日本映画不毛の地だったロシアの映画祭で8本の日本映画上映、急速に進む日露の文化交流

HARBOR BUSINESS Online / 2019年10月11日 8時31分

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上映シアターの前で。プログラムディレクターと日本から来た映画人たち

◆ロシアの映画祭で8本の日本映画が上映

 日本人がまだ誰も踏んだことのないレッドカーペットを踏んできました。ロシアの五大映画祭の一つ「第17回アムールの秋映画祭」(ロシア連邦アムール州政府主催)で、日本映画を紹介する「日本シネマデイズ」が開催されたのです。

 俳優の松尾貴史さんやダンサーのJUN AMANTOさん、映画評論家の二井康夫さんなどが審査員をつとめ、応募作や推薦作から選ばれた『くらやみ祭りの小川さん』(浅野晋康監督)、『ひとりじゃない』(鐘江稔監督)、『Lemon&Letter』(梅木佳子監督)、筆者が監督をつとめた『はじまりの日~ベーシックインカム元年~』、そして森達也監督の最新作『i-新聞記者ドキュメント』の世界一早い“特報”など、8本の日本映画が上映されました。

 ロシア語の字幕をつけ、3日間の上映に臨みました。日本からは監督映画『ひとりじゃない』の鐘江稔監督、主演の小林涼子さん、女優の深月ユリアさんなど、俳優・映画支援者8名が現地へ同行しました。

 9月14~22日の間、朝から夜までブラゴベシチェンスク市内の7つの会場と、アムール州他地域で開催。町中に映画祭関連のポスターが大きく掲げられていました。

◆最優秀賞は39歳女性監督のデビュー作品

 ロシア連邦外交部部長やロシア連邦文化庁文化副部長、アムール州政府知事、ロシア映画協会の会長が祝辞をよせ、アムール州州都のブラゴベシチェンスク市市長がこの映画祭を全面的に応援。

 コンペティション(審査)の対象となる12本のロシア長編作品と、25本の短編映画、14本の長編芝居やミュージカルなど舞台芸術の実演、日本映画8本を含む12本の招待作品が上映されました。来場者は4万人。21万人いる州都の5人に1人が参加する計算になります。

 コンペ部門で対象とされる条件は、この「アムールの秋映画祭」で初上映されるということ。国際映画祭で30の賞を受賞した大御所の監督と、大学を卒業したての新人監督が一緒にコンペディション部門に参加しています。

 この映画祭では、テレビドラマのプロデューサー監督であるフルマン・ブラッドさんが審査委員長を務め、市民からの投票で観客賞が選ばれます。

 今年の最優秀賞には、39歳の女性監督(ポリーナ・ブランデンブルク監督による「AD LIBITUM」が選ばれました。社会的に成功したテレビプロデューサーが事件に巻き込まれていくサスペンスドラマです。

 観客が選ぶベスト映画には、大学を卒業したばかりで今回がデビュー作となる、ブラディスラボ・バクノヴィッチ監督の「ミートグラインダー」が選ばれました。高校生が、夢をつかむために格闘技に挑戦する青春ドラマです。

 どちらも監督デビュー作。新しい才能を見つける登竜門として映画祭が機能しています。

◆映画界では中露の協力が進む

 25本の短編映画は、「アムールの秋映画祭」で上映後、中国の大連市で行われる短編映画祭で上映されることが決まっています。ロシア人俳優と中国人女優が演じたラブストーリーを露中2か国の監督・プロデューサーが制作した、『陵水謡』(アンドレイ・ミスキン監督・江流監督合同作品)の招待上映もあり、ロシアと中国の映画界の深いつながりを感じました。

 ブラゴベシチェンスク市から650メートル先の、アムール川中央部分が中国との国境にあたります。2020年4月には中露で半額ずつ負担して作られた橋が架かります。

 中国政府が進める、ヨーロッパやアフリカまでネットワークを広げる「一帯一路」政策においても、ブラゴベシチェンスク市の重要さは増してくるものと思われます。

 モスクワ映画祭などに比べるとローカルなイメージのある「アムールの秋映画祭」ですが、ロシアマーケットと中国マーケット双方にアピールできる可能性も出てくるかもしれません。

◆ロシアの映画業界は右肩上がり

 ロシアでは近年、国産映画の質・量の向上に国を挙げて取り組んでいます。ロシアでは年間600本の映画が興行されますが、そのうちの4分の1が国産映画です。

 ロシア映画のトップ25本の興行収益は、2017年合計で250億円。日本の邦画市場の約4分の1の規模です。1本あたりの興行収益は日本よりまだ少ないものの、その収益は右肩上がり。

 ロシア文化省が費用を出したロシア映画の数は2013年には59本でしたが、2016年には136本。たった3年で倍以上に増えています。「芸術性を大切にしつつ、前のめりでいろんなことをやってしまおう!」という勢いがロシアの映画界にはあります。

 CG技術の向上によって、ハリウッドさながらのアクション映画も増えています。2018年にロシア映画史上最高興行実績を上げた、ド迫力の戦闘アクション映画『T-34』(アレクセイ・シドロフ監督)は40億円の空前の大ヒット。

 第二次世界大戦中のソ連捕虜兵がソ連の戦車でナチスドイツの収容所から奇跡の脱出劇を繰り広げる作品です。10月25日からは日本でも公開予定。異次元ともいえるド迫力な音や映像の演出が印象的。劇場で見ることをお勧めします!

 ロシア映画は、南米や中国ヨーロッパなどでも配給されていて、ロシア政府がその後押しをしています。ロシアではハリウッド映画がよく上映され、フランスや北欧の映画も上映されていますが、日本映画はほとんど上映されていません。

◆来年以降も日本映画を上映、審査対象にも!?

 ロシアで「好きな日本映画関係者は誰?」と聞くと、1974年に『モスクワわが愛』でロシア人男性を魅了した女優の栗原小巻さんと、宮崎駿監督以外の名前は出てこないというのが現状です。

 そんな「アジア人は中国人しか知らない」という人の多いブラゴベシチェンスク市で、私たちは9月14日から16日まで3日間にわたる「日本シネマデイズ」を開催したのです。

 連日、200席の日本映画上映会は満席でした。「情緒がある」「日本には芸者や忍者しかいないのかと思っていたが、現代的な暮らしがあってロシアと変わらないんだ」「日本に行ってみたくなった」「日本のお祭りのことを知ることができて楽しい」など、多くの感想がありました。

 映画祭のプログラムディレクターであるアレキサンドラ・ジューコワさんや、代表のセルゲイ・ノヴォジーロフさんは、「来年以降も、日本映画を紹介しよう。来年は日本映画を審査対象としよう」と語っていました。

 ロシア全土のテレビニュースでも日本映画祭について報道されました。その影響か、ウラジオストク総領事館やネヴィッチ市など、ロシアの他地域からも日本映画上映のオファーが来ています。

 また、私たちは日露協会のブラゴベシチェンスクマリーナ代表の協力により、日本語を学ぶ学生と交流することができました。ブラゴベシチェンスク市の文化センター長や文化部長の案内で、地元の指人形を一緒に作るワークショップも体験しました。

◆筆者が監督した映画がナリチク国際映画祭に

 シングルマザーが奮闘しながら生きる姿を描く、筆者が監督した『はじまりの日~ベーシックインカム元年~』にも、「泣きそうになった」とロシア人の母親たちから共感の声が上がりました。

 審査委員長のフルマン・ブラッドさんからは「ジャーナリズム的な部分と、日本ならではの感覚をうまくまとめていて、とてもいい仕事だ」との評価をもらいました。そして、10月14日からコーカサス地方のナリチク(ロシア連邦カバルダ・バルカル共和国の首都)で開催される、ナリチク国際映画祭に出品することになりました。

 さらには「来年の映画祭には日露の合同映画を作ろう!」と、でホルン奏者である今瀬康夫・極東連邦芸術大学名誉教授とのプロジェクトも準備を始まりました。ロシア全土で日本映画が上映されることを夢見て、今後も日露の文化交流を続けていきたいと思っています。

<文・写真/増山麗奈>

【増山麗奈】

ますやまれな●ユーラシア国際映画祭代表理事

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