アマゾンの謎の通信規格、「Amazon Sidewalk」って何だ?

HARBOR BUSINESS Online / 2019年10月17日 15時31分

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Amazon Devices Event 2019で発表されたニューガジェット。写真/Amazon

◆アマゾンが、IoT向け通信規格 Amazon Sidewalk を発表

 9月の下旬、アマゾンは米国シアトルの本社で開催した「Amazon Devices Event 2019」で新製品を発表した。スマートグラス「Echo Frames」や、アレクサ対応の指輪「Echo Loop」、ワイヤレスイヤホン「Echo Buds」、最新版Echoスピーカーなどとともに、ある技術が発表された。IoT向けの新通信技術「Amazon Sidewalk」だ(参照:BUSINESS INSIDER JAPAN/MONOist)。

 新製品の発表会なのに通信技術が発表されるのは奇妙に思える。しかし、新しい製品を出すには、新しい技術が必要なこともある。実際に、Amazon Sidewalk を利用した製品も2020年内に発売予定だ。飼い犬向けのトラッカー「Ring Fetch」である。ペットがエリア外に出たら知らせてくれる製品だ。この製品のポイントは、バッテリーが年単位で持つことだ。

 アマゾンは、Amazon Sidewalk のプロトコル仕様を公開して、サードパーティーによる製品開発を促す方針だという。IoT向デバイスでは、消費電力が低いことが要求される。頻繁に充電したり、電源に接続しなければならない製品は、それらを使う人間側のコストが高い。一度設置すれば、数年にわたってメンテナンスフリーで動くことが望ましい。そうした機器を実現できる通信技術。アマゾンは、Amazon Sidewalk でその世界のハブになろうとしているのかもしれない。

 というわけで、Amazon Sidewalk がどういった技術なのか、少し見ていこう。

◆Amazon Sidewalk の背景にある、現状の技術の問題点

 Amazon Sidewalk については、『Introducing Amazon Sidewalk』というページがある。そこではこの技術が、既存の技術の隙間を縫うものだと解説されている。Bluetooth や Wi-Fi 接続は距離が短く、5G は複雑過ぎると書いてある。

 Bluetooth は、1989年にスウェーデンのエリクソン社主導で提唱された近距離用無線通信規格だ。2.4GHzの周波数帯を使い、半径10メートル以内の機器と接続できる(参照:コトバンク)(より出力の大きな Class 1 では、到達距離は100mとなる)。

 Wi-Fi は、アメリカ電気電子学会が標準化した高速無線LANの規格だ。2.4GHzの周波数帯を使い、屋内では数十メートルの到達距離となる。また、5GHzの周波数帯を使うものも出ている(参照:コトバンク)。Bluetooth も Wi-Fi も、100メートル以下の短い距離を想定した規格と言える。

 対して 5G は、第5世代(5th Generation)無線移動通信技術の略称である。より高速な通信を目指しており、高周波数帯の電波の利用が必要になる。日本では、3.7GHz帯、4.5GHz帯と28GHz帯の電波を5G用に割り当てることになっている。1平方キロメートル当たり100万台の端末を同時接続でき、リアルタイム性の高い用途に向く低遅延を目指している(参照:ITmedia Mobile)。

 こうした様々な要望や用途を実現するために、5G は高度な内容になっている。Introducing Amazon Sidewalk のページで「5G は複雑過ぎる」と書いてあったのも分かる。屋外使用を想定した飛距離を持ち、低電力で、シンプルな規格が欲しい。そう考えるのも当然だろう。

 Amazon Sidewalk は、900MHzの周波数帯を使う。Bluetooth や Wi-Fi、5G に比べて低い周波数帯を利用する。その分、高速な通信は望めない。ただ、通信量が多くないのなら、そもそも高速である必要はない。その代わりに低い周波数ならば、同じ消費電力でより遠くまで電波を飛ばすことができる。Amazon Sidewalk を利用した場合、デバイスの接続範囲は1キロメートル以上になるそうだ。電池の持ちは、先述の通りである。

 Amazon Sidewalk で使う900MHzは新しいものではなく、数10年前から利用されている。北米や欧州の無線呼び出し(日本のポケベルのこと。日本では250MHz帯を使用していた)はそのひとつだ。

 この周波数帯は、日本ではプラチナバンドとして2012年の2月にソフトバンクに割り当てられた。それ以前は、同報機能やグループ通信機能等を有する自衛系移動通信システム、また、陸上運輸、防災行政無線、タクシー等の分野で使用されていた。この用途の通信は、900MHz帯の別の周波数に移行している(参照:総務省)。

 アマゾンでは、この技術の実験を、従業員とその家族や友人でおこなった。Ring 照明機器700台を利用して、南カリフォルニアのロサンゼルス盆地の大部分をカバーしたという。大都市圏を700台の機器でカバーできるのは、かなりの効率だと言える。

 また、Amazon Sidewalk は、セキュリティ面への対処もうたっている。Amazon Sidewalk 対応機器は、Amazon Sidewalk ネットワークを利用することで、セキュリティ更新プログラムにアクセスすることが可能になっているという。

◆IoT機器向けの通信規格

 実は、この周波数帯近辺を使うIoT機器向けの通信規格は、Amazon Sidewalk だけではない。LPWA(Low Power Wide Area-network)として、様々なものが出てきている。それらは、Amazon Sidewalk と同様に、省電力かつ長距離での無線通信が可能という特徴がある。

 920MHz帯を用いたLPWAには、LoRaWAN、Sigfox、ELTRES がある。セルラー通信(LTE)を用いた LPWA には、LTE-M、NB-IoT といったものがある(参照:MONOist)。

 Amazon Sidewalk が、こうした先行規格とどのような差別化を図っていくのかはまだ分からない。おそらく、Amazon Echo などの機器をハブにして、独自のネットワークを作るのではないかと想像する。Amazon Sidewalk はプラットフォームを握る戦略の一環なのだろう。いずれにしても、今後どのようにアマゾンがこの技術を広めていくのか注視していきたい。

<文/柳井政和>

【柳井政和】

やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。

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