてもバンコクで仕事を見つけたいならば、自分から動くこともチャンスに繋がるようだ。社会人スキルは多少あったが、タイ語は読み書きもできない20代のGくんは、グループとしては日本でも屈指の専門商社に就職が決まった。

「面接は全部で6社くらいだったかと思います。紹介会社を通して企業に応募していましたが、なかなか書類選考が通らず、大変でした。今回採用されたところは、ネットで見て直接応募しました。その姿勢といいますか、やる気といいますか、そこを考慮してくれたみたいです」

 紹介会社を通すメリットは希望する条件で就職先を斡旋してくれることと、万が一、本採用されなくても次を紹介してくれたり、採用後のアフターケアもあることだ。しかし、それだけが現採としての就職方法ではなく、こういった直接応募、あるいは人伝の紹介で採用されるケースもある。

 要するに、やる気さえ見せれば雇ってくれるところはあるのだ。やる気さえあれば、タイでもどこの国でもやっていけるのだ。ただし、多少でもどんな形であれ社会人経験があった方が、さらに有利になるというのが、今のタイの現採のリアルのようである。

<取材・文・撮影/高田胤臣>

【高田胤臣】

(Twitter ID:@NatureNENEAM)

たかだたねおみ●タイ在住のライター。近著『バンコクアソビ』(イースト・プレス)

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