高齢化社会が抱える「看取り難民」問題。このままでは「亡くなる場所」が不足する

HARBOR BUSINESS Online / 2019年9月26日 15時31分

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 人口の約3割を高齢者が占める日本。高齢化にともない、問題となっているのが「人生の終わりを迎える場所不足」だ。

 多くの場合は病院で亡くなるが、このままでは病床が足りないことで死を迎える場に困る「看取り難民」のリスクが高まっている。

 この現状を解決するため、2013年の開院以来、在宅医療と在宅での看取りに力を入れている医師がいる。東京都板橋区にある「やまと診療所」院長の安井佑氏だ。

 安井氏は、「都市型在宅医療に異業種の若手が必要な理由」というテーマで9月上旬、イベントに登壇。在宅医療を取り巻く現状と、医師を支えるPA(Physician Assistant)の重要性について話した。

◆2035年には、約47万人の看取り難民が生じる

 安井氏によれば、「最期を自宅で迎えたい」と思う人は約70%いるが、希望通り自宅で亡くなる人は10%にも満たない。

 しかし、病床が不足していることに加え、少子高齢化による労働人口の減少によって医療従事者の確保が難しくなってきている。この状況では、増え続ける高齢者を受け入れられず、現在の医療体制の維持はできない。

 中央社会保険医療協議会の試算によると、2035年には約47万人の「看取り難民」が生じるという。とりわけ、人口が密集する都市部では喫緊の課題として重くのしかかる。

◆余命1か月の女性「夫と過ごせて幸せ」

 やまと診療所の診療地域は、板橋区のほか、隣接する練馬区、北区などに及ぶ。新規患者数も看取り数も増え続けており、2017年は新規患者数550人、看取り数206人、2018年には新規患者数759人、看取り数279人だった。

 プレスイベントでは、実際に在宅医療を受け、最期を迎えた患者の映像が流れた。重症患者の治療をする「急性期病院」から自宅へ戻った女性は、夫と2人で過ごせて「幸せです」と涙ながらに話していた。

 当初は余命1か月と言われていたが、その後は夫と口喧嘩をするほどまでに回復。在宅医療を始めてから3か月半後、夫に看取られて息を引き取った。

 病院では面会時間に制限があるほか、食事時間や就寝時間も決まっている。そのため、患者も家族も自由度が低い。対して在宅であれば住み慣れた環境で余生を過ごせる。

 やまと診療所では、24時間365日の安心サポートや、地域にある介護施設と連携したチーム医療を実現している。人材が不足する中、質の高い医療を行うために不可欠なのが「在宅医療PA」の存在だ。

◆3分の2が異業種からの転身。医師の診療業務が40%→70%へ改善

 医師が診療に集中できるよう、安井氏が取り入れたのが、「在宅医療PA」だ。PAとはPhysician Assistantの略で、主な役割は、医師のサポートをすること。アメリカでは国家資格で、医療を支えている。安井氏はここから発想を得て、やまと診療所に合うよう、活動内容や教育体制を整えた。

 効果は大きい。以前は、医師の業務は診療に加え、書類の作成や患者がどのような最期を迎えたいかの希望を聞いたり、そのための環境を整えたりすることも含まれていた。だが在宅医療PAの活躍により、医師がより診療に時間を充てられることになった。さらに、やまと診療所の在宅看取り患者数は2014年には93人だったが、2018年には279人にまで増加した。

 安井氏が大切にするのが、チームでの医療だ。医師、患者、ケアマネなど関わるいろいろな人が協力して、生活支援や医療に取り組む。在宅医療PAは、患者の気持ちを汲み取り、チーム内に共有する。安井氏は「コンダクター(指揮者)のような役割」と位置付けている。

◆患者、家族が望む最期を迎えられるようサポートする

 やまと診療所には30人のPAがいるが、うち3分の2は医療系ではない異業種からの転職者だ。事務職、ショップ店員などバックグラウンドはさまざまだ。

 入社後は診療所での事務作業からスタートし、医師とともに現場に出て行く。運転や医療記録のチェックなどを行い、医師が診療に集中できる環境を整える。およそ3年で認定PA(一人前に仕事ができる状態)になれる。

 プレスイベントでは2人の認定PAが登壇し、仕事を通じて感じたやりがいや厳しさ、在宅医療PAへの想いを話した。死を前にすれば、本人も家族も心が揺れる。在宅医療PAとして患者本人、家族の希望を聞き、できる限り望む形での最期を迎えられるようにする。そのスタンスの大切さを2人は強調した。

◆在宅医療の専門家がつくる日本初の病院を開設予定

 今後の活動として、安井氏が取り組んでいるのが「地域包括ケア」だ。

 地域包括ケアとは、「重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されるシステム」のこと。

 病気になったら病院、介護が必要になれば介護サービスを受けられるなど、高齢者を地域全体でサポートしていく、というイメージだ。急性期病院、地域病院、介護施設など機能が異なるさまざまな施設が連携していく。

 安井氏は、「自宅で自分らしく生きる。」を目標とし、2021年4月板橋区内に「おうちにかえろう。病院」を開設予定。病床は120床で、医療以外には看護、リハビリ、介護、歯科、薬剤すべてをシームレスにつなぐ。入院の目的は治療ではなく、「退院」つまり「自宅に帰る」ことだ。在宅医療の専門家がつくる日本初の病院となる。

<取材・文/薗部雄一>

【薗部雄一】

1歳の男の子を持つパパライター。妻の産後うつをきっかけに働き方を見直し、子育てや働き方をテーマにした記事を多数書いている。

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