他人のツイートをリツイートしたら名誉棄損!? 橋下徹氏をめぐる裁判の異様な判決

HARBOR BUSINESS Online / 2019年11月9日 15時31分

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橋下氏勝訴の判決を出した大阪地裁 19年9月12日 

◆SNSのリツイートで名誉毀損

「ソーシャルネットワークサービス(SNS)で第三者の投稿をリツイートしただけで名誉毀損に問われ、賠償金を支払わされる」という判決が大阪地裁で出された。

 大手メディアが「リツイートで名誉毀損」「リツイートは賛同行為」と伝えたため、この一審判決は確定していないのに、SNS上では「私たちもリツイート、フェイスブックでシェアなどをする時に気をつけなければ」などと自粛を呼び掛ける投稿が目立っている。

 この裁判は、「日本維新の会」創設者、元大阪府知事・大阪市長の橋下徹弁護士が2017年12月、インディペンデント・ウェブ・ジャーナル(IWJ)の岩上安身代表を被告として、110万円の損害賠償を求めた名誉毀損訴訟(本訴、岩上氏も反訴)。大阪地裁第13民事部(末永雅之裁判長、重髙啓右陪席裁判官、青木崇史左陪席裁判官)は9月12日、岩上氏に33万円の賠償を命じる判決を言い渡した。

 岩上氏は判決後の記者会見で「仰天した。予想よりずっと悪い判決だ。橋下氏側の主張がそのまま受け入れられた不当な判決だ」と述べ、13日に大阪高裁へ控訴した。岩上氏の弁護団(団長・梓澤和幸弁護士)は11月2日までに控訴理由書を高裁へ提出する。岩上氏は「ネット空間における言論の自由を守るために身を呈して戦う。欠陥判決が確定判例になれば、将来に著しい禍根を残す」と述べ、高裁での逆転勝訴を目指している。

 末永裁判長が大阪地裁1010号法廷で読み上げた主文は次のようなものだった。

<1本訴被告は、本訴原告に対し、33万円及びこれに対する平成29年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2本訴原告のその余の請求を棄却する。

3反訴原告の請求を棄却する。

4訴訟費用は、本訴反訴ともに、これを5分し、その1を本訴原告・反訴被告の負担とし、その余を本訴被告・反訴原告の負担とする。

5この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。>

◆橋下氏の主張だけを採用した判決

 判決は本訴における橋下氏の主張を大筋で認め、反訴では岩上氏の主張を門前払いした。

 この裁判では、7月4日に行われた第7回口頭弁論(この日に結審)で、原告の橋下氏の訴訟代理人である松隈貴史弁護士(橋下綜合法律事務所)が開廷時間の10時半になっても法廷に現れず、書記官が廷内から事務所に電話を何度もかけて捜索する異常な出来事があった。松隈氏が、法廷が分からずに民事第13民事部に立ち寄ったことが分かり、その数分後に法廷に入った。約15分の遅刻だったが、松隈氏は裁判官に向かって軽く挨拶しただけで、被告側には謝罪もせずに着席した。末永裁判長は松隈弁護士に注意もせず、何事もなかったように開廷した。

 末永裁判長の訴訟指揮は、原告の橋下氏に有利な形で進められてきていたので、橋下氏寄りの判決が出ることもあるとは思ったが、裁判所が公人同士の言論上の争いに介入するのをためらい、本訴、反訴ともに請求棄却にするのではと予測していた。私には想定外の判決だった。

 筆者も判決を何度も読んだが、末永裁判長はSNSの機能と実態について、独自の解釈をしており、岩上氏のリツイート行為で名誉毀損を成立させた理由づけには問題が多いと思われる。

 また、この民事裁判は、原告も被告も著名な公人中の公人で、「表現・論評の自由を守るため、名誉毀損の認定は刑事、民事ともに抑制的に」という従来の法解釈を逸脱しており、原審が確定すればSNS上での自由な言論にとって大きな障害になる危険性がある。

 橋下氏の影響下にある「維新」と安倍官邸は、憲法改定などの政治課題で協力関係にあり、岩上氏の支援者からは「安倍官邸に忖度した法務官僚の結論が先にあった不当判決だ」という声が上がっている。

◆元ツイートは橋下氏の政治姿勢を批判したもの

 発端は、岩上氏が2017年10月29日、同月25日に一般市民による「橋下徹が30代で大阪府知事になったとき、20歳以上年上の大阪府の幹部たちに随分と生意気な口をきき、自殺にまで追い込んだことを忘れたのか! 恥を知れ!」というツイートを、コメントなしで1回リツイートし、数日後に削除したことだった。

 元ツイートの投稿者は、2017年10月の衆院選後、丸山穂高衆院議員(当時、日本維新の会)がツイッターに「議席減の衆院選総括と代表選なしに前に進めない」などと松井一郎代表を批判する投稿を行ったことに対し、橋下氏が「口のきき方も知らない若造が勘違いしてきた。言葉遣いから学べ」「代表選を求めるにも言い方があるやろ。ボケ!」などと罵倒するツイートを繰り返していたことを問題にした。

 元ツイートは、橋下氏が大阪府知事の時、20歳以上も年上の幹部職員に対して生意気な口をきき、職員を自殺に追い込んだことがあったではないかと指摘した上で、激しく非難していた。橋下氏は岩上氏に対し、事前の通知を行わず、「パワーハラスメントをする人物だという印象を与えた」として提訴した。橋下氏側は、岩上氏のリツイートによって受けた被害を立証しなかった。

◆「リツイートスラップ訴訟」と岩上氏の弁護団

 この裁判を「リツイートスラップ訴訟」と捉える岩上氏の弁護団(梓澤和幸弁護団長)は「リツイートを表現行為として名誉毀損に該当すると判断し、リツイート内容に含まれる事実関係に関する真実性・真実相当性についての岩上氏の主張を排斥した。

 SNSという双方向性の言論空間で、他人のツイート行為を単純にリツイートしたに過ぎない。公人に対する批判的意見の表明は、表現の自由(憲法21条)の観点から最大限に保障されなければならない。この精神にもとる不当判決を放置することはできない」とする声明を発表した。

 梓澤団長は会見で「名誉毀損裁判で、裁判官は自分の勝手な読み方をしてはならない。憲法は公人に対する批判的な言論を保証しており、相手に対する強烈な批判であっても許容される。自殺に追い込んだという元ツイートの投稿が、閲読者にどのように受け取られたかを読むのが裁判官に託された仕事のはずで、判決のような認定はあり得ない」と述べた。

 一方、原告の橋下氏は判決後、自身のツイッターとブログで「岩上安身氏からツイッターによる執拗な攻撃を受け続けてきましたが、一審で勝訴しました。リツイートはフェイクニュース拡散の元凶です。リツイートにも一定の責任が生じます。皆さん、気を付けましょう」「元ツイートに意見があるなら、コメントを付してリツイートしましょう。単純リツイートするならば、元ツイートの真偽を確認しましょう。リツイートにも一定の責任を求め、ツイッターの世界での名誉毀損拡散に歯止めをかける裁判例」と投稿した。

「他人のツイートをリツイートしたら名誉棄損となる」という異様な判決。この裁判は高裁でどうなるのか。今後の動向が注目される。

<文・写真/浅野健一>

【浅野健一】

あさのけんいち●ジャーナリスト、元同志社大学大学院教授

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