萩生田文科相の「身の丈」発言、形だけの謝罪・撤回だけで終わらせず大学入試改革の本質的な問題点追及を

HARBOR BUSINESS Online / 2019年10月30日 8時33分

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閣議後記者会見で「身の丈」発言を撤回する萩生田光一文部科学相=29日、文部科学省(時事通信)

◆萩生田文科相が「身の丈に合わせて」と発言

 萩生田光一文部科学相は10月24日、2020年度から活用される英語の民間試験について、「身の丈に合わせて」受験してほしいと述べた。

 この発言が報道されるや否や、「格差を容認するのか」と批判が殺到。萩生田文科相は28日に「受験生に不安を与えかねない説明不足な発言であった」と謝罪した。しかしこうした発言を不用意にしてしまう萩生田氏は、教育行政の役割について理解できていないと言わざるを得ないだろう。

◆受験にかかる受験料や交通費、裕福な家庭の子どもが有利に

 萩生田氏が問題の発言をしたのは、BS番組においてだった。キャスターに、英語の民間試験は不公平ではないのかと問われ、こう答えた。

「それを言ったら、『あいつ予備校通っていてズルいよな』と言うのと同じだと思うんですよね。だから、裕福な家庭の子が回数受けて、ウォーミングアップができるみたいなことは、もしかしたらあるかもしれないけれど、そこは、自分の身の丈に合わせて、2回をきちんと選んで勝負して頑張ってもらえば」

 2020年度から導入される英語の民間試験については、経済格差を固定するものだという批判がすでに繰り返しなされている。利用できる試験は、「ケンブリッジ英語検定」「英検」「GTEC」「IELTS」「TEAP」「TEAP CBT」「TOEFL iBT」の7種類。受験料が2万5000円を超えるものもある。

 大学受験で採用されるのは、高校3年生の4~12月に取得した2回分の成績。しかし受験料を負担することができるならば、試験に慣れるために何度も受験することは可能だ。そのため、裕福な家庭の生徒が有利になるのは自明だ。

 また民間の試験は、実施される会場が限られている。大学入試センターの会場は全国に693か所(2019年)設置されていた。しかし民間の試験は、英検でも約260会場。試験会場が近くにない場合は、交通費や宿泊費を負担して受験することになる。

 文科省の発表によると、民間の試験を出願資格や合否判定の材料にする大学は561校で全体のおよそ半数に留まる。しかし東京大学や早稲田大学を始めとする主要な国立大学・私立大学の多くが民間試験の利用を決めており、多くの受験生に影響が出る。

 英語科目における民間試験利用を取りやめない限り、経済格差が機会の不平等に結びつく恐れは解消されないだろう。文科省は、居住地や家庭の経済環境によって差が出ないよう、公平な試験を実施すべきだ。

 すでにある格差解消も急務だ。萩生田氏の言うように、裕福な家庭の子どもの方が、私立の学校に通ったり、予備校に通ったりして、大学受験を有利に進められるのが現状だ。家庭に余裕がなくて浪人を許されず、安全圏の大学しか受験できない生徒もいる。

 そもそも大学の授業料が高騰を続ける中、進学を諦めたり、貸与型の奨学金で莫大な借金を背負ったりすることもある。教育の機会均等を実現するのが文科省の役割ではないのか。

◆主導した安西・元慶応塾長とベネッセグループが結託?

 英語の民間試験導入においては、テストの公平性が犠牲になる影で、民間の事業者が利益を得る構図になっていることも指摘しておきたい。

 ベネッセグループは、民間試験の一つに指定されている「GTEC」を運営。関連する教材や公式のガイドブックも販売している。さらにベネッセホールディングスの子会社である「学力評価研究機構」は、共通テストに導入される記述式の採点を約62億円で受託している。

 こうした中、ノンフィクション作家の広野真嗣氏は、利益相反を指摘する。(参照:「大学入試改革の旗振り役 慶應元塾長に利益相反疑惑を直撃」)民間試験の導入を主導した元慶應義塾大学塾長の安西祐一郎氏が、ベネッセとともにGTECを共催する「進学基準研究機構(CEES)」の評議員になっているという。

 加えて、同機構の理事長は、文部事務次官を務めた佐藤禎一氏だ。ベネッセは、文科省が約50億円の予算を投じる「全国学力学習状況調査」をこの5年間毎年落札してもいる。広野氏は、「『民間試験導入』でベネッセは新市場を、導入を主導した安西氏はポストと報酬を、文科省は新たな天下り先をそれぞれ手に入れる──そんな構図が見えてくる」と批判している。

◆教育以外の領域でも疑われる利権の構図

 こうした利権構造は、人材派遣や水道民営化を巡っても指摘され続けてきた。水道民営化は、すでに導入されている諸外国で、料金の高騰や水質悪化を招いており、根強い批判がある。この水道民営化を含め、官民連携を推進する「民間資金等活用事業推進室(PPP/PFI推進室)」にフランスの水メジャー・ヴェオリアの社員が加わっていたことがわかっている。

 同社は実際に、下水道のコンセッション契約を決めた静岡県浜松市と契約しており、利権化している疑いが強い。(水道事業に民間参入を促そうしているのは誰なのか。内閣府PFI推進室を巡る利権の構造)

 教育や水道といったサービスを市場に開放し、民間の事業者が利益を得る。その一方で公共性が掘り崩されているのならば、由々しき事態が進行していると考えざるを得ない。

 例によって「そう受け止める人もいた」というお決まりの言葉とともに「形だけの謝罪・撤回」をした萩生田大臣。また、メディアも「失言」程度の認識で報道をしている。

 問題の本質は制度自体に格差を固定化する設計になっている点だ。野党及び有権者は、そこを見誤らず、単なる「失言」騒動として終わらせてはいけない。

<文/HBO編集部>

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