麻薬王の息子逮捕に向かった35人の国家警備隊に200人の殺し屋が反撃。岐路に立たされるアムロ大統領の対カルテル政策

HARBOR BUSINESS Online / 2019年10月31日 15時30分

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 10月17日、麻薬王ホアキン・グスマン(エル・チャポ)の息子のひとり、オビディオ・グスマン(エル・ラトン、28歳)がメキシコの国家警備隊に逮捕されたが、彼のカルテル組織シナロアの猛攻な反撃を受けて釈放するという事件があった。

 この事件後に、逮捕から釈放に至るまでの背後にあった状況が次第に明らかにされつつある。

◆メキシコのアムロ大統領の「太陽政策」と米国の思惑

 まず、米国の麻薬取締局(DEA)が オビディオ・グスマンの居場所を突き止めた時に、在メキシコ米国大使館のカルロス・パスクアル大使はそれをどこに伝えるべきか困惑していたことがウィキリークスによって明らかにされた。つまり、メキシコ軍、連邦警察、あるいは海軍。どの相手も信頼するには十分ではないということなのである。というのも、マヌエル・アンドレス・ロペス・オブラドール(アムロ)が大統領に就任して以来、それまでメキシコ政府が12年間採用して来たカルテルのボスを徹底して捕まえる戦術ではなく、アムロは彼らに対して柔軟な姿勢で取り組んでより平和的な理解を求めて彼らによる暴力を減らそうとしていたからである。ところが、事態は逆にカルテルはより狂暴になって行ったというのが現状である。(参照:「Infobae」)

 オビディオ・グスマンを捕まえて米国で裁く為に送還するのを望んでいる米国にとって、アムロのカルテルに対する柔軟な取り組みに不信の念をもっている。そのため、パスクアル大使はこの3つの組織にその情報を流すのではなく、彼らと情報を共有してカルテルのボスを追跡している米国の諜報員チームに大使はそれを伝えることにしたということなのだ。

 ただ、最終的にメキシコの軍と警察が米国の諜報員からの情報を受け取ってからの対応は、オビディオ・グスマンを捕まえるということで今回は一致した。特に、アムロは、彼を逮捕しないでいることで、米国にメキシコ政府がカルテルと共謀して彼を逮捕しようとしていないと思われることを懸念したからである。

 アムロの脳裏にあるのは米国、カナダ、メキシコの新自由貿易協定T-MECがまだ米国の議会で批准されていないことを考慮してオビディオ・グスマンを逮捕しないでいると、その批准にマイナス影響するのではないかと懸念しているというのだ。(参照:「Infobae」)

◆裏目に出たアムロ大統領の判断

 しかし、アムロはカルテルに取り組む姿勢に不慣れなのか、あるいは生ぬるいのか、カルテルの幹部を捕まえるのに通常であれば強烈な印象を与えるほどに大勢の部隊を派遣するのが常識である。ところが派遣したのは僅か35人からなる国家警備隊であった。

 それに対してシナロアが即座に対応したのは200人の殺し屋を送ったのである。それも不意を衝かれての反撃ではなく、そのような事態が発生した場合はどのように対応すればよいのかということに事前の訓練をしているというのが伺えた反応だというのだ。

 オビディオ・グスマンがいる場所だけではなく、市街の主要なアクセス地点を包囲し、車を放火したり、軍人や警察官の家族が住んでいる地域にも侵入して政府を脅威にさらした。更に、オビディオ・グスマンを釈放することに決めた決定的な要因となった2つのビデオを警備隊本部に送った。このビデオのひとつには捕捉に向かった警備隊員少なくとも6人が逆に彼らに拘束されている画像が映しだされていたということ。もう一つのビデオは隊員のひとりが頭に銃弾を撃ち込まれて死亡している映像であった。(参照:「Sin Embargo」)

◆米軍使用の重機関銃で武装したカルテル

 更に、カルテルが反撃に持ち込んで来た武器のひとつに米軍が使用しているブローニングM2重機関銃がある。1分間に500発以上発射でき、この性能を凌駕するものは今のところないという代物である。

 国防省の報告によると、メキシコでは毎年20万件の武器が密輸入されているという。その7割は米国からである。この10年間に200万件の武器が密輸入されて、政府は僅かに19万3000件を押収しただけだという。

 カルテルが如何に容易に武器を手に入れているかということを示すものとして、米国との国境にある49か所の税関で29か所は密輸入を摘発できるだけのインフラに乏しいとされている。また通関でトラックの重量を計る際にその重さに不審があってもそれを追求できない掟になっているというのだ。摘発すれば検査を担当した検査官の家族が報復される可能性があるということなのだ。(参照:「Sin Embargo」)

◆面目丸つぶれとなった国家警備隊

 結局、国家警備隊は彼を釈放することを決めたのであるが、その決定を誰がしたのか未だに明らかにされていない。しかし、メディアやソーシャルネットではその決定に憤慨していることがコメントされ、特に軍部では強い憤りを感じているという。

 しかも、この事件があってから数日後にミチョアカン州の都市アギリリャで14人の連邦警察官が殺害された。同様にゲレロ州のテポチカにおいても軍隊と犯罪者の間で武力衝突があり15人が死亡した。

 2007年から麻薬との戦いで25万人が死亡し4万人が行方不明になっている。

 アムロは大統領選挙選中に良い報酬と新しい装備を導入した国家警備隊の創設を提唱していた。カルテルや犯罪組織への取り締まりを強化しようとしていたのである。良い報酬というのは一部警察官や軍人がカルテルと密着することを避けるするためである。実際、連邦警察と軍隊から派生させた国家警備隊は創設されたが、現在のアムロは麻薬とカルテルへの取り組みに何をしようとしているのか明確な方針を示さないままでいる。また、カルテルと結びつきの強い麻薬の一部は合法化するとアムロは述べていたが、その後撤回するという事態も起きた。(参照:「Infobae」)

 結局、これまでの大統領が実施して来たようにカルテルを武力でもって撲滅して行くしかないのか。アムロ大統領は岐路に立たされている。

<文/白石和幸>

【白石和幸】

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

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